魔都 1
運転席を含め4人ほどが座れる座席があり、広い車内を見て回り運転席から見える高い景色をみて牽引されている荷台のほうへと移る。
簡素なもので窓はなく前後の扉以外に出口はない、篝火の固定具のほかに強化外骨格を装備した一般兵が休めるように席が用意されている程度の大きな箱だった。
「すごいね、こりゃ細長ければ大型の生体兵器も入れそうだ。当日は精鋭のほかに強化外骨格を装備した状態の一般兵も同行するんだっけ」
「ああ、死ぬ可能性があるから一応は志願兵。精鋭ですら自己防衛できるかわからないからな、決死隊として集められた」
「死にたくはないだろうに、こんな作戦によく志願したね。私が普通のシェルター出身の一般兵だったらごめんだね」
「志願した彼らはクラックホーネットに家と家族を奪われたヒバチとハギの生き残り、その敵を討つためにこの時を待っていた連中だ。死んでも作戦が成功すれば後悔はないだろう」
「……そうかい。いや、同郷の人を悪く言うつもりはなかったんだよ」
「安心しろ誰も聞いていない。それに精鋭になれなかったとしても俺たちはここに来ただろう」
トレーラーを降りると腕を組んでいたキイが思い出したようにポケットから携帯端末を取り出し画面を操作し始め、そうして彼女が見せた画面には音楽ファイルが表示されている。
「そうそう、ここに来てから作曲してた曲ができたんだ。聴いておくれよ」
「ここに来てからちょくちょく作っていたやつか、帰ったら聴こう」
そういってアサヒは彼女の持つ携帯端末を下ろさせた。
帰ったら聞くという言葉を聞いて大人しく端末をしまい彼女は得意げに胸を張る。
「フフフ、私の新曲を聞いて感動するがいいさ。そうだ、フルタカにも聴いてもらわないと、そういや私が起きたときにはいなかったけどフルタカはどこ行ったんだろ」
「フルタカは昔の隊に顔を出しに、ついでにコーヒーも買いにいったな。魔都攻略では引いた豆は使えないから、湯に溶かす粉のやつを買いに」
「この間も端末で話してたね。私の隊も来てたけど端末でのやり取りで終わっちゃったよ。アサヒの隊は?」
「いたが、お前と同じで端末上のやり取りで終わらせた」
「さっぱりしてるね、かつての教え子じゃない。再会を喜び合うとかもうちょっとなんかないのかい?」
「死んでいないとわかればそれで十分だろ」
トレーラーを視察し二人が帰ろうとしていると急に周りが騒がしくなり、アサヒがどこかへに向かっていく精鋭の背中を追いかける。
「何だろうな?」
「向こうだね、行ってみる?」
歩いて精鋭たちの後を追う二人。
各地から集められた一般兵用の兵舎や整備場などの立ち並ぶ建物の密集する場所を進んでいき向かう先の地面を見る。
「レールだ、電車? 人や物資の輸送用かな? 拠点のことをちゃんと見てなかかったから知らないけどこれで資材を運んできた?」
「レールの本数が多い、装甲列車をシェルターホウキから伸ばしてきたのか?」
建物の影から出てきた二人は自分たちのほうへと線路を進むものを見て固まる。
建物を思わせる装甲の張られた巨大な列車。
4両編成で、最後尾に機関車両、装甲車両が二両、先頭に巨砲。
巨砲は人の胴回りより太く、巨大な列車より長い砲身、クレーンや銃座をのせ貨物車と一体化していた。
「なんだいあれ?」
「さぁ、見たところ旧時代の巨大な大砲に見えるが……これはスケールが……。シェルターホウキを走る鉄蛇……それと同スケールの怪物大砲」
小さな金属どうしがぶつかり合う音がし二人は振り返った。
そこには鍵束のついた水色の制服を着た女性精鋭が立っていて、彼女の襟には桜の花のバッチが輝く。
アサヒはその女性に話しかける。
「これも今回の作戦で使うのですか?」
「ええ、対生体兵器攻撃用長距離攻撃砲、天叢雲剣。旧時代の資料を基に作ったカノン砲よ。最も残っていたのは写真や模型だけ。肝心のサイズがわからなかったから見様見真似で作ったものだけど、都市戦艦の大砲では火力が弱いと作っていたもの、口径は250mm。飛距離はここから風などを考慮しなければ魔都全域を狙えるほど。篝火から送られてくるデータをもとに、あなたたちも使う高性能爆薬から作った強力な榴弾でアークエンジェルの巣を吹き飛ばす」
「また、ずいぶんなものを作りましたね」
「ただのでかい大砲だから防衛能力はない、この拠点でこれだけは死守しないとね。これですべての準備が整ったわ。今日の夜には最終段階の調整に入る、明後日にはあなたたちは魔都へと向かうことになる。この基地にいる一般兵の大半は魔都……いいえ、アークエンジェルに恨みのあるものたち。あなたたちの作戦の成功にすべてがかかっている。私はもう行く、今日の午後には機関車両である鉄蛇八岐大蛇に乗って私とその他の非戦闘員はシェルターへと帰るから、あとは遠くからあなたたちの作戦の成功を祈るしかない」
アサヒたちのほうを見て頭を下げると彼女は巨大な列車のほうへと歩いていった。
「さっきの人は全体会議の時に王都の人と一緒に壇上に人だね、いつの間に私たちの後ろに」
「ああ、王都の技術班。戦闘能力を持たない精鋭だな、非戦闘員の撤収作業となるといよいよ出発だな」