乾杯 1
アサヒは小型の生体兵器に目もくれず、大型の生体兵器へ向かって走り出す。
フルタカは腰を落としてエクエリを構えいつでも撃てるように息を整え引き金に指をかけた。
「できるだけよ、あいつの頭を下に向けてくれ。一番大きな傷がよ頭のてっぺんにあるんだ。最後の一撃、外したくないからよ確実にそこに撃ちこみたい」
「ああ、任せろ。隊長として部下のために働かないとな」
飛び掛かってくる小型をよけアサヒは大型の生体兵器のもとまでたどり着くとエネルギーの切れたエクエリで脚を叩きながらフルタカたちのほうへ振り返る。
「撃てるかフルタカ?」
わざわざ大型の目の前まで向かってきたアサヒ。
死にかけとはいえど目の前にやってきた獲物に当然噛みついてくる。
その大顎をアサヒが小型のエクエリを盾にして受けとめると、ギシリと鉄の塊が軋んだ。
同時に小型の生体兵器がアサヒに飛び掛かり強化繊維に噛みつく、それらを蹴飛ばし振り払おうとするとアサヒは体制を維持していられず地面へと押し倒された。
「ちょっと、アサヒ!」
「狙える任せろよ、当てて見せる」
フルタカから放たれた光の弾は向けられた穴へと吸い込まれていき、外骨格に空いた穴の中で眩しい光が広がる。
頭の内部を破壊された大型は崩れ落ちるように地面に倒れ、中身の消失した頭が体から外れて転がった。
「ちゃんと当てたねぇ」
「バッテリーがなくなったからよ、もうこれはただの荷物だけどな。いよいよ生体兵器と戦う武器がなくなったな」
大型を倒しても終わりではない、フルタカは大型のエクエリを背負いキイを拾い上げ走り出す。
追ってこようとする小型の生体兵器たちは体中がボロボロで彼らの追いつけるほどの速さを持つ者はいない。
「いつまで寝てるんだよアサヒ。行くぞ、立てるか? つってももうキイがいるから担げないけどな」
「ああ怪我はない、いまいく」
進めど進めど拠点内はクラックホーネットの死骸ばかり。
変化があったとすれば死骸は気化弾頭のミサイルによる熱ではなく、エクエリの弾によって倒されたというところか。
昆虫型の生体兵器の体液に交じり血だまりがいくつかあったが人の死体は見当たらない。
「血の跡はあるのに、人はいないね」
「食われたか連れていかれたんだろうよ、あの時みたいに」
「見えてきた、俺らの装甲バスだ。ひとまずあの中に入れば替えのバッテリーと小型の攻撃を防げる」
アサヒが鍵を開け車内へと入る。
数日ぶりに帰り車の懐かしい匂いに三人の緊張がゆるんだ。
フルタカはキイを下ろすとまっすぐコーヒーメーカーのほうへと向かっていく。
「二人も飲むよな、走りっぱなしだったんだ喉乾いてるだろ?」
「ああ、もらおう」「私も欲しい」
席に座り片手でタブブレットを操作していたアサヒがテーブルまで這ってきたキイを席に座らせる。
彼女は机に突っ伏し疲れたと呟き大きく息を吐いた。
「さっき走りながらちらりと見たが、通信施設が破壊されている。先に逃げた一般兵と精鋭たちと合流しないと……基地全体に通信を繋げるとするならアンテナ車を探す必要があるな。その前にドームのほうへ行ってみるか、避難しているかもしれない」
「外に行くなら私はここで待ってるよ。この足じゃぁ二人についていけないし邪魔だろ?」
「ドームまでこの車両で向かう。生体兵器ぐらいなら体当たりでなんとかなるだろ。フルタカ、それ飲み終わったら運転頼めるか」
「なら私は助手席から小型のエクエリでも撃ってるかね。それともアサヒが助手席座るかい? 私はもう酒飲んで休みたいよ」
「キイ、足は大丈夫か? 痛むなら鎮痛剤を探してくるが」
「私は大丈夫だよ、アサヒの腕はどうなんだい?」
「軟膏が聞いていて出血も痛みはない」
「私もおなじさ」
青薔薇隊は休憩を挟み、小型は踏みつぶし大型やたまにいる中型は押しのけ拠点内をすすむ装甲バスはドームへと向かう。
ほどなくしてついたドームは大きく崩れていて中に入れそうにはない。
瓦礫の間に長い毒針が突き刺さっていてまだ一部が煙を上げている。
周囲にはクラックホーネットに食いちぎられた血の付いた車両の残骸の山。
装甲バスはドームの近くをゆっくりと走りアサヒが携帯端末で周囲に誰かいないか呼びかける。
「こちら青薔薇隊、誰かいないか? 現在ドームの近くにいる、誰かいたら返事をしてくれ」
倉庫も兵舎の集まった場所もそれ以外の建物も天井は破壊され建物の中に生体兵器の死骸が見えた。
「やっぱりクラックホーネットの総攻撃を受けたのか、しかも耐えられなかったぽいよな」
「だろう、だがそのおかげで俺らが魔都の中をクラックホーネットと戦わないで進むことができた。ここがこうなるまで耐えてくれたからこそ俺らは無事に帰ってこれた」
「でもこれじゃ作戦は成功してもよ、勝った気がしねぇよ。この状態、ヒバチと変わらねぇじゃないか」
「実際、巣は破壊したが女王はどうなったかわからないしな」
「魔都が崩れたあの落盤でよ、女王は死んでいないと思うか?」
「国を壊した張本人、数十年物の生体兵器だ。過去にいたウォーカーと同格かそれ以上の大きさだと思っている。子を増やすために適用していれば外骨格の硬さは必要ないと退化したかもしれないが」
「世代交代したってのはないのか?」
「無くは無い、しかしそうすれば数匹の女王がいたことになるな。魔都から出た個体はないからそのすべてが魔都にいたことになる」
フルタカと話しているとアサヒの携帯端末にノイズが入る。
『こちら作戦本部、青薔薇隊無事の帰還を心から嬉しく思う。すでに先に避難してきた一般兵と精鋭たちはこちらに来ていて、精鋭は武装を整え周囲にいる瀕死の生体兵器の駆除に向かっていった』
「こちら青薔薇隊そちらに合流したい、場所はどこか」
『こちらの場所はドームの南側、精鋭用宿舎の前の専用駐車場だ』
「了解した、今からそちらへ向かう」