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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
14章 魔都侵攻作戦 ‐‐死と慟哭の街‐‐
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報告を待つ 2

 食糧の箱を抱えて装甲バスへと帰ってきたフルタカは机に箱を置きヘットセットをつけ携帯端末をいじっているキイの隣に腰を下ろす。

 彼女は精鋭の制服を着ておらずシェルター内で過ごすような普段着を着ていた。


「人が仕事してるときによ、キイは何してんだよ」

「暇でねぇ、時間があるから、新曲を作ってるのさ。魔都の中で曲のイメージもできてたし。いまの私にできることはないからさ、戦わないから勝手から袖通してない服着てる」


 ヘットセットを外し治療を受け包帯を巻かれた足を見せつけ、キイは携帯端末の操作を続ける。


「まったく歩けないってのは不便だよねぇ、歩行の補助に松葉杖をもらってもトイレ一つまともに行けない。もちろん戦闘もできないし、私はアサヒのような頭もよくないから頭を使ってできることが少ない」

「だからってよ、別に遊んでいていいってわけでもないんだけどよ」


「けが人は安静にしてるのが仕事でしょう。だからこれは私にとっての大事な仕事さ」

「そうかよ。なら酒はしばらくなしだな、病人には毒だろ」


「いやいや、酒は薬さ、百薬の長さ、十の徳さ、なければ私死ぬよぉ」

「そんなキイに朗報だ、お前の隠していた酒はよアサヒがほかの精鋭に祝杯として配りに行ったぜ」


 キイはフルタカを見たまま無言で固まり少しして、つうっと涙が彼女の頬を伝う。


「そんなかよ! まてまて、大の大人が泣くなよ、それも無言で。まだちゃんとあるこれが最後だ、本当に最後だからな大事に飲めよ!」


 フルタカから差し出されたスキットルを受け取りキイは大事そうに抱え込む。


 二人が話していると司令部へと行っていたアサヒが戻ってきた。

 腕にはキイと同様治療を受け包帯が撒かれており、テーブル席まで行くと二人を見る。


「今戻った、二人ともそろっているな」

「おかえり、司令部に行ってたんだっけ? それでなんか言ってたかい?」


「撤退の準備を始めてくれと、結局他の薔薇の隊や一般兵が戻ってくる気配はない。現在わかっている限りの被害報告は負傷者60名、重傷者80名、死者約220名、魔都に入った精鋭含め行方不明者約1200名。生存は精鋭や負傷者含め230名ほど」

「だいぶやられたね」


「災害種との戦いでこの程度ならいい方だと思うが? シェルターの防衛能力でも撃退しきれなかった相手だ、死者や被害も想定内だったはず。よくやった方だ」

「でもこれで、もうこの周囲のシェルターは魔都に怯えることはないんだね」


「そうだ、前クラックホーネットに家族を殺され故郷を奪われた俺たちの復讐は終わった。女王の死を確認していないが、生きていたとしても前のようにシェルターに大群で攻め込むことはなくなるだろう」

「私らの目的なくなっちゃたねぇ、火がふっと消えたような寂しさだ」


「しかしこれからも生体兵器と戦っていく」

「私らにはそれしかないからねぇ。普通に働いて生きていくにも頭のいいアサヒや力のあるフルタカなら大丈夫だろけど私はほかに生きていく方法も考えつかないしねぇ。私をアサヒかフルタカがもらってくれるといいんだけどねぇ」


「……これから戦うにしても、まずはこの怪我を直さなければならないけどな」

「私たちのちぎれた手足は回収したんだっけ?」


「いや、それどころじゃなかったし。誰にも伝えてないから他の精鋭も拾ってきてはいない、探しに行くのも危険だ。もう生体兵器二食べられていてもおかしくない」

「そうなると、私らは失った部分を複製してもらわないといけないじゃないか。復帰には時間がかかるねぇ。足繋げても神経を直す薬は使うと体中痛いんだよね。もっと痛くないの作ってくれないかな」


 そういって自分の足をさするキイ。

 静かに話を聞いていたフルタカがアサヒに尋ねる。


「なんであれよ、しばらく俺らはしばらく活動停止なのかよ?」

「だろう、悪いがフルタカはしばらくシェルター防衛任務をしてもらうことになる。望むなら別の隊にしばらく移籍していても構わない。戦わないと腕がなまるからな」


「それは別にいいがよ、王都に戻るんだろ?」

「せっかくの薔薇の隊だからな、腕のいい医者に診てもらう。その前にこの傷口をちゃんとしたところに見せる、一度どこかのシェルターで傷が膿んでいないかを検査してもらう必要があるからな」



 その日の午後、クラックホーネットの死骸を狙ってやってくる生体兵器の対処をしながら撤退の準備が進められていると拠点へ向かってくる鉄蛇の姿があった。

 大きな汽笛の音に一般兵も生体兵器も反応し向かってくる鉄蛇のほうへと向かっていく。

 向かってくる生体兵器を排除しながら鉄蛇は速度を落とし、人の歩く程度の速度になると扉が開き一般兵と精鋭が降りてきて周囲の警戒に当たる。


「作戦終了です、撤退指令が出されました! 薔薇の部隊は帰ってきていますか?」


 速度は人の走る速度と同じほど、ゆったりと走る鉄蛇の上から一般兵が駆け寄ってくる生き残りの一般兵たちに尋ねた。

 しかし、戦闘による線路の変形による擦れや軋み、下敷きになった生体兵器の粉砕音などのをあげる鉄蛇の走行音のほうが大きく無線機を使っても伝わらないか伝わっても返事が聞こえない。


 生体兵器の死骸を押しつぶし拠点に入り鉄蛇が完全に停車するとスロープが伸び、戦闘車両や工事車両を下ろすときになってようやく会話が可能となる。


「戦闘の結果は、クラックホーネットへの攻撃は成功したのですか? 薔薇の精鋭は戻ってきていますか?」

「戻ってきている。黄薔薇隊と青薔薇隊の二つが、残りは戻ってきてはいない。おそらく帰ってくることはないと思われる」


 ようやく届いた問いかけに仲間に運転してもらい車両でやってきた躑躅隊の隊長が答えた。


「わかりました、報告書の提出を。使える物資と生存者を回収します、動ける方は協力してください。回収後この場を離れます」

「この間に犠牲者と負傷者を回収してもらえるか。彼らを早く家族のもとへと返してあげたい」


「わかりました、収容しますので負傷者を連れてきてください。それと金属や薬品、この拠点にある資材はできる限り回収します。手伝ってください」

「了解した、出来る限り手伝おう」


 鉄蛇から百足の脚のように無数のクレーンが伸び、すでに作業していた一般兵たちが集めた鉄くずを回収し始めた。


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