寒空の下で 7
コーヒーを入れに席を立っていたフルタカは戻ってくるとキイの前にカップを置く。
「ほらよ、キイコーヒー入れてきた」
「フルタカはいいだろうがこんな時間にコーヒーなんか飲んだら眠れなくなるぞ。キイ飲むな、お前カフェインで眠れなくなるだろ」
アサヒがカップを受け取るキイを注意するが、彼女は受け取ったこコーヒーを飲みながらタブレットの画面を指ではじいた。
「この拠点に集まっている精鋭のうち、優秀な戦績を持っているのは何かしらの問題児チームか、用途が限定されている特殊な戦い方をするチームしか残ってないじゃないか。もうそうなると結局のところ、私たちより戦歴も歳も上の精鋭かここ数年でできた若葉マークの新部隊しかいなくなるんだけど……どれも戦績的には普通じゃないかい?」
「それが何か問題あるのか? キイが特殊な精鋭を選ばなければかれらを選ぶ予定だったが、作戦参加回数と討伐数で選ぶからだ。普通に指揮官の評価で選んでいく、俺らの背中を預けるんだ、二人ともそろそろ気を引き締めて真面目に決めていくぞ」
「私はまじめに選んでたよ。ったくやってられないな、酒だ!」
「やはり隠していたな、この間取り上げてしまっておいたのにいつ忍ばせたのやら。それを渡せ作戦時もっていかないように没収する」
「嫌だよ、渡すもんかい。折角アサヒの探し荷物の中から当てたんだから」
「そのボトル、渡すなら今取り上げるところをその中身一杯分なら目をつむってもいいぞ」
一気にコーヒーを飲みほしたカップに制服の内ポケットから取り出したスキットルから中身を移し替える。
フルタカとアサヒが彼女のカップに手を伸ばそうとするが、彼女はおとなしく空のボトルを差し出した。
「わかったわかった。わかったからさぁ……これで、勘弁しておくれよ……ねぇ……」
二人はどうせ隠したところで探し出すだろうと思いつつも、上目遣いでしおらしく銀色のボトル差し出す彼女からアサヒはそれを受け取ると手元に置く。
そしてカップに口をつける彼女の顔を見て二人して溜息をつく。
「甘いよなアサヒはよ、だからキイが調子に乗るんだ」
「だったらお前がキイからカップを奪えばいいだろ、フルタカ。王都の能力検査で魅了の瞳って、目を合わせるだけで異性を誘惑するキイから、あんな目で見られて奪えるならな」
「まぁ無理だよな。前に俺の携帯端末を取るもんだから目を瞑って奪い返そうとしたらよ、その間に逃げられた」
「ったく、あいつの好き勝手を止められん。さぁ、早く精鋭を決めるぞ。明日に響く」
そっと一升瓶を抱いて酒を飲んでいるキイを放って置き二人はタブレットに目を向け作戦に同行させる精鋭を選ぶ。
薔薇の隊たちの精鋭選びから数日が立ちしばらく、拠点の駐車場に精鋭たちが集まっていた。
そこに並ぶ巨大なトレーラー。
車体にこれでもかと追加の装甲として分厚い鉄板を張り付け、いくつもある巨大なタイヤが車体の重さで沈んでいる。
背面に乗せられていた大型バイクがとても小さく見え、装甲車の周りを一周しキイが高いところにある運転席を見上げながらアサヒの隣にやってくると手を回し密着するように腕を組む。
「これまたずいぶんとデカい装甲車だね、後ろのコンテナに私らの装甲バスが丸々入りそうじゃないか。こんなにデカいと、魔都の中を隠れながら進むのは無理そうじゃないかい? 見つけてくれというようなもんじゃないか」
「攻撃を受けることは間違いないからな、大きく重そうな篝火とかいう大きな装置もあるし徒歩で魔都には入れない。それにこの装甲車に乗るのは皆同じだ、ならみんな目立って注意を分散した方がいい」
「そういうもんかい?」
「それに魔都の頭上じゃ援護のために無差別で気化弾頭が飛んでくる、それから身を守るためにも厚い装甲も必要だ」
「援護なのに無差別ねぇ。余波で建物が崩れて生き埋めにならないように気をつけないとね、装甲も厚いから完全にぺしゃんこになることはないだろうし。生き埋めになったら魔都のど真ん中で助けも期待できない」
「生体兵器が瓦礫をどけてこじ開けてくれるだろう、そこから後は自力で帰るだけだ」
「アサヒは賢いねぇ……」
作戦当日に魔都へと入る重装甲車に随伴するのは10両の戦車と精鋭が乗る3両の装甲車。
重装甲車の牽引されるコンテナ車両には篝火とそれを運ぶための強化外骨格を装備した一般兵、基地に変える分の追加の戦車の燃料が乗せられる。
とめられている重装甲車の一台は精鋭たちに解放されて、車内を見られるようになっていてキイとアサヒは興味がありトレーラーを見に来た精鋭たちとともに車内へと入った。
助手席の後ろにある階段を上がり厚い鉄板のドアを触りながら車内へと入ると早速キイがかけてあったガスマスクを指さす。
「なにこのマスク?」
「ああ、防護マスクだ。この重装甲車には煙幕発生装置が付けられていて、そこから対生体兵器用催涙ガス、通称、霧を発生させる。らしい」
「らしい? なにそれ」
「多少人体に影響も出るらしいが、実物を見ていないからには効果がどんなもんか分らない。生体兵器相手にはただの煙幕と考えたほうがいいかも知れない」
彼女はそれを手に取りよく見ようとしようとするが、アサヒは後ろを振り返り後が使えているのをも見ると彼女の手を引いて奥へと進む。