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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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霊峰樹海 2

 何が彼女のツボにはまったのか不思議に思いながらテンマは足を止めて彼女が笑い終えるの待った。


「俺、そんなおかしなこと言ったか?」

「下層以下が王都でちゃんとしたもの与えられるわけないじゃない、賞味期限切れの在庫か保存に失敗したものでも食べさせられたんでしょ。クックック、あーおかしい。微妙な味って、カビ生えててもうまいうまいって言って食べれる舌をお持ちの様ね。それと丈夫なお腹ですこと、クククッ」


 再び腹を抱え笑い出すリンネ、馬鹿にされたテンマは彼女の静かな笑い声を聞きながらつぶやく。


「というかちゃんと笑うんだな、あったときから全く表情を変えないロボットみたいなやつだと思ったけど。人間らしさがあってほっとしたぜ、目さえ瞑ってればちゃんと人らしい」

「人を何だと? まったく心外ね、ちゃんと笑いもすれば泣きもするに決まってるでしょ」


「人形みたいに無表情なその顔からじゃまるで想像つかないな」

「薬の実験体になれば、もれなくあなたも人形になれるわ」


「あんた実験台だったのか?」

「だったらなに、憐れんで同情くれるの?」


「別にどうもないけど、俺に対する態度や話し方から王都の高層の人間だと思ってたってだけだよ。……ってことは俺と同じようにある日突然攫われたのか?」

「あなたとは事情が違う。虐待で片腕が折れ後遺症で麻痺、人を見たくないと視力も極端に近眼に、三半規管がやられまっすぐ歩くこともできなくなり、精神をやられ簡単な文字しか読めなくなり、部屋の隅で絵本を読むことしかできなかった、どうテンマ、私の過去が聞けて満足?」


「不用意に人の過去に触れるなってことは分かった……悪かった」

「おかげで今は元気に歩き回れるほど、感謝しかない」


「不幸な話かいい話かどっちなんだよ」

「昏睡した意識の回復、混濁した思考の回復、寝たきりの体の回復、能力開花、そうそう美容向けに作った薬の実験で体つきも女性らしく変わったわ」


 そういってリンネは前かがみになり挑発的に胸を寄せて見せるが、テンマの反応は薄く早々にやめるとまた歩き出す。


「何だよ、思ってたより実験台っていいことばっかじゃねぇか。薬って聞いただけで怖がるのは無意味だったか」

「そうね、合わせて120名弱の犠牲のおかげで私は完治した」


「やっぱとんでもねえじゃねえかよ」

「大丈夫よあれらの薬で後遺症は残っても死人はいないから」


 その後、二人は借りている宿舎へと帰ってくる。

 玄関に入ろうとしたところでテンマの額にぽつりと何かが当たり額に手を当て空を見上げる。


「雨か? 降ってきそうな天気してたもんな」

「ぎりぎりだったね、もう少し遅れていたら濡れるところだった」


 建物の玄関に入ったところでテンマが後ろを振り返れば、雨に驚き足早に帰路につく住人の姿があった。


「こりゃ明日も雨か?」

「かもしれない」


「天気悪くても中止にはならないんだよな?」

「朝食を食べたら防壁の前に集合なのだからそれまでにはちゃんと起きてきなさいよ」


「俺は時間厳守の一般兵だったんだ、朝には強い」

「それじゃあ、おやすみなさい」



 リンネと部屋の前で別れ部屋に入りテンマは上着を脱ぐと椅子の背もたれにかけベットの上に横たわる。

 清潔感のある白いシーツの上で彼は天井を見上げ独り言を漏らす。


「明日シェルターの外でサンプルとやらを取るらしいけど、一般兵と違って生体兵器と戦わない。死ぬ確率がぐっと減っただけで儲けもんだ、代わりに薬が怖いが……。うまい飯に少し異質だが怒鳴り散らさない上司。連れ去られた時はどうなるのかと思ったが、なんだよ楽な仕事じゃねえか」


 そのままテンマは眠りについた。



 隣の部屋でリンネははお磨き口を漱ぐとローブに着替えながら携帯端末を操作しながらベットに腰掛け、竜胆隊との明日の集合時間の確認を取るとリンネは携帯端末でアラームをセットする。


「明日か、これまでの移動に問題はない。今まではうまくいったけど明日は間違いなく避けられない、少しでも楽なほうへ。さあ、明日の夢を見よう」


 携帯端末をそばに置くと電気を消し布団へと潜った。



 次の日、テンマが宿舎の向かいにあるレストランで朝食を取っているとリンネが現れる。

 虚ろな目は変わらないが彼女は新たに目の下に隈を作りぐったりとしていて、傘をテーブルの脇に立てかけテンマの向かいに座ると水を運んできたウエイトレスに注文を頼む。


「おはよう。すごい隈だなちゃんと寝たのか? 顔も蒼白だぞ、昨日寒いって言ってたし風邪でも引いたか?」

「頭に響くから話しかけないでちょうだい、別に朝はいつもこうだから気にしなくていい」


「いつもはもう少しまともな顔色だろ。そんなんで今日大丈夫なのかよ……」

「大丈夫、問題は退けられる」


 食欲のないリンネは朝食を残し雨の中集合場所へ。

 防壁前で待っていた竜胆隊と合流しシェルターを出た。



 もともと国であったころ一番大きかった山がそびえる霊峰樹海。

 しかしそれも国があったときの話、今はその山は植物型の生体兵器に飲まれ青青しい森の中に消えている。

 樹海に一番近くにある前線基地で休息を挟み傘を差し双眼鏡で植物型の生体兵器を見た。


 人の背丈の3倍ほどの高さまで成長した緑色の厚みのある葉が集まった植物たち。

 その異質な植物の集まりにテンマは声をあげる。


「なんだこりゃすげえところだな、魔界か?」

「ずいぶんとぶっ飛んだ表現ね、幻想的とか神秘的とか言えないの?」


「どう見ても人を食いそうな森だろ、何だよあの丸いの」

「ここに生えている植物は今までの調べでこれらは食用として開発されていた多肉植物の生体兵器。生体兵器というか改造植物。葉挿しで増えるわ」


 雨の中竜胆隊はエクエリを持ち、いつでも戦闘ができるように装備を整えていた。

 隊長を含め竜胆隊の強化外骨格を身に着けたすべての隊員が大型のエクエリを装備し、背中に大型の箱を背負う。


「竜胆隊って言ったっけか? 精鋭の装備はすごいな、王都の精鋭とは違うな」

「あの装備は竜胆隊の特注よ。強化外骨格で持てる重量に余裕があるから、背中に大型バッテリーを背負い大型のエクエリを弾のエネルギーを気にせず戦えるって資料に書いてあったわ」


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