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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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波 1

 装甲バスの運転席へと移動すると戦闘車両の周りで竜胆隊が戦っている姿が見えた。


 タオルで体を拭いていたリンネはバスの無線を取って竜胆隊に連絡を取る。


「流石竜胆隊、無事ね」

『この状態が無事というのなら。この山猫ども、次から次に木の上から降りてくる。バスから降りるなよ』


「集団でいる私たちより孤立した竜胆隊を狙ってきたのね。囮助かったわ」

『好きでこんなことになっているわけではないが。今戦っているので最後だ、時期に倒し終わる』


「早く出発しましょう」

『少し待て、あの二匹寄ってきたやつをすべて排除する』


 生気を感じない目さえ見なければリンネは体のラインのしっかりしているスタイルの良い女性。

 さっきまでいろいろあってそれほど気にしている余裕はなかったが時間がたち落ち着くにつれ、肌の露出のほとんどない強化繊維の制服と違いほぼ裸の彼女の姿にテンマも目のやり場に困る。


「服着たほうがいいんじゃないか? 走り出したら車内揺れて着替える時間ないぞ、それとも心の荒んだ高層の住人にしか見えない服でも着ているのか?」

「今しがた死んでもおかしくなかったのに、軽口は止まらないのね」


 下着のまま車内をうろつくリンネに、濡れた制服を脱ぎ体を拭いていたテンマがタオルを振りながら指摘する。


「体を拭いたら着るわ。タイツはやむを得ないけど絞って乾かす、シワにすると帰ったとき裁縫部に怒られるのよね」

「何だ、この制服シワシワにすると怒られるのか?」


「寝るときも常に着っぱなしで、すでに制服がくったくたになったあなたには関係のない話よ」


 ブーツとタイツを脱ぎすてずぶ濡れになった下着を着替えると、テンマの持ち帰った制服を抱えてスカートだけを履いて助手席に座る。


「お待たせ、出発よ。あれが来てしまう前にさっさと逃げましょ」

「まだ竜胆隊は戦ってるぜ、後一匹だもう少し待てよ」


 脱いだブーツを逆さまにして中に入った水を流す。


「あ、床も後で拭かないと泥だらけで汚くなったわ。どこか休める場所があったらテンマよろしくね」

「そんなこと言ってられるなんて、だいぶ調子が戻ってきたな。泣きそうな声でなんか言ってた時より顔色もよさそうだ」


「ええ、まだ若干震えが止まらなくて落ち着かないけど、気分は戻ってきたほうよ。というか私のことよく見ているのね」

「まぁ、行方不明になった妹探してくれる唯一の協力者だからな、気にかけはする。というか追っていた追放者倒したんだし、これでもう霊峰樹海から出て大丈夫なんじゃないか?」


「いいえ、まだ待っているわ。倒したといっても彼らはごく一部ですもの、まだまだ樹海の外には追放者たちがいるわ」

「なんでそんなことわかるんだ千里眼か?」


「そんなところよ、なんであれまだ樹海から外へと出られない。あなたは殺されわたしは捕まる」

「……めんどくせえな」


 集まってきた生体兵器との戦闘を終えた竜胆隊が戦闘車両へと乗り込んでいき車両を発進させ川から上がる。

 強化繊維の黒いシャツを着たリンネは上着を漁って携帯端末を探す。


「竜胆隊、戦闘終わったみたいだぜ」

「そう、なら離れましょ」


 手にした携帯端末の画面を見て彼女はつぶやく。


「……もうあまり時間が」

「なんだ、どこかに爆薬でも仕掛けてあったのか!? そういうのは先に言ってくれよ」


 装甲バスは装甲車を避けようとしながらも川の深みを警戒しハンドルをきり、柔らかい地面から抜け出して硬い地面のほうへとタイヤを向けると無理やり車両を押しのけ走り出した。

 川を上がり蔦で覆われた道路に戻りモニターで後ろを見れば、更に集まってきた生体兵器たちが川に倒れる追放者たちに群がってく。


「無残に食われているわね。どう、跡形もなくなると人を殺した気持ちも和らぐでしょ?」

「いや、ちょっと前まで命の危機だったけど。ああいう姿見るとなんか可哀そうにならないか」


「ならないわ。人殺しの最後にはちょうどいい、とどめも刺したし噛まれても痛くはないでしょう」

「彼らが人殺しかわからないけど、それ俺らに刺さってるよな」


 装甲バスの後部を映すモニターで小さくなっていく彼らの最後を見ていると、追放者たちの乗ってきた装甲車の一台が跳ね飛び巨大な水しぶきをあげて川の深みへと沈む。

 そこには装甲車より大きな巨大な生体兵器の影。


「大型の生体兵器が出てきやがった! もう少し逃げるのが遅かったらやばかったな」

「だから早く行こうといったのよ、シートベルトを閉めなさい」


 そういってリンネはまだ濡れている上着にそでを通しシートベルトを締めテンマにも締めるよう促す。

 モニターは小さく生体兵器の形をはっきりと映していないが零れ日を反射させるぬめりのある長い体。

 その巨体には手も足もなく、動くたびにまだら模様な様々な表情を見せた。


「蛇……じゃないな! 鱗の光り方じゃない」

「そうね」


 二対の触角が左右に揺れる。


「カタツムリか!」

「ナメクジよ、殻なんてないじゃない」


 もごもごと口を動かし追放者たちに集まった生体兵器を生きたまま飲んでいた。

 丸呑みにされる山猫型は抵抗するが粘液に守られた体に傷はつかない。


「ナメクジって、草食だろ」

「あなた一体何年一般兵やってるの、他の生物の遺伝子情報を混ぜているんだから普通なわけないじゃない」


『後方に大型の生体兵器が出た』

「見ていたから知っているわ」


『霊峰樹海で確認されている特定危険種ショゴスだと思われる』

「ええ、特徴は大きいだけ?」


『肉食、触手を持ち先には毒針、戦車を横転させる力、そして大型に見合わず不整地でも早いだ』

「なるほど、逃げましょう」


 ショゴスは生体兵器に夢中で追ってくる様子はない。

 蔦や蔓で視界が遮られ大型の生体兵器の巨体が見えなくなるとテンマは胸をなでおろす。


「あいつこのまま追ってくるのかと思ったぜ」


 片手でハンドルを握り携帯食料に手を伸ばしたテンマだったが、戦闘車両が急にハンドルを切り車両の消えた正面から新たなショゴスが現れた。


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