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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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蠢く悪意 1

 

 翌朝テンマは激しく扉を叩く音で目を覚ます。


「何だよ……まだ朝早いだろ」

「テンマ、起きなさい」


 扉を叩く音は強く無言で休むことなく鍵のかかったドアノブをひねる音が聞こえる。

 テンマは扉を強く叩く相手を少し警戒してノブに手をかけた。


「早く開けなさい」


 聞き覚えのある女性の声が扉の向こうから聞こえ、テンマは混めていた力を抜くと扉を開ける。

 外には強化繊維の制服を着替えている途中な状態のリンネが立っていて、開けたドアの隙間から彼女の生気を感じない瞳と目があい思わず後ろに飛びのく。


「吃驚した、脅かせるなよ。なんだよこんな早くから、心臓に悪いただでさえ幽霊みたいなんだから。鍵を開けたときに扉から離れてくれ……」

「腰を抜かせてないですぐに着替えて、今すぐにここを出るから」


 リンネは部屋に入って驚いてしりもちをついたテンマを見下ろした。

 彼女は昨日の朝と同様目の下には隈があり表情もどことなく辛そうにしている。


「なんでだ、確かまだ全然時間があったよな」

「質問は受け付けないわ、急ぎなさい。準備ができたら私の部屋に来て、鍵は開けておくから」


 不機嫌そうな顔で睨みつけるとリンネはポケットに手を当て何かを探し部屋に戻っていった。


「ほんと王都の偉い人間様は何考えているんだかわからねぇ」


 すぐにテンマは制服に着替え彼女の部屋に向かう。

 部屋ではリンネが着替えの入ったカバンを持ち携帯端末で竜胆隊と会話していた。


「とにかくここから出る、そっちも早く用意しなさい」


 端末を切りリンネはテンマのほうへと向かうと荷物を押し付け外へと向かう。


「俺も向こうも朝早くから叩き起こされて大変だ」

「駐車場へ、荷物よろしくね」


「へいへい」

「早く来なさい」


 日が昇り始めたばかりの時間帯。

 急な呼び出しにもかかわらず竜胆隊はすでに駐車場に到着していて、前線基地の外に出るということで強化外骨格を身に着けている。


「彼らはテンマより優秀ね、文句を言わずに連絡を受けたらすぐに外に出る準備を進めているわ」

「そうだな、優秀だな」


 装甲バスに乗りこむと荷物を奥へと投げてテンマは運転席に座り、リンネは助手席に座ると携帯端末を見た。


「それで、どこに行くんだ?」

「竜胆隊に伝えてある、戦闘車両の後に続いて。時間がないから早くして」


 いわれるがまま車両は基地の外へ。

 車両の行く先は方向はシェルターに向かうでもなく霊峰樹海に向かうでもなく、ふらふらと走っていた。

 しかし時間がたつにつれリンネは落ち着きがなく何度も携帯端末を確認している。


「これ、どこに向かってるんだ?」

「他の前線基地よ、別の場所から霊峰樹海に向かうって言わなかったっけ?」


 行く先がわからないテンマが運転しながら尋ねると足を揺すり落ち着きのないリンネが答えた。


「で、なんでそんなに汗かいているんだ? むしろ寒いくらいだろ……トイレか?」

「違う、うるさい、黙ってなさい」


 休むことなく日が高く上ってきたころ進行方向に車両の影。

 道を半分塞ぐように止められていてこちらに気が付くと車両から人が降りてくる。


『誰かいるな、難民のようだ。どうする?』

「ダメだった……離れたところで停車。様子を見て車両を避けて移動する」


 落ち着きのなかったリンネは端末を握り大きく息を吐く。


「おいおい、故障で立ち往生しているのかもしれないだろ? 向かう先が前線基地なら牽引してったり乗せていってやったりできるだろ?」

「あなたはハンドル握って黙ってて」


 車両は霊峰樹海が見える位置を生体兵器が襲ってきても対処できる距離で走る。

 携帯端末を見ていたリンネがつぶやく。


「駄目ね、時間がきた」


