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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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霊峰樹海 4

 植物型が動かないことを確認するとトングで葉の先端を掴み引っ張るリンネ。

 しかし植物型の生体兵器の葉はびくともせずどれだけ引っ張っても取れる様子はないリンネは一度トングをしまい仕切りなおすと、葉を両手でつかみ腰を落として後ろに倒れるように力をかけた。


「昔大きなカブという昔話を読んだなぁ。妹の働いていた孤児院に寄付したっけか」

「テンマ、眺めていないで手伝いなさいよ。雨が冷たいんだから早く済ませましょう」


 ポケットに手を入れて様子を見ていたテンマはリンネのそばまで歩いていく。

 リンネから少し離れたところで護衛している竜胆隊は手を貸す様子はなく大型のエクエリを構え、霊峰樹海と周囲を警戒している。


「で、俺はどうすればいい? 葉を掴んで引けばいいのか、それともリンネの細い腰を持てばいいのか」

「私には触らないで、隣に来て一緒に葉を引けばいい」


 二人がかりでも球体植物の葉はびくともせず、リンネはあきらめて葉から手を放しマスクで顔を守ると改造植物に鉈を振るった。


「なんか言ってから刃物を振ってくれ、こわい」


 人の力でも鉈の刃は柔らかい音を立てて葉に切れ込みが入る。

 大きな葉を一度で切ることはできなかったが勢いよく切れ目から雫が滴り濡れた地面に吸い込まれていく。


「すごい水分ね、情報的に元がアロエみたいだしサボテンのよう焼いたら食べれる? この汁は飲めたりできるのかしら?」

「こんなの食べて腹壊さないかこれ?」


「元は生体兵器ではなく改造植物。生体兵器が迫ってきて地下へと避難が進む中早く成長しおいしく量もある食べ物を作ろうと食用に開発していたものだし、大丈夫だと思いたいけど。知らない? 生体兵器から逃げ人々が地下に潜っている間の食べ物案の一つに、ここのどこかにある研究所で改造植物を作っていた話」

「行っておくが、俺はまともな勉強をしていないからな。下層……もっと言えばワーストだぞ勉強より食べ物のために働く方が大事だった」


 腰につけたポーチから試験管を取り出しその雫を回収した。


「でもこれは昔撒いた除草剤を吸って毒性がありそう。テンマ飲んでみなさい」

「……嫌だよ、この化け物植物を枯らそうとする薬だろ絶対に人体に害だろ」


 ゴム栓で蓋をすると試験管をポーチにしまい改めて鉈を持ち上げる。


「女に刃物は見た目的にずいぶん物騒だな、こっちに落とすなよ」

「重い」


「切るの手伝おうか?」

「私に触らないで」


 テンマは鉈を振り上げよろける華奢な彼女から離れた。


「だったらちゃんと持ってくれよ、こっち飛んできそうで怖い」

「だったら離れてなさい」


 そういって鉈を掴みなおし葉の一部を切り取った。

 肉厚の葉は重く両手で持たないとリンネは落としてしまいそうになる。


 やっとのことで瓶のもとも出運ぶとその葉を瓶に詰めようとしたが、瓶の入り口に引っ掛かり器の中に入れることができない。


「デカい瓶でもそれを入れるには小さいな」

「もう少し細かくする必要があるわね、テンマすこし持っていて。すぐ細かくする」


 ふらつく手で鉈を振り上げるとテンマに持たせた葉に狙いをつける。


「まてまて、俺がやる。お前が振ると俺の腕を……もしかしたら俺の頭を切りそうだ」


 テンマは瓶の上に切り取った改造植物の葉を置くと腕を伸ばし鉈を奪い取った。

 手袋の上からだが彼に手を触れられたリンネは口調は静かなまま乱暴に手を払う。


「あぶねっ、刃物持った状態で暴れんな」

「触らないでって言ったでしょ。離れて」


 鉈を受け取ると小さく切り分け瓶の中へと入れていく。

 そして一緒に持ってきた保存液で瓶の中を満たすとふたを閉める。


「これでいいんだろ?」

「ええ、まずは一種類。花や種は見当たらないからこのまま深く切っていって茎が欲しいわ」


 リンネの言葉を聞いてテンマは改めて目の前の丸い緑色の塊を見た。

 葉の一部を切り取ったといってもそれは改造生物の全体的にはほんの一部、他の植物より小さくても人の背丈より大きく大きい。


「茎なんてどこにあるんだ、これ」

「掘り進めていけばわかるわ。さぁ、切って行ってちょうだい」


 鉈を振り回し巨大植物を掘り進めていき茎を探した。

 テンマが改造植物に向かって刃物を振るっている間、リンネは他の植物型の生体兵器を探す。


 霊峰樹海で一番目立つのはこの巨大球体植物だが、その間を縫うように他の植物型の姿が見える。

 頭ほどの赤い実のなる植物、他の植物に絡まる蔦状の植物、黄色い実のなる樹木、赤い粒のついた実がある植物。


「茎は見つかった?」

「ああ、奥に硬いのがあってそれにぶち当たった」


「じゃあ切り取って頂戴。新しい瓶を持ってこないと入れるものがないわね、ほら雨が冷たいのだから早くして」

「……へいへい、取ってきますよ」


「まって、手ぶらでいかないでその瓶をしまってきて頂戴」

「へいへい、冷たいのは本当に雨だけなんですかね」


 鉈を食部に突き刺しテンマはため息をつき装甲バスへと戻っていくリンネは携帯端末を見た。


「そろそろ時間ね、もう少し下がって置こう」


 時間を確認すると穴を開けた植物の陰に隠れ、携帯端末でリンネを護衛するためそばにいた竜胆隊に連絡する。


「竜胆隊」

『なんだ』


「向こうの植物の向こうに何か動く影を見つけたわ」

『こちらでは何も確認していない』


「見えたの、確認をお願いできる」

『わかった。ヒト、フタ、森を警戒』


 そういって竜胆隊の隊員二人がリンネの指さす方向を向くと、同時に樹海の中から獣型の生体兵器が飛び出てきた。

 その速度は速く反応が遅れていれば竜胆隊の一人が何もできず襲われる速度。


 しかし、エクエリを向けたまま生体兵器の出てきた方向を見ていたため狙って引き金を撃つだけ。

 攻撃を躱した生体兵器はそのまま樹海へと消えていった。


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