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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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蠢く悪意 4

 少しの間リンネに指を握らせていたが、次第に上げていた腕がつらくなりテンマが腕を下ろす。

 テンマの指を握っていた自分の手を見つめるリンネはその手を服の裾で拭う。


「汚いわ」

「自分から触っておいて、それはひどいんじゃないですかね? というか、人に触れないって逆に触られるとどうなるんだよ」


「異性に触れないってだけよ。触られたらどうなるか言うより見せたほうが早いでしょ」

「なんだよ」


 助手席から立ち上がりテンマの横へと向かい彼を見下ろす。


「試しに触ってみなさい、どこでもいいわ両手でがっしり掴みなさい」

「それじゃ」


 テンマは身を起こしてリンネへと手を伸ばし彼女の腰を掴む。

 彼女は小さく悲鳴を上げぶるっと大きく体が震えた。


「……そこは、普通、腕じゃない?」

「どこでもいいといっただろ」


「まぁ、そうだけど。話を続けましょう御覧の通り、異性に掴まれていると私は逃げられない」

「いや突っ立ているだけで動いていないだけだろ、抵抗すらしていない」


 話を続けるリンネにテンマは違和感を感じる。

 彼女の声が強張り、体が微弱ながらに震えていた。


「身が固まって動けないの、抵抗したらもっと強く殴られる。おとなしく体全体に力を入れているしかないの」

「その割にはペラペラと舌は滑らかに動いてるよな」


「謝るときに必要だからね、黙ってたらそれはそれで殴られる。気が済むまで無抵抗で殴らせながら謝り続ける必要があったから」

「対して興味ないけどお前の親はひどい奴だったんだな」


「同情してくれるの、少しだけうれしいわね。そんなことより今なら、私にいたずらし放題よ」

「残念ながら幽霊と嫌がる人間を襲う特殊な趣味はない。王都育ちのの人間だからって捻くれたあんたらと一緒にしないでくれ」


 リンネの腰から手を放しテンマは座席に深く腰掛けなおすと、彼女も助手席に戻っていった。


「さて、今戦っている生体兵器との戦闘が終わったら移動するわ」

「ここに隠れているんじゃないのか? あ……生体兵器の死骸の臭いにつられた他が集まってくるのか」


 装甲バスの窓から竜胆隊との戦闘を見ていると竜胆隊は一人戦闘車両へと戻り大きな箱を抱えて仲間のもとへと戻っていった。

 戦闘が長引き大型のエクエリのエネルギーの残量が減ってきていて、生体兵器との戦闘の合間を縫って精鋭は背負った大型バッテリーの交換を始める。


「そうよ、今は音に敏感なものが寄ってきたけど今度は臭いに敏感な生体兵器が集まってくる。竜胆隊だけじゃ捌ききれなくなるわ」

「でも、ここを出たところで生体兵器と鉢合わせたらどうするんだよ」


「だから生体兵器と出会わないように進むわ」

「時々会話がかみ合わないんだよなぁ。会わないようにって居場所知ってるのかよ」


 生体兵器と戦っていた竜胆隊全員が大型のエクエリを下ろしたのを見て、戦闘が終わったものと判断したリンネが携帯端末で隊長のオキに連絡を取る。


「移動するわ」

『ああ、今その連絡をしようとしていたところだ。来た道を引き返したいところだが待ち伏せされているだろうな』


「ええ、だからこの樹海を突き抜ける。私たちが確実に現れるポイントなんてわからないように」

『多少ずれた位置に出るだけでもいい気がするが』


「あの周囲からでたならシェルターに逃げ込む前に捕まるわ、向こうには軽装甲車両やバイクだってある気がするし。前線基地では生体兵器を連れてこられたら、その隙に襲撃される。彼らはシェルターの外で生きているのだから、生体兵器からの逃げ方も扱い方も心得ているはずよ。前に他の隊の報告書で読んだわ」

