捕縛 1
翌朝、テンマはすでに起きていてトランクに座り携帯食料をかじりながら窓の外、交代で休みながら生体兵器の襲撃に備えていた竜胆隊を見ていると後ろで寝ていたリンネが目を覚ましてむくりと起き上がる。
「そういうことね」
「吃驚した、どうした急に? 鼻血出てるぞ、床にぶつけたか」
起きて早々何かに納得したリンネは流れ出る血をローブの袖で拭いて寝袋から出てくると水筒を探しに運転席へと向かう。
「気にしないで能力の副作用みたいなもの」
「あんたいつも寝起きは隈つくってひどい顔だな、ちゃんと熟睡できてるのか? その能力寿命縮めてないか、俺が心配することでもないんだろうけど」
「昨日、私たちが寄った前線基地の近くに向日葵隊がいる」
「精鋭か? どうした突然?」
水筒の水を飲み干したリンネは携帯食料を持ちテンマのもとへと戻ってくると窓を開け外の冷たい空気を入れる。
「その待ち伏せに私らがかかった。私たちシェルターでも制服で過ごしていたしね。たまたま近くにいたから私たちの話をどこからか聞いたんでしょう。完全に飛び火よ」
「話が見えないぞ、説明してくれよ」
「面倒くさいわ、向日葵隊には王都の人間がいるのよ。本当はそっちを狙っていたけど、私の存在を知ってこっちにも来たってわけ」
「それで、どうしてこっちに来るんだ?」
「言ったでしょ誘拐して交渉するためよ。こっちに来たのは向こうが捕まえられなかった時の保険か、人質は多い方がいいってことでしょ。さぁ今日は忙しくなるわ」
「何で起きただけでそんなことわかるんだよ、寝てる間に魂でも抜けてその辺飛び回ってるのか?」
装甲バスの窓が開いたのを見てリンネが起きたのを知った竜胆隊から彼女の端末に通信が入る。
『起きたか、夜のうちに生体兵器同士での戦闘音も消えた。移動するなら生体兵器が動き出さない今のうち、日が昇り暖かくなる前あたりがいい』
「わかりました、ではすぐにでも出発しましょう」
『それで今日もこの樹海を走り回るのでいいのか。意見を挟むのは嫌だが、流石にここに長居するのは危険すぎる。生体兵器のレベルも低く倒せなくはないが集まってきた生体兵器との連戦などで時間をかけると部下たちに疲労がたまる』
「ええ、樹海に入る機会なんて今後ないだろうからもしかしたらの新種がないかを探してみたいの。今日見つからなかったら諦めます」
そして彼女が寝巻から制服へと着替えるのを待ち車両は建物を出た。
「鼻血といい隈といい、シェルター寄った時にどっかで見てもらった方がいいんじゃないか? 疲れてるならマッサージとかセラピーとかなんかあんだろ高層の人間が行くやつがよ。副作用が体に害をなすなら能力使わなきゃいいんじゃないか?」
「心配してくれるの?」
「あんたには妹を探してもらうんだからそれまでに倒れたりするなって話だ」
「まったく、そのやさしさに涙が出るわね」
隠れていた建物を出て川沿いに出る。
そして廃墟の街並みを走り出そうとしたところで、廃墟の改造植物の根によってめくれるように割れた道路の十字路の側面から6台の装甲車が突っ込んでくる。
「なんだ、あのボロは!? なんでこんなところ走ってるんだ?」
ハンドルをきってぎりぎりで装甲車の衝突を避け逃げるように走りだす。
「まだ頭動いていないみたいね、追放者よ。生体兵器が居るってのにわざわざここまでやってきたの、ご苦労なことね」
装甲車は速度を落とさずまっすぐ走ってきて戦闘車両と装甲バスはそれらを躱そうとハンドルを切りアクセルを踏んで逃げ出すがそこへ追放者が持ってきた火薬兵器が火を噴く。
