野に咲く花、4
トキハルは誰もいない部屋で今回の作戦失敗の報告書を書きながら、他の蒼薔薇隊のメンバーが帰ってくるのを待っていた。
現在、トヨは怪我人を診療所に送りその足で整備場に大型のエクエリをメンテナンスに出しに行ったっきり帰ってこず、トウジはそのライカとトガネを迎えに診療所へ行っている。
「ただいま帰りました、すみません少し寄り道してしまいまして」
ドアを開け帰って来たトヨが頭を低く謝りながら部屋に入る。
「遅れるなら連絡ぐらい……ん、後ろにいるのは誰だ」
トキハルは仕事の手を止めてトヨの入って来た玄関の方を向く、入って来たのはトヨだけでなかったためで玄関の方から聞こえてくるのは複数の足音。
そして足音を立てていた張本人たちが顔を出す。
「どーもー、朝顔隊わけあって御呼ばれして到着。お久しぶりサジョウさん」
現れたのは朝顔隊隊長、ボサボサした髪のアオゾラ・ツバメ。
数ある厄介な精鋭の中でもトキハルがダントツで会いたくない相手で、今までいろんな隊がどんな作戦を立てても一度もその通りに行動したことがない。
「失礼します」
続いて、疲れなのかまだ若いはずなのに若干老け顔の青年、サカキ・コリュウが部屋に入って来てトキハルを見て一礼する。
「はじめましてー(うわ、かっこいい人がいる、ツバメあれ誰、あのかっこいい人)」
声を潜めテンションを上げたを抑えた眠そうな顔のアモリ・イグサが部屋に入ってくる。
この二人が今のツバメを隊長とする朝顔隊のメンバー、どちらも死を実感するような戦いを潜り抜けた戦士という顔はしておらず、実力があるように見えなくどこか頼りなさすら感じトキハルは目を細める。
「蒼薔薇隊の隊長、変にちょっかい出すと泣かされるぞイグサ」
ゾロゾロと部屋に入って来て、先頭を歩いていたトヨが辺りを見回す。
「あれ、トウジは? またどっかで迷子ですか?」
「お前が遅いからムギハラとシジマ診療所に向かいに行かせた」
トキハルが答えると、しまったとトヨが慌てる。
「ああ、すみません」
私が報告しなかったばっかりにと謝罪するトヨ。
しかしトキハルはそのことに関しては気にしていなかった。
「それで……あまり聞きたくないが何故朝顔隊を連れてきた」
冷たい目で朝顔隊を見る。
ツバメはまじめな人が嫌いでありトキハルに関してもあまりいい印象を持っていなかった。
悪く言われているの感じ取りツバメも面倒くさそうにトキハルを見た。
トキハルも自由奔放なツバメをあまりよく思っていなかった、したがって両隊長の間に気まずい空気が流れる。
そんな気まずい中、トヨが小さな声で答えた。
「えっと、次の作戦手伝ってもらおうと……」
「……そうか」
眉間に指を置きそのまま目を瞑るトキハル。
「えっと、えっと、何か問題ありましたでしょうか」
トキハルのしぐさに抗議するかのように声を荒げるトヨ。
「……朝顔隊だぞ」
トキハルはため息交じりに目を開くと冷たい目でトヨの連れてきた3人をじろりと見た。
ツバメで視線が止まる。
「はーい、私その隊長」
「わたしその部下」
「隊長もイグサも加わらなくていいからおとなしくしてましょうよ」
空気の違いを物ともせず有り余る元気を声に出す2人をコリュウが止める。
トキハル真逆の空気感を出す朝顔隊。
朝顔隊に関してよくない色んな噂があるけども、昔同じ隊で戦ってきた私としては彼女ほど頼りになる人はいないと思ってはいるのだがどうもわかってもらえないらしい。
トヨは何とかトキハルに今回の作戦に朝顔隊を加えようとする。
「でも、バメちゃんは力になってくれますよ」
「そうだよ、この私に任しておけば大丈夫」
