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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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黒衣の女性 2

 不思議そうに首を傾げるリンネを無視してユユキは話を続ける。


「非戦闘員の私たちが生体兵器の前にのこのこ出ていくなんて危険極まりない。研究室に籠り切りで頭の中にカビでも生えたの?」

「そんなことはないわ、ちゃんと換気しているしこまめに掃除しているから部屋も空気も綺麗よ」


「そういう話じゃ……もいいや。で、なんでいまさら植物型の生体兵器の調査を? もうある程度調べ終わってどこかの部署で除草剤を作っていたんじゃないの?」

「残念ながら年々成長し形を変えていっているため、昔の資料では意味がないらしいの。そのためここ最近の植物型の生体兵器の情報がまるでないので集めてきたい」


 頭をなでる手を払い、ずれた眼鏡の位置を直しユユキはリンネを見上げた。


「それだけ? 言葉通り見に行くだけってわけじゃないでしょ?」

「実際、薬の性能が今ある機材と薬草では試しつくしてあまり良い成果が出ない。そこで植物型の生体兵器の遺伝子を調べ使えるならそれを使いたいと思ったと隊長が言っている。新しい風を入れたいらしいわ」


 リンネの口から薬と聞いて血の気を引かせて身震いするユユキ。

 彼女がカガリの愛用とする痛みを伴う回復薬などを作る、薬品の開発チームを率いている王都の桜の精鋭、陽光隊。


「まったく、あの老人は……サンプルの収集どこかの精鋭に任せるのではダメなの? 危険な役は精鋭にやらせればいいでしょ」

「何度か前に頼んだがその辺の精鋭では仕事がいい加減でダメ。サンプル採取を任せても欲しいものを取って来てはくれない。生体兵器に関してはあなたのほうが知っているだろうけど、ユユキはそういう経験はない?」


「無くもないけど、生きてる生体兵器に近づくのは危険ですよ。植物型であってもお勧めできないわ、前に私が一度見たやつはほぼ無害だったのだけど、すべてがああとは限らないし」

「実際に生体兵器に追い回されたものに言われると重みがあるな。わかっている動物だろうと植物だろうと生体兵器は生体兵器、だから出来る限り慎重に作業はするつもりよ」


「別に私は研究に口出しする権限はないけど、やっぱりやめた方がいい。でも嫌がらせでないことは分かってほしい」

「うん、わかっている。命は大切だ心配してくれてありがとうとも思っている。でも隊長命令で私に断る権限はない役に立たなければ私は捨てられる」


「でも、やっぱり許可はできないことはわかって……」

「許可がもらえないなら、残念だけど自力で出ていく。何としてもサンプルを取ってこいと隊長からの命令だから、言った通り私は逆らえないの」


 淡々と答えを用意していたかのようにリンネは答えるとユユキは肩をすくめ頭を掻いた。


「……わかったわ。でも書類をそろえるのに少し時間をください」

「待ちきれなくなったらまた来るわ」


 溜息を吐くとユユキはリンネの後ろに立つテンマに目を向ける。


「ところで彼は? 今まで見たことがないのだけど、こんな人いた?」

「今日来たばかりの新人。隊長らが私の人使いが荒いから増やしてもらえるように頼んだの、したらこれが来た」


 ユユキと目が合いテンマは軽く会釈するが彼女は鼻で笑いモニターへと向き直った。


「用は終わった、テンマ帰ろう。ここを出たらあなたを職場と生活に必要な場所だけ案内するわ、それが終わったら倉庫の整理を手伝ってもらうから」


 そういうとリンネは踵を返し来た道を戻ってテンマを連れて部屋を出ていく。



 そして2日後、ユユキの手配によって駐車場に護衛の一般兵と精鋭が集められた。

 金色の幾何学模様の刺繍の入った黒い制服の精鋭、陽光隊。


 リンネとユユキは防壁の外にある一般兵の基地の一室から外の駐車場を見ていて、その少し離れたところにテンマがポケットに手を突っ込んで立っていた。


「護衛の精鋭は竜胆隊をつけることにしたわ。王都からの命令で派遣されている黄薔薇隊は私ひとりの判断で貸し出せないし、今このシェルターを守っている他の隊は実力が信用できないから」

「ありがとうユユキ」


 腕を伸ばしリンネはユユキの頭を撫でようと腕を伸ばしたが彼女は身を逸らせてそれをよけ、リンネは空を切った手を見てそっと下ろす。


「何度も言っておくけど霊峰樹海の中には入らないでよ、外側の生体兵器から採取を行うこと。樹海から生体兵器が出てきたら竜胆隊に戦わせその間に逃げること、あそこもう何年も誰も行っていないどんな生体兵器が居るか不明だから」

「わかったわ、樹海には入らないと誓う」


「絶対ね、私これ以上カガリ様の迷惑になることは避けたい。私のためにも」

「この間も身震いしていたね、まだ寒いから体を温めたほうがいい。症状を言ってくれれば薬を持ってくるけど」


「大丈夫よ、これは病気とかじゃないから。時間通りに行動して、竜胆隊は厳しいから」

「そう? じゃあ体には気を付けて」


 ユユキに手を振りリンネはテンマを連れて部屋から出て駐車場へ向かう。



 リンネが扉を閉めたところでユユキとの会話中ずっと黙っていたテンマが口を開いた。


「なぁ」

「なに?」


「なんか生体兵器とか外とか言ってるけど、俺がここに来た時話していたやつか?」

「ええ、表に出るの」


「今日とか俺聞いてないけど……、何の準備もしてないぞ?」

「言う必要ある? あなたはただの荷物持ちでしょ。準備する荷物もないでしょう」


「……そうだけどよ」

「早くついてきて荷物持ちのテンマ。あなたには荷物持ちの仕事があるわ」


「……というか他の隊員はいないのか? ここに来てから俺はあんたの姿しか見ていないが」

「隊長を含めてあと三人いる。けど他は皆研究棟に籠っているわ。研究者の多い非戦闘員の桜の隊、特にうちの隊はご老体ばかりだから杖と車椅子移動がでふぉな彼らの中でしっかり動けるのは私だけ。どう、荷物持ちが必要な理由が分かった?」


「ああ、ここにきて二日経ってようやくな。なんで急に俺が精鋭になったのかよくわからなかったが、非戦闘員の精鋭での荷物持ちなら戦闘力は必要ないもんな」

「そういうこと、誰でもよかったからあなたが選ばれた。さて、じゃあ行こう霊峰樹海に」


「でもそれ、他の研究員捕まえて荷物持ってもらえば俺いらないんじゃないか?」

「嫌よ。私は生きていくうえで不要な人間とあまり関係を広げたくないの」


「ずいぶんと閉鎖的なんだな」

「そうよ、だからあなたとはそこそこ長い付き合いになると思うわ。異性が苦手だからあまり私に近づかないでね」

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