白い砂 4
クラックホーネットのが飛び去った後も周囲を警戒し魔都の中をすすむ。
片手で携帯端末を操作しアサヒはもう片方で手に持っている携帯食料のエナジーバーをかじる。
先の大型の攻撃はなんだったのか答えのない問題に頭を抱えるアサヒ。
フルタカとキイも座席に座り水を飲みながら覗き穴から外見ていた。
「モニターは砂嵐、何も映らんくなった。ついにカメラ全部壊れちゃったね。どうすんだいアサヒ?」
「そうだな、これからは死角の多い覗き穴からの視界だけが頼りか。フルタカ、積み荷のほうに行けるか」
「ああ、行ってくる。通常の生体兵器が襲ってきた場合は先に戦っててもいいのかよ?」
立ち上がり大きく伸びをしフルタカは壁に立てかけてある自分のエクエリを取りに向かう。
「先に連絡を携帯端末でしてくれ。他の隊に調べてもらいクラックホーネットがいないか探してもらう」
「わかった、そんじゃ行ってくるよ。こっちは頼んだ」
キイが手を振りエクエリと荷物をもってフルタカは牽引車両を出ていく。
一度外に出て荷物の入ったコンテナのほうへと移る。
「日が出てるから、フルタカの目で索敵してもらった方がいいもんね」
「この装甲車にも、戦車のような覗き穴付きのハッチがあればよかったんだがな」
「きゅーぽらかい? 確かに一応上に上がる天窓は助手席にあるけど、あそこに欲しかったねぇ。あと後ろのコンテナにも」
「急な改造か試作品か、車体に装甲を張るだけでせいいっぱいだったんだろう。使ってみないと欠陥はわからないものだ」
「いまさら言ってもしかたないけど、後どの程度で巣があるとされる地域に入るんだい?」
「今日の夜だ。篝火の設置は生体兵器の不意打ちをうけないように、朝を待ってからにする」
二人の携帯端末にノイズが走った。
そして着信。
『こちら、黄薔薇隊。クラックホーネットの巣を発見、少し離れた場所に篝火の設置し作動させこれより帰還する。予定通り拠点および都市戦艦に支援攻撃を求める。繰り返す、こちら黄薔薇隊。我々はこれから魔都を突っ切り拠点へと帰還する。後は任せた! それとほかの薔薇の隊の健闘を祈る』
誰かが近くで話しているのか人の声の雑音がひどく、いくつも重なり合っていて聴き取れはしない音が聞こえてきていた。
それまでつまらなそうにしていたキイの顔に笑顔が戻る。
「他の隊と通信がつながった!? もう篝火を設置した隊がいたのか」
「これが篝火か。おお、やっぱり最初は黄薔薇隊だったか。やっぱり二つ名持は強いねぇ。それじゃこの後は来るかどうかわからない砲撃とミサイルの雨かい?この防音性能の高い車内でも魔都のどこかが光るか地面が揺れれば拠点か都市戦艦は無事ってのがわかるね。いや―すごいね、黄薔薇隊」
「……運よく巣があるところを見つけられたのだろう。たまたまだ」
「張り合ってたの? 運も実力のうちって言うじゃないか。連絡を取りたいのだけどこっちから、向こうに話しかけることはできないみたいだねぇ」
「こっちも篝火を設置すれば、皆に報告できるようになる。篝火をつけた際はキイが報告するか?」
「いいや、アサヒでいいよぉ。こっぱずかしいからね。早くこんなつまらないところからはさっさと帰りたいね。とりあえずびりっけつにはなりたくないねぇ、それだけさ」
黄薔薇隊たちの通信は一度会っただけで以後は何の報告もない。
キイもアサヒも他の薔薇の隊から次の報告が来るんじゃないかと端末を片手に待っていた。
運転席から大きな声が聞こえる。
「すみません、青薔薇隊の方こちらを!」
進行方向にそびえる巨大な土柱。
周囲の建物を土台に取り込みさらに上に伸ばした建造物。
それがいくつも周囲に立っていた。
「何だいこりゃ?」
「シルエットなら蟻塚に似ている……が、つくりはハチの巣と同じ、土と唾液を固めた扇状の縞模様が見える」
「これが、クラックホーネットの巣?」
「いや、名前の通りあいつらは大地の亀裂から地下に潜り巣を作る。自分で掘るのは不得意で何かしらの地下施設などを利用して」
「地下に何百何千という生体兵器が入る隙間なんてあるのかい?」
「避難シェルターだ」
「地上のやつの下にある商業区画とかのやつかい?」
「ああ、大昔生体兵器に襲われるのも時間の問題になったときに、各地で地下に掘り進めていたシェルター。ここにも建設していたんだろう。しかし人が避難する前にいなくなってしまった」
「代わりにこいつらが住んだってことかい。というか地下に住んでいるなら地上をいくら攻撃しても倒せないじゃないか。都市戦艦の砲撃は榴弾なんだろう? ミサイルだって地下には飛んでいけない」
「巣から出る道があるということは最低でも通れるほどに道を広げたということになる。そこを攻撃し崩して入り口を広げ老朽化したシェルターを今の住人ごと焼き払う」
「他に方法はなかったのかい? いくら威力があっても隅々まで火が回るとは思えないけど」
「巣穴に入っていって、暗い地下で永遠と戦い続けたかったのか?」
「そんなことより、この建造物は結局何なんだい?」
「クラックホーネットはサイズがバラバラだ。建造物に空いている穴のサイズからおそらく小型の拠点だろう」
「やっぱり巣じゃないか!」