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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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再出撃、1

 戦闘準備を整えると、蒼薔薇隊、朝顔隊、蒲公英隊は川の近くの廃墟にやってきた。

 開けた場所であちらこちらに大きな水たまりができ、電柱や電灯だったものが風化しておれていたりひび割れたアスファルトから枯れた草が伸びている。

 雨は大ワニと戦った初日に比べるとだいぶましになり、川向うに町の中心部だったであろう廃ビル群まで見える程度にまで視界が回復している。


 現在精鋭たちは川に向かう途中に元は市民ホールだったであろう建物があり、その大きな駐車場で各隊の隊員を円を作るように警戒に置いてその中で隊長、副隊長たちは作戦会議を始める。


 朝食がまだだった隊は携帯食料を片手に、エクエリをいつでも持てるようにすぐ脇に抱えた。


「それでは、次に各隊の行動を指示する」

「そういえば、朝顔隊は、副隊長は、いないの?」


 後ろを振り返りノノが廃墟の方を警戒しているツバメ以外の朝顔隊のメンバーを見る。


「まぁね、二人ともまだ半人前だから。んで、どういうふうに戦うよ?」

「大雑把には蒲公英隊に大鰐を引き付けてもらって、その間に私たちは子鰐を倒すでいいんじゃないの?」

「ちがう、一つ訂正……子鰐じゃない。あの大きいのは雄、なの」


 ノノのつっかえつっかえの言葉の方に気が行ってしまうのを避けコウヘイが前に出てきた。


「それは俺の方から説明しますよ。蒼薔薇隊の皆さんが戦ったあの大きなのは十年以上の長い時間を生きた雌、それで川の付近に居た小さいのは数年程度で寿命を迎える雄なんです。活動範囲は、小柄な雄は川に潜り水を飲みに来る他の生体兵器を襲うようで、回収班の皆さんは川近辺の金属を回収しようとした際襲われたようです。雌は体が大きい分浅い川には隠れきれず、それプラスより多くの餌を必要とし、食べ物を探してかなり遠方まで足を運んでいるようで……」