『わかった、精一杯やらせてもらうがもとより生体兵器の縄張りを横断するんだ無茶が過ぎる。前線基地で更新した特定危険種の情報はこちらにもあるがざっと見ただけで厄介なものが多い、それらと鉢合わせた場合守り切る自信はない。死んでも恨むなよ』


 先に隊長と運転手が戦闘車両へと駆け足で戻り、車外へとむけてエクエリを構えると周囲を警戒していた仲間が車両へと走って行き車両へと乗り込んで行く。


『こちらは準備ができた、これから建物を出る。しっかりついてくるように』

「ええ、しかし向かう方向はこっちで決めさせてもらうわ。建物を出るとすぐ右手に見える霊峰、そっちへと向かってもらえる?」


『その方向は来た時とは違うが樹海の外へと向かっている気がするが、まっすぐ樹海を突っ切るのではなかったか?』

「一度寄ってほしいところがあるの、お願いできる?」


『寄る? 陽光隊はここに来たことがあるのか?』

「ないわ、でも古い資料にその方向に生体兵器の研究所があるはずよ。兵器じゃないから改造植物だったか。ま、なんでもいいわ。そこに行くわ」


『この樹海を作った植物を作った研究所だろ、危険じゃないのか』

「あの研究所はあくまで人類が地下へと避難が決まった際に、人の役に立つものを作っていたのだから危険度は少ないはず。あくまで危険がないってわけではないので」


『了解した。俺らは戦うだけだ、そちらの指示に従おう』

「それでは行きましょう」


 二台の車両は建物の壁を破壊し走り出す。



 樹海は進むにつれ木々の太さや長さが増していく。

 霊峰樹海に入る前からちらほらと見えていた球体植物も一軒家サイズが当たり前となり、地面はすでに蔦と蔓で覆われていて周囲に何があるか見えなくなっている。

 道は再び力任せに強引に戦闘車両が作りそのあとを装甲バスが追う。


「もう何かよくわからないところに来たわね、どこここ?」

「何かに乗り上げて横転しないか怖い、後また酔うよなこれ」


「そうね、今のうちに精神統一でもしておこうかしら」

「どっかで休憩挟んでくれるよな?」


 何度か巨大な建物の並ぶ廃墟を通りすぎる。

 先程と同じで蔦が建物を支えていて建物は穴だらけでも傾くことなく形を保っていた。


「デカい建物が増えてきたな、どれも木が巻き付いているがどの建物もそれほど大きく壊れてないのは丈夫だよな」

「そろそろ研究所が近いかもね。さて、どこだったか」


「何か見てわかる目印はないのか?」

「数十年前の看板がこの植物があふれかえっている状態で見つけられたら、私を呼んで頂戴。褒めてあげるわ」


 ふと、前を走っていた戦闘車両が道の真ん中で止まる。

 装甲バスもそのうしろにつけて止まった。


 前を見れば廃墟の中に水が流れていて進行方向先の道を大量の水が行く手を水没させている。

 樹海の植物が川に複雑な流れを作りそれに太陽の光が反射しその深さは分からない。


「水だ、川か?」

「そうね、浅いけど川幅は広いしどこかで水が湧いているのかもね。まぁ霊峰から流れてきているんでしょう」


 窓越しに川の中央に頭だけ出す生体兵器の姿が見える。

 川の奥はやはり深くなっているようで小型の生体兵器の目と鼻先だけが水面から浮いていた。


「何か居るな」

「何かいるわね、こっち襲ってくるかしら?」


 生体兵器は体を水の中に半分沈めていて、その場から動くことはなく水面からこちらをじっと見ていた。

 川の中から動く様子はなく二人が生体兵器を見ていると竜胆から通信が来る。


『ここは浅いようだがこの先に進めるかわからない、戦闘車両は水陸両用じゃないからこちらが進めるのは浅い水辺だけだ』

「こちらも防水ではない、別の道を探しましょう」


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