乾杯 2
装甲バスがドームを壁沿いに回り生き残った者たちと合流するため精鋭用の宿舎の前へと向かう。
生き残った者たちは宿舎を大きな円を描くように車両を止め、さらにその内側に装甲車と戦車の円を作り砲塔は円の外側に向けられバリケードを作り、使える大型のエクエリの対空砲をかき集めて隙間を埋めるように配置していた。
「全滅ではなくてよかった」
「でもよ、この拠点にいた人間のどれくらいが生き残ったのか。ここからでもよだいぶ人が少ないってのはわかる」
バリケードの中にはクラックホーネットの死骸はなくきれいに排除され、代わりに仮設のテントや戦車や装甲車がエンジンのかかった状態で待機し青薔薇隊の乗った装甲バスはバリケードの前で止まる。
装甲バスへと向かってきた一般兵はの戦闘服は血まみれで、この場所での戦闘が激しかったことを物語っていた。
「戻ってきた精鋭はあなたたちだけですか? 報告ではほかにも隊がいたと……」
「いいや、我々は戦闘で負傷し先に戻らせてもらった。他の精鋭たちが後から来る」
血だらけの一般兵は装甲バスの後ろを確認し再度訪ねる。
「車両を今動かします。そうしたらこの車両をバリケードの一部に」
「ああわかった。頼む」
車両が動かされ装甲バスはバリケードの内側へと通されると、そこで降りるように促されアサヒとフルタカは車両を降り一般兵の後に続いて戦車と対空砲の隙間を縫って入っていく。
キイへ酒に手を付けないように言いつけアサヒは車両を降りる。
宿舎の前には死体袋が並べられていて大型のトラックへと運ばれているのを歩きながら問いかけた。
「彼らは建物の中に入れないのか? まだ来るかもしれないクラックホーネットの襲撃で連れていかれるかもしれないぞ」
「一応積み終わったらうえにシートをかぶせます。あの宿舎の中にはけが人が集められ手当されています。もう薬も足りず死者はこれからも増えるでしょう……」
「そうか、すまない」
バリケードの内側で働いている一般兵たちだが戦闘兵の数は少なく、そのほとんどが非戦闘員のようで白衣やエプロンなどを着こんだものが多く見え彼らは慣れない手つきで作業に当たっていた。
バリケード内にいる戦闘兵たちは皆血に汚れた戦闘服を着ていて包帯や杖を突いている。
「この先が指揮所です。先に戻ってきた他の精鋭もそこで休憩を取っています」
「ありがとう。仕事に戻ってくれ」
案内していた一般兵は元の位置へと戻っていきアサヒたちは指揮所へと向かう。
指揮所は建物の中から持ってきた長机が並べられ、周囲には戦い生き残った精鋭たちが座っていて食事や談笑をしている。
「青薔薇隊ただいま魔都から帰還した」
「おかえりなさい、魔都からの帰還ご苦労様です。大変だったでしょう、襲撃があるまでここで休んでいてください。バッテリーやその他備品足りないものがあれば作業をしている一般兵に言えば用意してくれる」
指揮を執っていた女性の精鋭がアサヒの負傷した腕をちらりと見て話しかけてきた。
「手酷くやられたな。私は現在ここの指揮を執っている躑躅隊のクビキレンカだ。現在戻ってきた精鋭は有事に備え皆休憩を命じてある。あなたたちも食事や睡眠をとり休むといい」
「俺は青薔薇隊隊長タカチホアサヒだ。補給は助かる、それと部下が一人足を負傷し歩けない。休息は戻ってでいいか?」
「そのものの怪我の具合は? 薬の残量が心もとないが治療は優先させるぞ? その腕の怪我も見てもらうか?」
「いや、俺もそいつも持っていた傷薬で処置はできた。大丈夫だ、ありがとう。それで待機の件だが」
「待機はできれば近くがいいのだが、車両を入れると場所を取られる。……仕方ない、精鋭たちも戻ってきていた戦力には問題ないから大丈夫だろうかまわない。戦闘になりそうならこちらから連絡する」
「よろしく頼む」
躑躅隊の隊長と軽く話すとアサヒは先に帰ってきていた精鋭たちに挨拶へと向かい、軽く食事をつまみフルタカはバッテリーを受け取って精鋭たちと話しているアサヒへと近づく。
「アサヒ、俺は先に戻る。あんまり放って置くとキイがよ酒を飲み始めちまう」
「確かにな、見張っておいてくれ」
返事を聞くとフルタカは装甲バスへと返っていった。
エクエリのバッテリーを抱えてバスへと戻ってくると床に座ったキイが出迎える。
ドアの前で胡坐をかいて座る彼女はエクエリを手元に置き、携帯端末をもって待っていた。
「おかえりフルタカ」
「おう、何してんだよ?」
彼女のそばに落ちている濡れた手ぬぐいには血が付いている。
「座ってても暇だったからさ、この血だらけの足をきれいに拭いておこうと思ってここまで来たけど。それも終わって出迎えようと待ってた。したらさ、連絡があったんだよ」
「どこからだよ?」
「黄薔薇隊、の副隊長さんたち」
「なんでお前にそんな連絡が、普通はアサヒに行くもんじゃねえのかよ?」
「たまたまでしょ、さっき戦ってた生体兵器を駆除して拠点に帰ってきたと。どこにいるか質問されたからここの場所を教えておいた」
「なんだよ、場所教えたのにまだ連絡とってるのかよ?」
「今はグループで雑談してる。動ける装甲車で拠点内走ってるみたいでさ、暇つぶしだよ」
「まいいけどよ、とりあえず床じゃなくて椅子に座れよ。そこに居るとコーヒーが飲めない」