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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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霊峰樹海 1

 リンネとテンマは霊峰樹海へ向かうために何度かシェルターを経由し、目的地に一番近く立ち寄る最後のシェルターで平和な夜を過ごしていた。


 高い建物の上層の階で広い店内に客は彼らしかおらず、店内には柔らかな音楽が響く。

 静かに食事をしているリンネと違い、テンマは高い店での食べ方の作法など知らず食べ物を次々と口の中に詰め込んでいる。


「大変マナーが悪い」


 リンネの一言でテンマはむせかえった。

 グラスの中を虚ろな瞳で眺めているリンネ。


「急がなくても誰もとったりはしないから。よく噛んで食べなさい」


 そういってリンネはテンマに飲み物を進め自分の食事を続ける。

 店員がテンマが飲み干したグラスにに新しくワインを注ぎ、空になった食器を下げていく。


「お上品な食べ方ができなくて悪かったな。……生まれてこのかた天井にシャンデリアが飾ってある店になんか入ったことがないからな。食べ方に作法なんてものがあるなんて今日まで全く知らなかった」

「作法はどうでもいいからもう少し味わいなさい、味わうことなく胃に収めていくだなんて作ってもらった人に失礼でしょ」


「それだよ、出てくる料理はどれもうまいな、このシェルターの飯も今まで立ち寄った店も。もう二度と食える機会がないかもしれない、そう考えるとどこで飯食っても箸が止まらなくなっちまった」

「そう、ならよかった。でも口に物が入っている状態で喋らないで」


 残った料理を平らげテンマはワインを一気に飲み干すと、大きく息を吐いて背もたれに大きくもたれかかった。


「ふはー、料理も酒もうまいとか天国にいるみたいだぜ。こんなうまいんだからここの店は高いんじゃないのか?」

「ええ、評判も高く何か月待ちの店だったみたいね」


「よくそんな店を、今日来たばかりで予約できたな。王都の特権か?」

「他の人のキャンセル代を払っただけ、こういうのはお金で解決できるから。一人当たり通常の7,8倍くらいの金額を出せば店を貸し切りにもできる」


「おいおい、ずいぶんと金持ちだな。精鋭はこんな飯を毎日食えるのかよ?」

「流石に毎日食べれるほどの給与は出ていない。私はシュゴウシェルターで使い道がないから、いくらでも溜まっていくだけ。他にもあるけど」


「溜めるだけで使わないのか?」

「あのシェルターには使うところもないの、着る服も用意されているし食事も大した金額じゃない。嗜好品や娯楽品は他のシェルターからわざわざ取り寄せなきゃならないし部屋の大きさは決まっていて物であふれかえったら大変なだけ。それにあんな寂しいところで洒落た服を着ても寂しいだけでしょ」


「たしかに、俺が来た時シェルターの中だってのに誰もいなかったしな。あのシェルターって人はどれくらい住んでるんだ?」

「シュゴウシェルターは一般兵含め5千人程度。広いけど設備は機械化され建物も少ない一般兵に精鋭、研究者と実験用のその他くらいで家族で暮らしている住人はいないから」


「数を聞いてみたけど多いのか少ないのかわからないな……ちなみにだが普通のシェルターはどれくらいなんだ?」

「呆れた、それも知らないで聞いたの? 小さいシェルターで一万人居るか居ないか、王都クラスの大型シェルターは15万人住んでいる」


「多いな。……それだけいれば他のシェルターより路頭に迷う人間も出てくるよな、当然か」

「それじゃあ、そろそろ帰りましょう。帰りが遅いと雨が降る」


 店の入っていた建物を出たところで冷たい風が吹き、ポケットに手を突っ込むとテンマは宿泊先へと向かって歩きだす。

 夜の街は色とりどりの明かりが輝き多くの声で賑わい二人はその街をゆっくりとあるいて帰路につく。


「あー食った食った、これが最後の晩餐でも悪くない気分だ」

「かわいい笑顔、まるで無邪気な少年の様。明日死ぬかもしれないのにそう笑えるのは、自分の命に執着がないから?」


「そんなわけないだろ死ぬのはこええよ、最後の晩餐は物の例えだ。いい気分だったのにさましてくる奴だな」

「でも明日生体兵器が襲ってくれば、テンマ、あなたは自衛するしかない。一般兵上りが一人で生体兵器に勝てるとは思っていないから、そうね私たちが逃げ切るまで囮になってくれてもいいわ」


「そっちに押し付けて足掻いて生き残ってやる。俺は喧嘩でも生体兵器との戦闘でも負けたことはねぇ、しぶといんだ」

「その雑草魂が雑食性の生体兵器に効果あるといいわね。あと生体兵器に負けたら普通に死んでいるわ」


 もう一度冷たい風が吹きリンネは身を震わす。


「寒いのか?」

「風がなければそうでもないのだけど、少しでも風が吹くと冷えるわ」


「上着のボタン閉めればいいだろ、そんなにデカい胸をこれ見よがしに見せつけても誰も見てねえんだからよ」

「閉められるならそうしてる。きつくて閉まらないの、あなたデリカシーないって言われない? 品の無さは初対面で一目見たときから分かったけど、女性に対する言葉使いを改める必要がある」


「こうしてあんたとここ何日か話してて思うけどよ」

「なに?」


「王都の人間ってのは、つくづく下のやつを馬鹿にするの好きだよな」

「できて当たり前のことができない人間を下に見たらいけないの?」


「俺らはなあんたらみたいに、いい学校行っていいもん食っていい生活を送ってないんだよ。毎日生きるので精いっぱいなんだよ」

「承知しているわ、でも勉強は子供じゃなくてもできるでしょ? やれないできないとあきらめ投げ出しているから馬鹿にされるの、どうせ休日は寝ているか遊んでばかりなんでしょう? ……これ以上不毛な会話は疲れるからなし。話すなら明日からの話にしましょう」


「そうだな変に熱くなった、酒に酔ってんだろうな……明日から柔らかい布団が恋しくなるよな。食事も質素なものに変わる」

「そんなに気に行ったのならまた驕ってあげる。もちろん帰るとき生きていればの話ね」


「本当か!?」

「でも携帯食料も捨てたものではないよ、味にバリエーションもあるし私は嫌いではない」


「あれ、うまいか? 志願兵になれば飯が出るからって俺が一般兵になった時、散々食ったことあったけど、結構微妙な味がしたぞ?」

「あなた王都の一般兵だったんだっけ?」


「ああ、そうだよ。ワーストから這い上がって下層暮らしになって、生活を維持するために一般兵になってわざわざ遠出して生体兵器と戦って戻ってくる、それが俺の毎日だった」

「そう……なら仕方ないわ」


 リンネは口元を押さえてくすくすと笑いだす。

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