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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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霊峰樹海 5

 逃げた生体兵器に警戒を緩めず隊で集まり陣形を組む竜胆隊。


『本当に出てきたな、次の攻撃に備えろ。動きはネコ科の生体兵器だったが毛は硬質化していた、早いし硬いぞ』


 生体兵器の襲撃にテンマは気が付かず新たに瓶の入ったトランクをもって装甲バスから降りてくる。

 まさか生体兵器と静かに戦っているとも知らず小雨の中走ってくるテンマを見ながらリンネとオキは会話を続けた。


『こちらからは出てくるまで気が付かなかった。目がいいんだな、勘か? それとも何かの能力持ちか?』

「話す必要はない、仕事しなさい」


『承知した』


 竜胆隊は生体兵器の襲撃に備え隊長以外は並んで樹海にエクエリを構え次の襲撃に備える。

 オキは隊員たちから数歩下がったところで周囲の警戒をしていて。それを不審に思ったテンマはトランクを開け瓶を取り出しながら植物の陰にいるリンネに尋ねた。


「そんなところに隠れて何かあったか?」

「別に、あなたには関係のない話。さっさと作業をしなさい」


 リンネとの会話をあきらめて瓶のふたを開けた状態で鉈を握りテンマは植物に向かって刃を振りかぶる。

 傘を差しリンネは作業を眺めた。


「あー、くそっ、汁が滴ってきてべとべとだ。手袋が滑る、タオルか何かで一度拭きてぇなぁ」

「次は森に近いところになるわね、竜胆隊を連れて前進しないと」


 手についた汁を振り払うと茎の破片と保存液を瓶の中に入れトランクをバスへと運ぶテンマ。

 警戒状態の中リンネが竜胆隊に無茶を言いより霊峰樹海へと近づく。


「……そろそろ生体兵器が出てきそうだよな? こんなに近づいたら飛び掛かってきても気が付く前にあんたも俺もやられるんじゃないか?」

「大丈夫、あなただって武装しているでしょ」


 背中に背負った中型のエクエリを見る。

 次に選んだ改造植物は、地面を這い球体植物やほかの植物に絡みつく粒々のある赤い実をつけたもの。


「トマトにブドウ、蛇苺といろいろ混ぜて開発したみたいね。次はこれを採取して頂戴」

「もうほとんどこれ樹海の中に入ったんじゃないか?」


「たった一、二歩入ったくらいで弱音吐かない」

「……だったらそんな遠くにいないでもっとこっちに来たらどうだ?」


 テンマから見て竜胆隊の壁の向うにいる傘をさして突っ立っているリンネが答えた。


「生体兵器が怖いわ。そんなこと言っていないで早く採取を終わらせたら?」

「ったく、これじゃ一般兵と変わらないじゃねえか」


「一般兵にこんな無茶は言えないわ」

「俺、一般兵以下になっちまったよ」


 三つの瓶を自分の周囲に置きテンマは植物に掴みかかる。

 頭ほどある粒粒の実を回収し瓶の中に入れると続けて葉と茎の回収を急いだ。


「そろそろ次が来る時間ね」


 リンネは携帯端末を見ると後ろに後ずさる。


「テンマ」


 テンマは採取を終え瓶を掴むと立ち上がりリンネに呼ばれて振り返った。


「何だよ、言われた通り身も葉も茎もとったぞ。次はどれっ……」


 言いかけている最中に背後から衝撃がきて瓶を手放しテンマは吹き飛ばされる。

 襲い掛かってきた生体兵器はテンマの背負う中型のエクエリに牙を立てスリングは強引に千切られた。

 体当たりを受け吹き飛び地面を転がるテンマを躱し竜胆隊は反射的に生体兵器に向かってエクエリの引き金を引くと銃口から青白い電流がほとばしる。


 竜胆隊の持つ大型のエクエリ4つ分の炸裂式雷撃弾を受け黒い煙を上げて咥えていた中型のエクエリを落とし生体兵器は地面に倒れた。

 そこに追撃、生体兵器を通常弾でとどめを刺す。


 周囲の改造植物も焼け焼ける臭いで満ちていく中、頭が半壊した生体兵器は動くことはなく表情一つ変えずリンネは足元に倒れているテンマに話しかけた。


「大丈夫? 強化繊維のおかげで牙も爪も肌に食い込んでいないはずだけど、頭とか強く打ったりした?」

「生きてるって面では無事だな。くそっ、生体兵器の生息地に向かった時点でこうなるってのは最初から火を見るより明らかだろ」


「中型のエクエリのおかげで首をかじられなくてよかったじゃない。もし選んだのが小型のエクエリだったら今頃竜胆隊にあなたの死体の片づけをさせていたわ」

「ほんとあぶないところだった」


 竜胆隊がリンネに向かって歩いてくる。

 ヘルメットの頭部にある数字から隊長であるオキであるとわかると、リンネは目の前の精鋭に向かって頭を下げた。


「生体兵器の討伐お見事、一匹程度なら相手にもならないわね」

『陽光隊、今日はこのあたりで引くべきだと思うがどうだろうか? 今のがはぐれではなく斥候の可能性もある、場所を変えても樹海の中から追ってきていれば再び戦闘になるだろう。この場に残った臭いを追ってくるからな』


 竜胆隊の隊長のマスク越しに聞こえる声は拡声器で聞き取りやすい音量に調整されている。


「そうね、他の生体兵器も集まってくると採取どころじゃなくなる。一度引き返し明日また場所を変えて採取を続けるとしましょう」

『では撤収作業に移る』


 竜胆隊は生体兵器の死骸を担ぎ樹海から離れ、リンネたちも瓶を抱えて樹海から離れ保存液を入れ蓋を閉めるとトランクに入れ装甲バスへと戻った。


「前線基地へと戻るわ、運転はできそう」

「……残念ながらな、怪我の一つでもしてりゃ休めるのか?」


「次を用意するだけ」

「だよな」


 生体兵器に突き飛ばされながらも無傷だったテンマはハンドルを握りリンネは助手席につく。

 リンネの乗る装甲バスを先導させ戦闘車両が砲塔を樹海へとむけ生体兵器が追ってこないかの警戒をする。


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