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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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野に咲く花、5

 食後、食器を片づけ広くなったテーブルを中心に集まり、蒼薔薇隊5名、朝顔隊3名、蒲公英隊2名が配られた紙の資料を読んでいる。

 トウジの運転でトガネとライカを連れてシェルター内を迷子になり、蒲公英隊と夕食帰りの朝顔隊の協力を得て帰って来たのがついさっき。

 ちょうど10人なので蒼薔薇隊5人に朝顔隊、蒲公英隊が向き合って座っている。


 各隊、三人の隊長を中心に各隊の隊員と副隊長が座っていて、誰かが口を開くのを待っていた。


「今回の撤退を含め、報告書に書いてある通りだ」


 きりきりと胸を締め付ける緊張感の中、蒼薔薇隊の隊長が口を開いた。

 トヨがトガネとライカを送り整備場によって、途中で朝顔隊と話している間にまとめたであろう報告書を各自の携帯端末に送信する。


「おっきな鰐ねぇ……」


 端末を操作し報告書を各自が読んでいく中、ツバメが呟く。


「なんか名前付けません? 大鰐子鰐じゃ、なんかこんがらがる」

「じゃあ正式名で、呼ぶ? 50字程度あるけど。外国語で発音に舌噛むよ?」

「まじかっ!」


 それにつられてイグサが誰に向かってでもなく呟くと、ノノが携帯端末を操作し大ワニの原形をなった生体兵器を並べる。

 画像は数種類の生体兵器、各生物としての特徴を受け継ぎ今の形を作っている。

 生体兵器ができて暴走し野に解き放たれ、その場その環境に適応するための掛け合わせや進化退化など、日々生体兵器はその形を変えている。


「せめてコードネームくらいなら、会ってもいいんじゃない?」

「別に、いらないでしょ、どうせ、すぐに倒すんだし」

「大ワニ小ワニでいいじゃんもう」

「とりま、名前よりも本題のどうやって倒すか話し合いません?」


 呆れたようにライカも話に加わる。


「名前うんぬんは、話がずれてますからね。さてそれではみなさん資料には目を通しましたよね。生体兵器をどうやって倒すか話し合いましょう」


 トヨが加わったことで雑談をやめ、部屋は静かになる。


「んじゃそっちで」


 そういってツバメが背もたれに寄りかかる。


「はじめ方こっちの話でしたよ、隊長」

「最初に話をずらしたのはイグサだもん」

「人のせいにしないで」


 朝顔隊が一通りの茶番を終わらせると蒲公英隊の副隊長が言葉に詰まりながらも話し始めた。


「思案、川に雷撃弾を撃つ……まとめて倒せるかも」

「確かに、何でトヨがいたのにそれを実行しなかったの? あの大型なら威力は十分だったでしょ」


 ノノの発言に合いの手をいれたツバメ、ノノは話の中心を取られたとツバメを睨むがツバメは気にしない、そこにトガネとライカが答える。


「んー、予想外の方向から予想外の敵に鉢合わせちゃってね、俺っちたちはやむなく」

「そっちの相手をすることになったんです。慎重に相手の強さを調べてはいました」

「でも、情報不足、困る」


 蒼薔薇隊も気に入らないのか攻撃的なノノ。


「残念ながら、俺たちは地上に居た一匹にやられた。川まで行けていない」

「私を助けるために本来の作戦を変えての戦闘になったんです、サジョウ隊長に非はありません」

「どうでもいい。成体の大きさ、特徴、戦い方、得意地形、習性、数、ベース種以外の混じり物、行動パターン、主な食べ物、最も活発な活動時間帯、この戦闘で何かわかった物は」


 ノノの質問に首を振るトキハル。


「ない、報告書に書いてあるのがすべてだ」


 ツバメが口をはさみトヨが補正する。


「何それ?」

「蒲公英隊は生体兵器の生態系を調べて、有効な対処策を一般兵に伝える隊です」


「ふーん、そんなの有るんだ、情報集めてどうするの、売るの?」


 話しについていけていないツバメが蒲公英隊に聞いた。


「うちの隊は、隊としての戦闘能力というより分析能力が高いですかね。ノノのおかげですけど」


 コウヘイは自慢げに彼女のヘルメットをポンとたたいたが、当の本人には蒼薔薇隊の隊長をじっと見ていた。


「なぜ、挑んだ……相手を、知らずに、相手は、兵器、人を、容易く、殺せる。戦場は、状況を見極められない、無知な者から、死んでいく」


 ノノのそのつっかえつっかえの言葉には怒気が入り、やる気があるのかないのかわからない同じ精鋭の朝顔隊とかなりの温度差がある。


「ノノ!」


 制止されうつむいたノノはギュッと下唇を噛みしめる。

 ヘルメットの奥で目がトキハルを睨んだ。


「普通そんなの調べないでしょ、私達なんて行き当たりばったりばかりだし」


 話しに飽きてツバメがイグサの脇腹を突っつくちょっかいを出しながら、ノノに返事を返す。


「でも、主食はともかく活動時間帯と行動範囲は知っておいてもいいと思いますけど」

「えー、パパッと倒した方がいいでしょ」


 朝顔隊が話に混ざってきて、トヨが何か言おうとしていたがタイミングを失い彼女も俯いた。


「生体兵器はそこらじゅうに居る、いちいちそんなことをしている暇はない」


「だから負けた。だから怪我人が出た……注意を怠った、隊員を怪我させた、隊長として失格」

「ノノ! すみませんサジョウさん、余計なこと言って」


 再び制止されたノノはビクッと体を揺らし、椅子をずらしてコウヘイの影に隠れた。


「まぁまぁ、蒲公英隊の隊長君、ノノちゃんを怒らないで上げて。俺たちが情報不足で返り討ちに会ったんだから実際その通りなんだから」


 怒られたノノがかわいそうに思ったのかトガネが口を挟む。

 だれも蒲公英隊のノノの名前だけを覚えたところに突っ込み入れなかった。


「トガネはどっちの味方なんですか?」

「女の子」


「はぁ?」


 当たり前だと言い切るトガネに、トヨが声を裏返す。


「普段は聞き流すトヨちゃんが本気で呆れてる!」


 その後の話で、蒲公英隊が廃墟へ向かい持ち帰った情報を頼りに作戦を練り直すという方向にこの作戦会議は進んで行った。

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