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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
15章 青々として毒々しい呪われた魔境 --命を硝子の中に閉じ込めて--
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黒衣の女性 1

 北の地にある薬品などの研究そしている施設が大半を占める開発系シェルターシュゴウ。

 シェルターの中央に巨大なドーム状の建物のありその周囲に近未来的な不思議な形の建物が多い、その町の中を金色の幾何学模様の刺繍の入った黒い制服を着た男がシェルター内をうろついていた。


 刺繍入りの黒い制服は歩いている男に似合っておらず服に着られている印象を受け、かっちりとした制服とは裏腹に男自体は非常に頼りない感じ空気をまとわせている。


「くそ何だってんだ……いきなりこんなところに連れてきて」


 ぼそりとつぶやく男の荷物は手にした一枚のメモ紙のみ。

 コンクリートとガラスしか見えない緑の少ない町の中を彷徨いながら、手書きの地図に従って目的の建物を探していた。


「王都の連中……俺をどうする気なんだよ……。ここのところいいことねぇなぁ、そろそろおもちゃにされて殺されるのか?」


 手書きのメモに書かれたとおりにいくら歩いても景色の変わらない道を進みようやくついた目的の建物に入ろうとしていると、建物の中から彼と同じ黒い制服に幾何学模様の金の刺繍の制服に身を包んだ女性が出てきて鉢合わせる。


「きゃあ!」

「おっと!」


 片方はメモ紙を見ながら歩きもう片方は携帯端末片手に急ぎ足で歩いていたためぎりぎりまで気が付かず危うくぶつかるところで間一髪、二人同時に反射的に後ろに下がり衝突を避けられたが、オーバー気味に後ろに飛びバランスを崩し女性の方は鞄を抱えて尻もちをつく。


「悪い……よそ見してた」


 手を差し伸べるが女性はその手を取らず自力で立ちあがった。

 制服の上着のボタンを外し開けており彼女の大きな胸がその上着の両端をより大きく開けていて、首から下げた身分証がその胸に押し上げられ宙に浮き後ろに下がった勢いで行き場なく振り子のように揺れている。


「大丈夫か」

「ええ、よそ見を……」


 男は謝り女性の顔を見みた。

 彼女の目は虚空を見ているかのように虚ろで異質な雰囲気を漂わせており、そのせいで彼女は生気を感じない幽霊のような印象を与えている。


「ああ、ここにいたのね。待っていたわ」

「待ってた? あんたが俺をここに呼んだのか?」


 ぶつかりそうになりわずかに驚いた表情を見せたが女性は息を整えて彼と向き合う。


「ところで、あなた名前は?」

「俺か? 俺は今日付けで陽光隊に配属されたナグモ・テンマだ。それで……俺は何をすればいいんだ、見たところ同じ服だよな? ここの住人みんなこの服じゃなきゃあんた俺の先輩か上司だろ?」


 服装は一緒、地図の建物と間違いもなく、おそらく自分の上司だろうと思いテンマは尋ねた。

 生気がないように見える虚ろな目を見て不気味さから思わずテンマは女性から距離を取る。


「そう、丁度よかった。テンマ、この荷物をもってついてきて。重くて大変だったの」

「了解。で、俺の質問には答えてくれないのかよ……」


 女性の持つ鞄を受け取るがそれは重くはなくテンマは片腕で持ち上げ肩に担ぐ。


「力持ちなのね」

「いやこれぐらい重さの荷物、扱ってた道具からしたらどうってことない。それに、これ言うほど重いか?」


「自己紹介が遅れたわ、陽光隊副隊長、オオグモ・リンネ。その鞄の中薬品が入っているから、ぶつけたり振り回したりしないでよ? 割れたら物理で首が飛ぶ」

「流石に子供じゃないからそんなことはしねぇよ。なるべく安全に運べばいいんだろ」


「今よそ見してぶつかりそうになったのに、安全に運べるの?」

「……確かに」


 担いだ鞄を下ろした。

 リンネは遠くからでもはっきり見えるドームのほうを指さし歩き出すとテンマもそのあとを追った。

 歩きながらリンネは話を続ける。


「ところで、あなた薬についての知識は?」

「ねぇよ、この間まで一般兵として生体兵器と戦ってきたんだ……。薬どころかまともな学もねぇよ、読み書きは最低限手ところだ」


「下層か、ワースト上がりなのね。言葉使いでそんな気はしたけど」

「……悪いかよ。そっちは全部調べ上げてるんだろ、いちいち聞くなよ」


「そうね、でもコミュニケーションは大事でしょう。仲良くしましょう」

「……なかよく?」


「どうしてあなたはこの隊に来たの?」

「知らねえよ、いつもの仕事帰りで一杯飲もうと安酒買って家に帰るところだったんだ。そこに王都の高層の使いが来て突然俺を車に乗せたんだ。乗ってすぐに俺は薬で眠らされて気が付いたら……俺が何したってんだよ……」