「聞いていた大きいの、周囲で5匹、確認……川下で傷のある、腹に穴の開いた死骸は、落ちていた」


 話しを途中で邪魔され若干不機嫌なノノが一回り大きな声でコウヘイの説明を遮る。

 やれやれと言った様子でコウヘイはノノに説明を任せ口を閉じた。


「あの大きさがまだあと5匹も」

「ムギハラとシジマに怪我負わせたのは倒せたみたいだな」

「そだね」


 まだ複数いることを嘆けばいいのか倒したことを喜べばいいのか、蒼薔薇隊の面々が何とも言えない表情をする。


「改めてもう一度言う。蒲公英隊には大型を引き付けてもらう、その隙に小さい方を倒す」

「ういうい、了解。んで、どうやって引き付けるの?」


 ツバメの問いを持っていましたとでもいうように、ノノが自分たちが乗ってきたバイクの元へと駆け寄る。


「それには、これを、使う」


 そして蒲公英隊のバイクにかけられていた迷彩マントを捲る。

 そこにはバイクの後部に大きな荷物が乗っていた。


 ワイヤーに縛られしっかりと固定された生体兵器の死体、何本もの杭で強制的に丸く形作られたそれは近寄れば死臭を放っていた。


「行動範囲の大きい方をこれで釣る」

「この生体兵器……休暇中に私たちが倒したやつ?」


 周囲を警戒していたライカがノノのバイクに近寄る。


「イタチ、ベースの、巣穴で、子育てする、突撃型で、日中、親は、狩をする、これはなれの果て。巣も、私たちが、ちゃんと潰してきた」

「これの毛皮欲しかったんだけど。こんな穴だらけにされちゃって、まじかー」


 金属の杭をエクエリの先でつつきながらライカは少し残念そうにしたが、ノノは首をかしげた。


「なぜ? 毛皮、重たいだけ、荷物になる。被って、生体兵器の真似するのは、うまくやらないとバレちゃうよ?」

「違う違うファッションだよ。ん~、わからないか。それで、これで何すんの?」


 死骸から引きはがした迷彩柄のマントを畳みながらノノが答える。


「餌。動物型は虫型よりは……食いつきが、いいはず」

「ふーん」


 それだけ言うとライカは興味を失ったようでノノとバイクから離れ、周囲の警戒へと戻った。


「では、俺たちは先に行って大きいやつを引きつれていきますんであとお願いします」

「今度は、しくじらないように、ちゃんと、戦ってよね」


 それではお先にと頭を下げコウヘイとノノはバイクにまたがる。


「ああ、任せた」


 トキハルに別れを告げバイクに乗った蒲公英隊は瓦礫を楽々と乗り越え廃墟の奥へ、そのまま川の方へと走っていった。


「んじゃ、またあとでねトヨ。二人とも集合出発するよ」

「わかりました。イグサ出発だって」

「おっけー」


 そういうとツバメはイグサとコリュウの元への戻り軽装甲車に乗り込む。

 天窓から顔を出しイグサは大型のエクエリを銃座に固定する。


「久々の戦闘だから二人とも無茶はするなよ。特にコリュウ」

「大丈夫です、イグサは……」

「大丈夫だよツバメ、コリューは私が守るから」


 ワイワイと戦闘前に緊張感のない三人。


「……いや」

「準備おっけー」

「んじゃ、しゅっぱーつ。また後でねトヨッチ」


 イグサの大型のエクエリの固定を待ち、朝顔隊も対岸に向かうため軽装甲車両に乗り込み廃墟の奥へと走り去っていった。

 残された蒼薔薇隊。


「さて、リベンジですね」

「ああ、そうだな」

「今度は俺っち、油断しないさ」

「当たり前だろ、トガネはボタンちゃんと閉めておけ」


 気合の入ったライカに身だしなみを整えるトガネ、トウジは自分の髪を結びなおしトヨはトキハルの方を見て話しかける。


「とりま、トガネっちはトヨの護衛ね、前出ちゃだめだよ傷口開くから」

「俺っち心配されて嬉しいな」


「ウザッ」


 そういいながら蒼薔薇隊は二台の車両に分かれて乗り込み川を目指した。


 作戦会議のため広めの駐車場だった場所により遠回りをしたため、前回とは違う道順で土手の前まで来た。

 少し遠くに以前戦った駐車場とレストランが見える。


「朝顔隊からの連絡はまだないですね……」

「ああ」


 すでに作戦実行時間なのだが朝顔隊からの連絡がないため、蒼薔薇隊は土手の下で待機していた。

 立てた作戦を無視しどこかで勝手なことをしているかもしれないと考えるトキハルに多少に苛立ち

 が見え、トヨが気まずそうにその横で朝顔隊からの連絡を待っている。


「戦闘音も聞こえないし、どこかで迷ったんじゃない?」

「やられてたりして」

「縁起でもないことはやめてください。バメちゃんはそう簡単にやられません」


 その時、ヘットセットからツバメの声が聞こえた。


『呼んだ? 今誰か、勝手に私たちのこと殺したな』

「ああ、バメちゃん今どこに?」


 連絡にトヨが慌てて応答する。


『土手の向こうについた所、もう登っていいの?』

『戦っていいの?』


 ツバメとの会話に入ってくるイグサの声。


「トハル」

「わかった、戦闘を開始する。トヨとアモリは両岸から川の中のを任せた」


 謝罪もなく普通に会話する朝顔隊の隊長に苛立ちを見せながらもトキハルは指示を出す。


『は、はい!』

「わかりました」


 返事をしトヨが超大型のエクエリを持つ。

 無線から朝顔隊の雑談が聞こえてくる。


『イグサが名前呼ばれて顔赤くしてるぞ、どうするよコリュウ』

『……どうもしませんよ』


 仲間との話を切り上げツバメは尋ねた。


『んでイグサとトヨッチが戦ってる間、私たちは陸に上がってくるのを食い止めればいいんでしょ? 小さいとはいえ、そもそも私達のエクエリで倒せるの』

「蒲公英隊の情報ならな」


 ライカとトガネは迷彩柄のマントを羽織ってトヨとトキハルより先に土手を登り、小ワニがいた場合はトヨに注意が行かないように相手をする。

 前回の時の様なことが無いようにトウジがコンクリートのビルの廃屋に上って廃墟の方を警戒していた。

 近くの廃屋が倒壊し大きな土煙が上がると、その音に混じってエンジン音が聞こえる。


「蒲公英隊だな」


 姿は見えないが廃墟から立ち上る土煙の方を見てトキハルが言う。


「彼らのエクエリ小型でしょ大丈夫なの?」

「任せてって言ったんだから、大丈夫なのでは?」


 ライカとトヨが話していると建物の上にいた当時から連絡が入る。


『蒲公英隊がこちらに来ます』


 土手の手前の大きな通りを二匹の大鰐を連れて蒲公英隊が走って来た。

 土手の横の川と並走して走る道路を蒼薔薇隊のいる方向に曲がり全速力で向かってくる。

 小ワニ同様譲り合うことが出来ないようで、大ワニはお互いに威嚇し合い足を引っ張るような形で並んで走ってきた。


「おいおい、こっちに押し付けたりしないだろうな」

「トヨっちどうする、二匹はまずいだろ」


 焦るトガネとライカ、大型のエクエリを大ワニに向けるトヨのもとに通信が入る。


『これが、精鋭としての、正しい、鮮やかな戦い方』


 ヘットセットでの通信を終えてノノが片手でバイクに取り付けた携帯端末を操作すると、大鰐が二匹同時に内部から爆発した。

 爆発とともに大鰐は足がもつれ倒れ込み濡れた地面を巨体が滑る。

 大ワニは二匹とも口から血を吐きだしよろめくと、廃屋や土手に頭から突っ込み苦しむようにもがきそして仰向けに横たわった。

 そしてそれきり二匹とも動かなくなる。


『餌の中に、爆薬。内臓、脆い』


 そういうと蒲公英隊のバイクは蒼薔薇隊の横をすり抜けていく。

 流れ出る血が雨に流されていくのを見ながらトキハルはヘットセットに手を置く。


「これで二匹へったな」

『私たちの、力』


 音声だけで表情はわからないが自身に満ち溢れ勝ち誇った声が聞こえる。

 たった二人の少数の隊でも戦い方によって十分戦力になると。


「わかっている、お前達は優秀だ」

『では、後は任せた。嫌だけど向こうと、合流する。あるいは残りを探す』


 小さくなっていく蒲公英隊を見送りトヨたちはまた土手を登り始める。


「ああ。頼んだ」


 そして蒲公英隊は廃墟に消えていった。

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