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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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蠢く悪意 3

 装甲バスの中で車酔いしていたリンネが降りてくる。

 彼女は周囲を見回し建物の状況を見ると装甲バスに寄りかかった。


「大丈夫か?」

「まだ気分が悪い。夢で見るような綺麗な場所に来たわね、緑が多い分空気もだいぶ澄んでいるけど湿っぽいわね、昨日の雨のせいね」


「夢でってまだ天国じゃないぞ現実だ」

「でもすぐに地獄になるわ、大きな音を立ててここまで来たのだもの、すぐにでもこの廃墟に生体兵器がやってくる。あの棘の生えた大猫かしらね」


「はぁ……こんなことならまだ一般兵のほうが充実した毎日を送れたのによ……こんなところに来てこれからどうするんだ?」

「もちろんさっき言った通り、霊峰樹海を突き抜けて向こう側に出るわ。それに後悔しないでよ、一昨日に最後の晩餐は済ませたでしょ。気分よく成仏しなさい化けて私の前には出ないで頂戴」


「あんたの方がよっぽど幽霊染みているんだけどな」

「枕元に立つわよ、耳元で呪詛を唱えてあげるわ」


 車酔いから回復し若干気分が和らいだ二人は車内へと戻ると、リンネは採取用の鉈を持ち出しテンマは軽装甲のプロテクターをつける。


「またそれ? そんな当てにならないものなんかつけていないで早くしなさい」

「少し待てよ、すぐ行くから」


 プロテクターをつけテンマは厚手の手袋をはめてトランクを持つとリンネとともに建物を支える太い蔓のもとへと歩み寄っていく。

 並の木以上に太く育った蔓は空を目指し壁を伝って窓から外へと延び、窓から出れなかった蔓は朽ちた天井のひび割れた隙間を広げ外へと向かう。


「これはブドウ? 実は小さいのが向こうになっているわね。それじゃテンマおねがいね、葉と根とあっちの実もとるから」

「やっぱりこれは続けるんだな、もういいんじゃないか? 昨日少し集めたのがあるだろ、もうここから出てさっきのやつらの仲間に襲われないように逃げ帰ろうぜ」


「このために来たんだもの当然、またここに来たくはないでしょう? ほらさっさと始めて」

「早く終わらせて車内で休もうぜ」


 テンマが堅い蔓に鉈を突き立てている中背後の竜胆隊に動きがある。

 周囲の警戒用に出入口に一人残し、残りの竜胆隊が窓へと集まっていくと外へと向けて大型のエクエリを構えた。

 後ろで作業を眺めていたリンネが竜胆隊の動きを見てゆっくりと装甲バスのほうへと下がっていく。


「テンマ生体兵器が近寄ってきたみたいよ、急がないと危ないわ」

「そこで俺に逃げることを勧めてくれないことに涙が出るよ」


「あなたがここにいる意味を思い出しなさい、ワースト」

「へいへい、わかってますよ」


 蔓の皮を剥がし蓋を開けた瓶の中に入れるとそのまま葉や実の採取へと向かう。

 装甲バスのタラップに腰掛けリンネは携帯端末を見ると溜息をつく。


「ああ、なんてめんどうなの」

「それ俺がいいたい。採取した瓶を車両に積んでおいてくれよ。保存液はそっちで入れるから。瓶だけならリンネでも運べるくらい重くないだろ」


「嫌よ、面倒くさい」

「そっちこそ、ここにいる理由忘れてませんかね?」


「理由ねぇ……面倒くさいわ」

「おい」


 鉈を振るい実と葉を切り取って瓶に詰め装甲バスへと持って帰ってくるテンマ。

 向かってくる彼を確認するとリンネは先に車内へと入る。


「おつかれさま。さぁ、保存液入れて蓋閉めてしまってちょうだい」

「わかってるよ。というかこれで終わりだよな、建物の外に出て他のも採取するとか言い出さないよな」


「そうね、集めてきてくれるならありがたいけど」

「絶対嫌だぞ、向こうで竜胆隊が戦ってるじゃないか」


 背負った中型のエクエリを下ろし持ち帰ってきた瓶に保存液を入れながらテンマは身を震わす。

 竜胆隊の戦闘はいまだに続いており時折生体兵器の鳴き声が建物内に響いてくる。


「おわったぞ」

「ご苦労様」


 瓶の蓋を閉めトランクに詰め手袋を外してテンマは運転席の座席に座りぐったりとした。


「これいつ終わるんだ」

「戦闘のこと? もうすぐ終わるわ、精鋭が戦っているんですもの」


 座席を倒しそのまま寝てしまおうとするテンマにリンネは小さな声で話かける。


「テンマ、手出して」

「なんだ?」


「手を出しなさい」

「わかった。わかったけど、変な注射とか打つなよ」


「私を何だと思っているの」

「不気味を人の形にした何かだよ」


 言われるがままテンマはリンネ向って腕を伸ばし彼女はゆっくり手を伸ばしその指先を握る。

 彼女に人差し指を握られテンマは困惑した。


「ん、ああ。これはなんだ?」

「触れられたわ」


「触ってきたのはそっちだろ」

「そうね、私男性に触ることも触られることもすごいストレスになるの」


「そういや触るなって言ってたな。俺が嫌いなのか潔癖症だと思ってたけど」

「親に暴力を振るわれたことで異性が極端に苦手になった。今は普通に接しているように見えているでしょうけど結構辛いのよ」


「どうやら普通という言葉の意味が俺とリンネで違うらしいな」

「そう、一緒だと思うけど?」


 テンマはリンネが摘まんだ指を動かす。


「で、これはなんだ?」

「リハビリの一環よ、さっき思いついたの少しずつ触れる面積を増やしていくの。触られると昔を思い出して体が膠着するからそれを治す。私の気分でするから、それほど気にしなくていいわ」


「最終的には一緒に夜を共にするまでがリハビリか?」

「ここに置いていくわよ? 最終的には普通に手を握れる程度まで、そろそろ子供のころのトラウマを治さないと、一生独り身になるからね。男性が苦手でも付き合うということや結婚に興味がないわけではないから。だから手をつなげるようにするのよ」


「だいぶ志が低いな」

「頑張っているほうよ、応援しなさい」


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