放たれる無数の実弾が装甲板に当たって火花が舞う。
そしてさらに速度を上げて追ってきた装甲車が装甲バスの側面からの体当たりでぬかるんだ川のほうへと寄せていく。
「早いじゃねぇか、おいおいおいおい装甲車こんな速度出たか? 改造か、よくみりゃ装甲も減って軽くしてんな、いや壊れただけか」
川に寄せられ水しぶきを上げそれでも抵抗しようと必死にハンドルを握るテンマに頭を抱え姿勢を低くしたリンネが相槌を打つ。
「よそ見できるなんて余裕じゃない」
水とぬかるんだ泥にタイヤを取られ速度が落ちた一瞬で装甲バスの先頭へと回り込み強引に停車させた。
竜胆隊の乗った戦闘車両も装甲バスを置いてはいけずにすぐ横に停車する。
「こんなところまで来やがったのか、どんなに強くても一般兵程度だろ?」
「そうよ精鋭でもないのに生体兵器が怖くないのかしらね。そこまでしてシェルターの内側で住みたいのかしら」
「生体兵器の脅威に怯えなくていいのならなんだってするだろうよ。前も後ろもぴったり張り付けられた、くそ逃げ切れないか足場が悪くて押しのけようとするとタイヤが空回りする。こっちの方が重いんじゃないのかよ」
テンマがアクセルを思い切り踏んで道を塞ぐ装甲車を押しのけようとしたが不安定な地盤でタイヤが水中で泥を巻き上げ空回りをし道を塞ぐ車両を押しのけることができない。
「駄目だ動かない、どうする窓から逃げるか?」
「こうなったら仕方ないわ、おとなしく捕まりましょう。抵抗はしなくていいわ怪我するだけだから」
リンネの声が強張り扉を見る。
「大丈夫なのかよ」
「大丈夫よ、ここでの失敗は私次第で簡単に乗り切れる」
扉にシェルターなどで回収した金属を裁断するとき用のカッターを当てられ扉は火花を散らし始めた。
ドアとは反対側の窓からテンマは中型のエクエリを投げ捨て、プロテクターを身に着けはじめ、耳を塞ぎリンネは扉の前へと移動し胸を押さえて深呼吸をし扉が破壊されるのを待つ。
扉の破壊と同時に火薬兵器を持った数人が乗り込んできて乱暴にリンネとテンマを車外へと連れだし、脛のあたりまで水がありぬかるんだ泥の上を歩かせる。
「痛いのは嫌だから抵抗はしないわ、穏便に行きましょう。話し合えば分かり合えるはずよ」
男たちに連れ出されるリンネの声は落ち着いているが強張り少し震えていた。
テンマと同じように外に連れ出された竜胆隊は装甲バスの車体横に並べられ火薬兵器を突きつけられる。
「何だよ助けてくれるんじゃなくて一緒に捕まるのかよ精鋭」
「勝手にしゃべるな!」
追放者に殴られテンマは川の中に倒れる。
リンネだけ離れたところへと連れていかれ誰もいなくなった車内を追放者たちが車内を調べ、他に精鋭が隠れていないか調べると一番最後にやってきた装甲車からリーダーらしき男が降りてきた。
「まさか、向日葵隊を狙って這っていた網に別の王都の人間が引っかかるだなんてな。向日葵隊には逃げられたがお前は逃がさない」
「とんでもない執念ね、わざわざ生体兵器の巣に乗り込んでくるだなんて」
「お前たちだってここへ逃げ込んできただろ、お前たち何考えているかわからない王都の人間を相手にするにはこっちも覚悟を決めないとな」
「はたしてそれは覚悟なのか自棄なのか」
彼の持った火薬兵器のグリップでリンネの側頭部を殴ると、ふらつく彼女を強引に立たせて頭に銃口を突きつける。
流石にこの状態では竜胆隊もテンマも助けには行けずリンネは抵抗することなく装甲車のほうへと歩かせぼろい装甲車の前に立たせると、そこに他の装甲車の車内から残りの追放者たちの仲間が集まってきて彼女を囲む。