トヨに言われ自分でも言い胸を張るツバメ。
トキハルが眉を引きつらせる。
「でも隊長、イグサはまだ病み上がりで戦闘に立たせるには危険じゃありませんか」
「大丈夫だろ、な?」
「大丈夫でしょ、ね?」
コリュウが言うと息の合った軽いノリで会話をする二人。それを見てやれやれと言った様子でコリュウは続ける。
「いや、イグサのお前は自分の話してるんだからもう少し真剣に、うわっ……」
しかし途中でコリュウは後ろから突き飛ばされ床に倒れる。
「入り口に、立つな、邪魔」
4人の後ろから言葉をつっかえながらもきつい言葉が聞こえた。
コリュウが起きかがりながら振り返ると、草の巻きついたヘルメットをかぶった状態でもイグサより少しばかり小さいくらいの背丈の子が立っていた。
「ちょっとノノ、何してんのちゃんと謝りなさい」
「通路の、真ん中で、止まってるんだもん」
「口で言えばいいじゃないか、蹴飛ばすことなんて」
「……むう、朝顔隊だから」
「ノノ!」
「……ごめん、なさい」
後からツンツン頭で眼鏡の男の子がやってきてヘルメットを意かぶった少女を叱る。
二人で精鋭として活動する蒲公英隊。
「すみません、サジョウさん遅れました」
驚いたのはコリュウやツバメ、イグサだけでなくトヨも目を丸くしている。
「トハル、これは……」
「お前と同じだ、蒲公英隊に協力を仰いだ」
私は余計なことをしてしまった、トハルはすでに他の精鋭に話を付けていたのだと気まずい感じを出すトヨ。
トヨが黙ってしまったのでどうしていいかわからず、とりあえず道を譲る朝顔隊。
「朝顔、隊……」
最初にツバメを見た時のトキハル同様、ノノも彼女たちを見て露骨に嫌な顔をした。
コウヘイも表情に出さないようにはしているが不安げな顔をしている。
両名とも朝顔隊のうわさは聞いているのだろう。
「あなたも精鋭? それも2人組みすごいね、何隊?」
お互い無言で見つめ合って少し間ができたが、ツバメはノノに普通に話しかけた。
「私達は、蒲公英隊」
蒲公英隊の事を知らないのかツバメがまじまじと二人を見て少し驚いたという表情をしている。
答えるノノはすぐにコウヘイの影に隠れてしまった。
「ごめんなさい。それじゃみんな席についていてください。私、夕飯作っちゃいますので。あ、椅子の数が足らないかな?」
トヨが奥へと小走りで移動し足りない椅子はほかの部屋に取りに行ってしまった。
「えーと、私たちは……」
蒲公英隊はトヨに誘導され席に着く、ご飯と聞いて朝顔隊が帰りたいオーラを出している。
「大丈夫です、バメちゃんには違う料理作りますので。良いですよねトハル?」
「好きにしろ」
そもそもトキハルは今日の夕食をまだ知らない。
しかしそれでもツバメは帰りたいという雰囲気を出していた。
「いやー、できれば卵系は見たくもなかったりーなんてねー」
「どういう?」
「卵、嫌い?」
あまりにも反応がわかりやすく蒲公英隊もなぜそこまでして帰ろうとするのか不思議がる。
「見たくないって、なんかあったんですか?」
「見たくなかったら見なければいいだけだろ」
「そういうこと。大丈夫、気にしないで私たちは外で食べてくるから、食べたらすぐ戻って来るよ」
コウヘイとトキハルに答えるとゆっくりとツバメは朝顔隊を連れて出ていく。
「別に、帰ってこなくても、いい」
ツバメが去ると、ノノが玄関に向かって言いはなった。
「シノノメさん、バメちゃんと何かありました?」
「特にない、会うのは初めて。噂には、聞いてる。でも、勢いだけの人、嫌い」
そういってノノは暗い顔をして顔を伏せた。




