寒空の下で 1
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雲一つない快晴の青い空。
吐く息は白く、木の葉を巻き上げ吹く風は防寒具を着た男の身を凍てつかせる。
彼のいる周囲の廃墟を破壊して作った基地からは、はるか遠くに薄ぼんやりと見えるかつての首都、現在魔都と呼ばれている朽ちた巨大高層ビル群を眺めることができる。
百近く並ぶ戦車と装甲車の中に交じる大型の装甲バスの前で、魔都を双眼鏡で眺めていた紺色のスーツ姿の切れ目男は白い息を吐くと双眼鏡をしまいもたれかかっていた背後の車内へと入った。
装甲バスの中は戦闘や移動以外にも使うため使いやすいようにバスの内装を改造し大きなテーブルやロッカーなどが設置して生活感のある小さな部屋のようになっている。
車内は外と違い暖房で温まっていて、彼はコートを脱いで壁にかけると金属のカップを取りコーヒーを入れて仲間の座っている席へと向かう。
「外は寒いな、少し出ただけで指がかじかんじまうよ。まだ日が高いからいいと思ったがもう手袋は必須だな」
「おかえりフルタカ。魔都の生体兵器に何か動きはあったか?」
テーブル席でタブレットの操作をしていた金髪の男に話しかけながら、フルタカは床に固定された長椅子に座りコーヒーの入ったカップに口をつけ深く息を吐く。
「あったけぇ……。魔都に大きな動きはない……いや、建物の陰からこちらを監視はしてるがよ」
「襲ってくる様子は?」
「たぶん今日もない。なぁ、アサヒ、奴らはよどうして今すぐ襲ってこない。戦闘になったのはよここにきて最初の日だけだろう? あれ以降、やつら魔都から出てこなくなった」
「待っているんだろうな、我々が魔都へ来るのを」
金髪の男タカチホ・アサヒはタブレットを操作する手を止め、コーヒーを飲む切れ目の男カイモン・フルタカのほうを向く。
彼もタブレットをテーブルに置いて自分で用意したコーヒーを飲みながら話を続ける。
「飛行型の生体兵器がよ、障害物の多い魔都の中で戦おうと? どう考えてもそれは向こうが不利だろ、いくらよ昆虫型とはいえそこまで馬鹿じゃないはずだろ災害種なら」
「三方を複数のシェルターに囲まれ一方を海に接している魔都。車で移動するなら二日とかからない近い場所にあるのにもかかわらず、今まで放置されていたのは魔都のなかに多くの生体兵器が潜んでいるためだ」
「知ってるさ、アサヒ。多くの生体兵器が潜んでいる魔都、何年か前に倒されたと報告のあった災害種ウォーカーもよ、もとはこの魔都に身を隠していたって話だろ。このほかにもいまだに行方の分からなくなった災害種、特定危険種などがよ、この魔都に食われたか潜んでいるのではないかといわれているぜ」
「生産系シェルター4っつほどの広大な建物群の中、どれほどの生体兵器が生息しているのか未知数。遠目から大型の生体兵器が何種か見て取れたと聞いたな」
「でもよ、この辺のシェルターにいる生体兵器はあらかた駆除した。このあたりにもうあれらが食べる食料なんてないだろ」
「ああ、それだ。このあたりの生体兵器を狩りつくし食料がなくなった今のクラックホーネットに戦うだけの力が残っていないと考えられている。自ら魔都に集めた生体兵器たちがあの廃墟のなかで日々共食いをしていてクラックホーネット自体も巣を守るので忙しいんだろうな。さらに、冬この寒さで思うように身動きが取れないんだろう、この日のために何年もかけて準備されてきたことだ。だが戦闘が始まればこの陣地にも飛来する」
「やっぱし冬はよ生体兵器も苦手か」
「そうだ、だから魔都内の生体兵器も同じ状態のはず。この機に一気に攻め込んで殲滅する」
フルタカはコーヒーを飲み干しからのカップをもって席を立ち、コーヒーのおかわりとお菓子をもって席に戻った。
「気温程度で戦闘力が落ちるなんて、とてもシェルターを潰した災害種とは思えないよな」
「実際俺らも寒さで動きが鈍るだろ。それに鈍るだけでこちらが手を出しにくいことに変わりはない」
「まぁな。で、アサヒ、いつ出発よ」
「メールには出発は招集をかけた精鋭の集合と、ここの対空陣地が完成次第とあったが。周囲のシェルターから物資と作業員が送られ、王都から最新の武器が送られてきている。もう何日もないだろうな、今日この後の会議で何か説明があるだろう」
「もう少しで今までにない大規模な戦闘が始まるんだよな。けどしかし、建物立てるの早いな。前線基地を作るのに立ち会うのは初めてで新鮮だったよな。基礎工事だけは先にしておく必要があるみたいだけどよ」
「北の地は生体兵器も多い、壊されては補修するのが日課なほどに、だから基地設営は慣れているのだろう。新精鋭の訓練にも疲れたし、向こうもあらかた生体兵器は倒され向こうも戦況は落ち着いているのかもしれない」
「新精鋭、そういえばよ今回の作戦ほとんどが古参、歴戦の精鋭か、ここ何年かで集めた新精鋭だよな? 数を増やすのもいいが戦力としてはどうなんだよ?」
「この作戦のために前々から少しずつ増やしていたという話だったか。中堅はシェルターの防御に回したらしいが、ベテランを集めたとはいえ飛行型の生体兵器との戦闘経験が低いからもう少し集めては欲しかったな」
「その辺は言っていたらきりがないだろがよ、王都人間の決定だし戦力なら問題ないんじゃないのか? 拠点防衛なら一般兵の数を増やせば済む話だしよ、集めた精鋭もよ精鋭全体の6割とかなりの数だろ、俺ら以外の薔薇の隊も全員招集だし」
「まあな。問題はどうやって高速で飛び回れる空の敵と戦うか、魔都に入っての戦闘はそこだけが悩ましいところだ」
「ところでタブレットで何見てるんだ? もう戦闘に必要なものは頼んであるんだろ」
「白や黄、新しくできた俺ら青以外の紫、橙の薔薇の隊の情報だ。さすがに他の精鋭とは戦歴が違う」
アサヒはタブレットを置いて席を立ちコーヒーを入れに行きフルタカは黙ってお菓子に手を付けコーヒーを飲む。