魔都 3
日が昇りはじめゆっくりと走り出す重装甲車。
描かれた薔薇の花のマーキングに合わせ同行する戦車がそれを目印に移動し左右を固める。
予備を含め3両ずつの重装甲車、10両護衛の戦車、重装甲車に乗り切らなかった精鋭を乗せた二両の装甲車。
それぞれが基地を出てすぐに分かれて自分たちが魔都へと入るルートへと向かう。
15両の車両はかつての首都へと続く道を走る。
周囲は朽ち果てた住宅街で魔都へと向かう生体兵器たちに破壊され形を保っている者は少ない。
道路にはみ出ている瓦礫を車列は気にすることなく押しのけ擦り潰しながらすすむ。
生体兵器の姿は見えないがすでに魔都は目と鼻の先、気を抜くことを許されない車内でキイが隣にいるフルタカに話しかけた。
「ところでフルタカ、どこの隊が一番最初にあの装置を置いて帰路につけるかねぇ」
「やっぱ、二つ名のいる黄薔薇隊じゃないのか? 道が塞がってる等の問題がなければよ。強い特定危険種でも出てこない限りは生体兵器を返り討ちにできるだろうよ、超大型のエクエリのあるし」
キイは黒と金の長い髪をまとめ上げ、三つ編みに結いながらフルタカに寄りかかる。
「超大型のエクエリか、結局私たちは誰も持たなかったね。中型が出たときもだけど」
「新型って今までの戦い方を変えるわけにはいかないからだろ、強い武器をもらってもその力を生かせなければ意味はないからよ。戦闘スタイルに合わなかったから受けとらなかった。あんな重たいものをもって戦うにはフォローする奴がいる、3人でそれはできないからよ」
次第にコンクリートで作られ大きくひび割れながらも建造物としてしっかりと立っている建物が増え始めた。
どの建物も窓はすべて割れ、建物の壁に生体兵器が通ったであろう爪痕や戦闘の後が見え始める。
拠点から出て一度も速度落とさずに先を走っていた戦車が急に速度を緩め始めた。
そして助手席で他の車両と連絡を取り合っていた一般兵が声を上げる。
「正面、魔都の上に生体兵器! 数は1」
報告を聞いてアサヒたち席を立ちが運転席のほうへと移動した。
魔都の上空に一匹の生体兵器の影が見える。
「一匹? ああいるね、この距離から見えるから大型かな? クラックホーネットじゃない? どうなのフルタカ、目がいいからどんな生体兵器かここからわかったりする?」
「ああ、あれか……。まだよく見えないが、こっちを見てはいないよ、他の突入部隊のほうに行くかもな。問題ないこのまま進んでくれ」
空を跳ぶ影は魔都に近づくにつれ大きくなっていき誰よりも目のいいフルタカが生体兵器の正体に気が付く。
「あれ蜘蛛だな、自分の足に糸を張り幕を作って羽にしているよ。広げた足が大型の生体兵器と誤認させたな」
「フーン、鳥みたいに飛んでるのかい?」
「いや、下に糸を伸ばしているから凧揚げのように風を受けてとんでいる……ように見える」
「楽しそうだねぇ、なら下にはもう一匹生体兵器がいるのかね」
再び一般兵が声を上げる。
「魔都まで1キロ」
このあたりはまだ数階建ての建物が並ぶ地域、迫る灰色の建物群は十数階建てのコンクリートジャングル、災害種の巣がある支配地域。
運転手の緊張した声で続ける。
「新手の生体兵器です、進路上正面、数は1」
倒壊した建物の瓦礫の散らばる道の先に新たな生体兵器の姿。
体の色は黒に近い紫、体は細長く虫のように多脚、触覚が生えているが体は昆虫などの外骨格ではなく分厚い皮のようなもので覆われていた。
複数ある足の前二対は地面から離れ腕のように動いている。
「アサヒなんだいありゃ? 足のあるナメクジかい?」
「……わからない。昔の生き物の図鑑は一通り見たが、昆虫や甲殻類のような節足動物のようには見えるが……ナマコか? この距離ではよくわからないな、戦車隊に仕留めてもらえ」
重装甲車を護衛する戦車隊が前に出て走りながら砲塔を動かし生体兵器に向けると光の弾を撃ち出す。
走りながらで数発外れたが黒紫色の生体兵器は主砲の直撃を受け複数の大穴をあけ地面に倒れた。
「流石魔都といった具合に、わけわからん生体兵器が次から次に出るね」
「まだ見晴らしがいいから戦車隊だけでなんとかなるな。精鋭の体力も催涙弾の霧も温存できている」
「でもよ、ここは生体兵器がかなりの数いるって話だったよな? 魔都に入る前に戦闘が起きると思ったがそうでもないよな」
戦車隊に屠られた生体兵器の死骸を通り越しアサヒは携帯端末で想定される生体兵器の数を確認する。
過去に数百の規模で大移動をしてきた災害種ウォーカー。
中型や大型の生態兵器も多数いたことが確認されておりこの魔都にはそれらが食料とする小型、あるいは第三世代未満の生体兵器がいるはずなのだがそれらの襲撃はない。
ただの廃墟のような異様な静けさがあった。
「先行した精鋭部隊がすべてを引き付けたとは考えにくいんだが」
「ここらすべてのシェルター総出で生体兵器を狩ったから、食糧不足で魔都にいた仲間を食いつくしたってオチじゃない?」
迫りくる建物群、妨害はなく遠くに見えていた魔都は目の前。
アサヒは無線を取り護衛や後続など全車両に向け発する。
「これより魔都に入る。ここから先、使命を全うするため何があろうと止まることはできない。戦闘が起きることは間違いないが、戦闘や救助よりも篝火の輸送を優先する」
通信を終えアサヒが自分の座席に戻ると同時に魔都に入ると一気に高い建物に囲まれ、開けていた視界が急に狭まり空もごく一部しか見えなくなった。
鋭い目を細めフルタカは周囲の変化を見逃さないように見張る。
「アサヒ、やっぱりいるぞ生体兵器。建物の奥に隠れてやがる」
「襲ってくる様子は?」
「いや動かない、寝ているというわけではない。しっかりこっちを見ている、どうするよ」
「どうするも襲ってこないのなら、このまま巣を探す」
そう話していた時、車列が通り過ぎた後の背後の建物が傾く。