 唐突に乾いた音がし直後に運転席の窓に勢いよく何かがぶつかり、謎の音の後には小さな傷が残っていた。

 リンネは大きく跳ねて驚き、テンマは思わず声をあげる。


「なんだあれ。ゴム弾銃じゃねえよな。じゃ、どうやっても車両にこんな傷はつかねぇ」


 目に付く位置に立つ男のゴム弾銃とよく似た形状の煙を上げる塊。


「火薬兵器、旧時代の武器かよ! あの戦場跡地に落ちてる鉄屑、使えるものなんかあったのか」


 攻撃を受け戦闘車両と装甲バスは急停車した。

 生体兵器の攻撃に耐える車両は傷こそ入るものの装甲に重大なダメージは入っておらず、フロントガラスも小さな傷がいくつかできただけでひびが入るほどではない。


「あれが昨日話した追放者よ、まさか話した次の日に出くわすだなんて思ってもみなかった」

「追放者? それがなんで俺らを止める?」


「彼らの目的は身代金の要求。ただの精鋭は戦力に影響こそあれ度死んでも問題ない人間だけど、桜の隊は違う。王都の技術開発の重要人物。つまり目的は私ね」

「つまりあんたを差し出せば俺らは解放されるのか」


 その言葉にリンネは小さく笑う。


「無事とは限らないけどね、誘拐の発見を遅らせるために目撃者は口封じされるかも」

「まじかよ」


 車両から降りた追放者が拡声器を向ける。


『その車両に王都から来た者が乗っているな、そいつを差し出せ!』


 リンネは頭を下げ姿勢を低くして答えた。


「誰が行くものですか、行ったところでメリットなどないじゃない」

「それも俺にじゃなくて向こうに行ってくれよ」


 拡声器を持つ追放者の話に耳を傾けず二人はどうやって逃げるかを考える。

 車両から降りてきた男はマンホールの蓋のような丸い円盤を取り出し道の真ん中に投げた。

 リンネにはそれがわからなかったがテンマはその丸いものに見覚えがありその正体に気が付く。


「あれ、たぶん生体兵器用の地雷だぞ……なんでこっちに投げたんだ」


 二人が逃げ道を探している間も追放者の話は続く。


『そこの道に仕掛けてあるのは生体兵器用の地雷だ。この道だけじゃない、両脇の枯草の中にも仕掛けてある。強引に逃げようとすれば爆発するぞ』


 逃げ道はないとわかると来た道を戻るかどうかと考えていると、いつの間にか車両の後ろにも追放者の車両が回り込んできていた。


「嘘だと思うか?」

「いいえ、本当よ。右も左も通り抜けようとすれば大爆発する」


「まえから思ってたんだけど、その前もって知っているような口ぶり、こうなるとわかってたのか?」

「今言う必要ある? 私の言うことを聞いてそれに従えば……」


 そこへ竜胆隊からの連絡。

 リンネはテンマとの会話を切り通話に出る。


『どうする。いつの間にか横と背後に回り込まれている。向こうには生体兵器用の地雷がある。我々の乗る車両なんかが踏んずけたとたん爆発し車両が半壊するぞ』

「……霊峰樹海を通って逃げるわ、生体兵器を恐れてそちらには爆薬はない。そちらもタイミングを合わせなさい。そのでっかい戦車砲で木々を吹き飛ばして頂戴」


『正気か? 樹海へ突っ込むってことは生体兵器も出てくるぞ。さすがに大群に襲われればこちらは自衛で精いっぱいだ、守れる余裕はない』

「ここにいても。あの無法者たちに殺されるだけじゃない、じゃあなに? 竜胆隊は目の前の人を殺してくれるの? 向こうは平気で人を殺せるかもしれない、ただでさえ人を殺す武器をもってそれをこちらに向けている、彼らの思考は私たちとは違うのだから」


『……わかった。合図は任せる』

「了解、テンマ合図をしたらアクセルをべた踏みしなさい。追ってくる前に樹海の奥へと逃げ込むわ」


「話し合いはできないのかよ」

「話が通じる相手ではないの」


 そして精鋭の乗った車両はタイミングを合わせて進むのでも引き返すのでもなく罠の設置されていない霊峰樹海へと向かって走り出す。


 追放者たちは逃げ出す車両を慌てて追いかけようとするが、進んで生体兵器の住む樹海へとは追ってこなかった。


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