「じゃあ、使い潰していい人材といっていいのね?」

「できれば大切に扱ってもらいたいね、こんな服着せられてるが所詮凡人以下なもんで。仲良くするんだろ?」


 王都を出てもこんな扱いかとため息を吐きテンマは肩を落とす。


「確かに、まぁ、助手が欲しかっただけで実験台は間に合っているからしばらくは大丈夫そうね」

「助手に欲しかった? あんたが俺をここに連れてきたのか?」


「ええ、王都では人がある日突然いなくなるなんてよくあるでしょ。たまたまよ」

「……なるほど。じゃ、せいぜい俺は実験台のほうに部署移動しないように頑張るよ」


「聞き分けがいいのね、もっと駄々をこねたりしないの?」

「それで変わるならやるけど、あんたに手をあげたり指示に従わなかったら実験台行きなんだろ?」


「ええ、飼い主の言うことを聞かなかったら躾直すよりそれが一番手っ取り早い」

「なら従うよ。あんたきっとペットとかに愛情とか持たないんだろうな」


 身分証を提示しドームに入るとテンマに持たせていた荷物を受け付けに預けて奥へと進みエレベーターへと乗る。

 扉が閉まりえれーべーた―が上に上がり始めるとリンネがテンマから距離を取って壁に寄りかかる。


「あまり近づかないで頂戴、男性は苦手なの」

「ああ、悪い。わかった離れておく」


 上へと向かうと最上階で降り、その階には一つしかない扉を開けた。



 シュゴウシェルター中央ドームの頂上階では多くの研究員たちが、毎日送られてくる情報を整理し各部署に指示をだすための複数のモニターと向き合う作業を行っていて入ってきたテンマたち二人に気づいた様子はない。

 部屋に入るとリンネはまっすぐ作業をしている一人のもとへと向かっていく。


「突然悪いけどユユキ、お願いがある」


 リンネの虚ろな目はまっすぐ眼鏡をかけた青い髪の女性を見下ろすし。

 見下ろされたユユキはタブレットを膝に置きキーボードに資料を打ちこみながら答える。


「受付から連絡があって来たことは聞いてた。わざわざこんなところまで足を運んでいただいて、連絡をくれればちゃんとした部屋を用意しますのに。生体兵器用の麻酔薬と個人的な薬をいつも配達ありがとうございます。少し待って、きりの良いところまで」


 そういわれリンネは少しモニターの並ぶ作業机から後ろに下がった。

 資料の打ち込みが終わりユユキはタブレットを机に置いて立ち上がりリンネを見る。


「……できた。それでどうしたのリンネさん?」

「シェルターの外に出たい、許可をもらえる? 精鋭の権限があって自由にシェルターを移動できるけど、私たちは戦えないし護衛や車両の貸し出し、いない間の担当の引継ぎとかいろいろと許可がいるから」


 リンネは机の端に寄りかかると黒い手袋をはめた手を伸ばし、ユユキの髪をなでながら話を続ける。


「だから許可をもらいに来たの、隊長からの指示よ」

「あの、撫でるのやめてください。髪が乱れるんで」


 同じ部屋で作業していた他の者たちは黒衣の女性を多少気にしながらも手を止めることなく作業を続けていた。

 そんな様子をテンマは特にすることもなく、黙ってその場で眺めている。


「それで何をするのですか? 目的は何?」

「南に行きたい。だから外出許可をだしてほしい、シェルター統括者の代理だからそれくらい簡単でしょ?」


「具体的な場所を……変わりが見つからないからやらされてるだけで、別にやりたくてやってるわけじゃないのだけど」

「まぁ、何でもいいから頼むわ」


「知ってる? 私、この間の生体兵器脱走の責任負って次何か問題起こせば、研究対象の餌にならないといけないのかもしれないのだけど」

「それは私には関係がないことよ王都の下層ではそう珍しい話ではないでしょう」


「そうだけど、一応私は高層に籍を置いているはずなんだけど。で、南に行くって言っても具体的な場所を言ってくれないとわからないわ。ここより南が多すぎる、どこかのシェルター? 王都? 連合? 行っておくけど精鋭を連れても魔都はダメよ、災害種を倒したとしてもあそこにはまだ生体兵器が多くて危険なんだから」

「地図的には連合よりはずっと上、植物型の生体兵器を見に行きたい。場所は行ったことがないからしっかりとした場所までは分からないが、霊峰樹海の植物型生体兵器群」


「馬鹿じゃないの?」

「馬鹿じゃないわ?」

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