魔都 2
装甲バスのもとへと帰ってきた二人のもとへ車内で待っていたフルタカがやってくる。
昔の隊と連絡を取っていたようで携帯端末には、今しがたアサヒたちが見てきた巨大な列車砲の画像が映っていた。
「ついさっき、この拠点に装甲列車が来たらしいぜ。シェルターからこんな離れたところまでよ。今からみんなで見に行かないか? なんかよどでかい新兵器も運んできたらしいぜ」
「もう見てきた、すごかったよフルタカ。シェルターホウキの鉄蛇、あんな大きなものがしっかり地面を進むんだねぇ。帰ってくるときも人が集まってたから今行くとすごい人がいるかもしれないよ」
キイからの話を聞いてフルタカは肩を落として端末をポケットにしまう。
「なんだ見てきたのかよ。だったら俺も戻ってこないで荷物置いたらそのまま見てくればよかったか」
「だったらもう一度私と見に行くかい? さぁ、フルタカ、二人でいこうか、すっごいよ。あまりの大きさに言葉も出なくなる、見上げると首がいたくなるくらいにさぁ。そいじゃ、ちょいと行ってくるねアサヒ。見てきたらすぐ戻ってくるから」
フルタカの肩に手を回しキイはフルタカと装甲バスから降りていく。
車内に一人残ったアサヒはテーブル席に座ると同時に連絡が届き携帯端末を取り出し届いたメールを見る。
そして深く息をついた。
「出撃は明後日、早朝日の出前か」
それから二日後、日の登る前。
吐く息は白く明るくなってきた空の下、がっちりと防寒具に身を包んだ精鋭たちは駐車場に集まっていた。
ずらりと並ぶ重装甲車と戦車には拠点に到着時にはなかった5種類の薔薇の花のマーキングが、一輪ずつそれぞれの車体に描かれている。
黄薔薇隊のもとに集まった何かと問題を起こす精鋭たちも普段のふざけた調子はなく、まっすぐと魔都を見据えていた。
「いよいよ出発ですね、青薔薇隊の隊長。非戦闘員は装甲列車で帰ってここにはもう戦闘兵だけ。俺らはここからの支援をもらいながらあの町のどこかにある巣を見つけて篝火を置いて帰ってくるだけ。妨害少なく道も塞がっていない場合最短で3日程度で終わるんだそうで、それだけの作戦なのにこれだけの準備と人員を必要としている、本当に災害種とは厄介な」
黄薔薇隊の隊長のマホロがアサヒたちのもとへとやってくると並んで魔都を見る。
あい変わらず遠くに見える魔都は静まり返っていて何の気配も感じない。
視力のいいフルタカが言うにはあの小さく見える建物の中に生体兵器が潜んでいて、こちらを常に監視しているのだという。
「いやー緊張する。しかしこの作戦が終われば、シュトルム、レットターゲットと肩を並べる空の災害種を叩ける。この作戦がしっかりと成功すればいずれ今日のことも精鋭英雄譚に乗るんでしょうかね。俺、文字が読めるようになって初めて読んだ本が英雄譚なんで、そうなるのをちょっとそれを期待しちゃってます」
頭を掻きながらマホロが話を続けそれを聞いて頬を緩めアサヒも答える。
「精鋭になる人のほとんどはあれに影響を受けているでしょう。しかし作戦が失敗すれば、王都はかなりの数の精鋭とすべての薔薇の隊を失う」
「そのためにここまで準備してきたのでしょう。巨大な前線基地、大勢の一般兵、この作戦のために増やしてきた精鋭たち、すべての薔薇の隊の投入、気化弾頭のミサイル、都市戦艦、新型兵器、これらすべてを使って今回の作戦が行われる」
お守りか何かなのだろうマホロは耳につけた青いピアスを撫でていた。
「それは?」
「え? ああ、王都を出るときに大切な人からもらったんです……妹と片方ずつ」
出発の時間が近づき精鋭たちが装備を確認し魔都へと向かう車両へと乗り込む。
彼らの後ろで魔都へと向かう重装甲車や戦車などがエンジンをかけ黒い排気口から黒煙を吐く。
アサヒを呼びにキイがやってきて、二人の話の邪魔にならないように離れたところで待つ。
同じように黄薔薇隊の褐色肌の女性が同じように迎えに来ていた。
「すでにかく乱のための特別部隊が足の速い車両で魔都へと向かっていったらしいですね。もうじき魔都につく頃でしょうか」
「先行して魔都に入り、建物を伝って奥へと侵入、クラックホーネット以外の魔都に住む生体兵器をひきつけてくれているんでしたっけ」
「俺らが魔都に入ったころくらいに生体兵器をひきつけつつ撤退、拠点の砲火で焼き払う。うまくいけばですけどね」
「過去に超大型の災害種、ウォーカーが潜んでいた場所。ここからは見えないだけで決して少なくない数の生体兵器が潜んでいるはず。空は拠点側が地上は他の精鋭が囮になってくれているとはいえ決して楽にはいかないでしょうね」
隣にいるアサヒの視線からマホロは迎えに気が付き振り返る。
「さて時間の様です、行きますか。俺らの仕事場に」
「お互い、作戦を成功させ無事戻ってくることを」
アサヒとマホロは軽く手を振って別れると迎えに来た部下とともにそれぞれ魔都へと向かう装甲車に乗り込む。
「出発だよ、アサヒ。世間話もいいけど時間厳守だから置いていかれちゃうよ」
「わかってる、今行く。いつ戦闘になってもいいようにもうエクエリを携帯していろキイ、この拠点から少しでも出れば戦場だから」
運転は一般兵が二人交代制で、同乗する精鋭たちはいつでも戦闘ができるように後ろの席でエクエリを持ちながら小さな覗き穴から周囲を警戒する。