魔都を抜けて 3
大型の生体兵器との遭遇に動じず接近される前にアサヒは指示を出す。
「全員停止、正面の生体兵器を排除する!」
精鋭と一般兵たちは立ち止まりエクエリを構えお互いが射線に入らないように広がると一斉に攻撃を開始する。
巨体は攻撃を受けながらも生体兵器の触手の先から糸を噴出し、勢いよく飛び出た糸は太く綱ほどある太さで広がった一般兵たちの上に降りかかった。
とりもちのように踏みつけた一般兵たちの身動きが止まり、なにより一本の綱となっている取り持ちは人の力では千切ることができず4本の綱は多くの一般兵と精鋭をからめとる。
「おい、アサヒよ、奥にもう一匹いる。今の攻撃を避け切れたのは数人の一般兵と早く反応できた精鋭の一部だけだ」
とっさにアサヒに体当たりし、広く撒かれたとりもち縄の範囲から逃れたフルタカが立ち上がりながら生体兵器の近くの建物を指す。
同じ型の生体兵器が建物の上の階からにゅるりと出てきて、アサヒたちを見つけると同じように触手を向け糸を追加で撒いてきた。
「足止めを受けているこの状態で逃げることはできない、このまま倒していく」
身動きの取れない一般兵たちの上にさらに粘着糸が撒かれた。
しかし最初の一匹は接近することもかなわず集中攻撃を受けすでにボロボロ、すでに後は一般兵に任せ精鋭たちは次の生体兵器を攻撃し始めている。
「やっぱりよ、数が多いと大型でも倒すのが早いよな」
「ああ、小型でも集まればかなりの火力だな」
小型のエクエリに交じり精鋭の持ついくつかの大型のエクエリもある決着は早くついき、一匹目を倒して間もなく足元を集中攻撃し二匹目が建物から剥がれ落ち地面にたたきつけられた。
他に生体兵器がいないか探し現れた小型の昆虫生体兵器を蹴散らすとからめとられた者たちの救助が始まる。
とりもちは粘土のような柔らかさですごく粘着力が強く軽く触れただけでも引きはがすのに手間がかかる、踏んだり服や髪についてしまえばとるのは容易ではない。
しかし幸いなことにクラックホーネットの毒のまき散らしを警戒していたため一般兵の頭にはマスクとヘルメット、精鋭は迷彩マントや迷彩ポンチョなどとマスクがあり大半はそれらが代わりにトリモチに張り付いていた。
「他に生体兵器はいないか?」
「今のところはいないようだな、このねばねばどうするよ。エクエリで焼き切れるみたいだけどよ、完全にはとれないみたいだぜ。服についたやつは生地ごと切ってなんとかなるが足元に着いたやつはよ、どうやらブーツを脱ぐしかよ方法はないみたいだぜ」
とりもちを踏んでしまったキイが先に抜け出した一般兵の力を借りて抜け出しているのを見ながら二人は周囲の警戒をする。
今の戦闘を聞きつけクラックホーネットが身動きの取れない今、生体兵器が襲ってくればひとたまりもない。
二人は崩落した魔都の中央部のほうを睨んでいる。
「瓦礫だらけのこんな場所で流石にそういうわけにはいかないだろ。靴底を薄く剥がして砂でも張り付けておかせる」
「おっと、そうこう話していれば来ちまったよ。クラックホーネットがよ」
高いビルの間、遠い空に見える複数の影。
少しずつ聞こえてきた冷たい空気を震わす重たい羽音を背に、アサヒはとりもちから抜け出てきたキイに尋ねる。
「キイ、とりもちからの脱出はどのくらい進んでいる?」
「見ての通り避けきれなかったあるいはうっかり踏んじまった精鋭を優先させてもらって、いまは一般兵の救助中さ。まだ時間はかかる」
いまだに一般兵の多くはとりもちに捕らえられていて仲間の助けを得て抜け出そうとしていた。
「下手にとりもちから抜け出そうとすれば皮膚が剥がれる。クラックホーネットが居なかったこともあって防護マスクと防護服を着ていない人が多くて、頭や手についた人もいる」
「そうか、今は人手がいる。動ける一般兵の救助を急がせてくれ」
大型の生体兵器がまき散らした広い範囲散らばるとりもちは、うっかり踏んでしまえばまた救助のやり直し。
そのため急ぐこともできず足元に注意してとりもちの上に瓦礫などを置いて粘着力を無効化し、撒かれたとりもちの外側から中央に向かてゆっくりと仲間を助けていく。
「ならしかたがない。ここは戦うしかないか」
「飛行型との生体兵器と戦うのは苦手、とも言ってられる状態じゃないよね」
アサヒは携帯端末ですべての精鋭と一般兵に伝える。
「精鋭を建物の中へ、動ける一般兵は引き続き救助を続行しろ。手の空いている者は当たらなくてもいいクラックホーネットを牽制しろ」
クラックホーネットの接近まで時間がなく、当たらなくても少しでも時間を稼ごうと半数の一般兵とともに空へと向かって光の弾を放つ。
指示を受け動ける精鋭は建物中へと入り上の階を目指す。
一般兵を狙い毒をまこうとするクラックホーネットたちの近くから精鋭たちが攻撃を仕掛ける。
「当てられるのは最初だけだ、すぐに仕留めてくれ!」
『わかってる。それが、できたら、苦労しない』『避けるなら避けられないように撃てばいいだけでしょ!』
アサヒの携帯端末から聞こえてくる精鋭たちの返事。
道路を狙っていたクラックホーネットたちは側面からの攻撃に一瞬回避が遅れ大型も小型も羽をもがれて落ちていく。
更に、クラックホーネットは地面にいる一般兵たちを狙っていたこともあり他の生体兵器の存在に気が付かず、近くにいた三匹目のナメクジお化けのトリモチが空中にいた大半の蜂を地面や壁に貼り付ける。
昨日襲ってきた足の長い蜘蛛も混ざりクラックホーネットたちは一般兵どころではなく次々と地面に落ちていく。
いろいろあったが精鋭の攻撃を受けた地面に落ちたものの大半は落下死し耐えた、残りも下で待機していた一般兵と青薔薇隊が始末する。
少ないとは言えない数だったが熟練の精鋭たちの正確な攻撃にやってきたすべてのクラックホーネットが返り討ちにあった。