真価 10
動けるセイランを倒すためハナビたちの前を通り過ぎていく生体兵器。
ついでとばかりに壁にもたれかかって立ち上がるツルギに体当たりし、生体兵器と壁に挟まれツルギが崩れ落ちる。
「ツルギ!」
ツルギを助けようとセイランがエクエリを撃つ。
生体兵器は今までと同じように左右に避け光の弾を躱そうと身を動かしたが、思うように体が動かず避けられなかった。
見れば生体兵器の後ろ足にまとわりつくように掴みかかるツルギの姿。
振り払うように足を動かし重しとなるツルギを蹴り飛ばすが、直後セイランの放った一撃がツルギに気を取られていた生体兵器の頭を吹き飛ばした。
頭の一部を破壊されても肉がそげ骨をむき出しにしても動く生体兵器。
牙をむき出しにしエクエリを構えるセイランに飛び掛かろうとするが、またしてもツルギが後ろ脚にしがみつく。
止まっている的を外すセイランではない。
貫通榴弾が飛んできて、今度こそ頭を失い生体兵器は血を流し床へ崩れ落ちた。
「大丈夫ツルギ君ですの?」
頭を失った生体兵器の死骸をよけ仰向けに倒れるツルギのもとへと向かうセイラン。
浅い呼吸をし体も動かせず天井を見上げるツルギ。
「……きょうかせんい、じょうぶだな」
「ええ、ですがこんなごり押し危険ですわ。助かりましたけど蹴飛ばすのではなく頭を踏まれていたら終わりでしたわ」
「……ハナビさんとフウカは、まきこんじまってないか?」
「大丈夫、巻き込まれて傷が増えたなんてことはないみたいですわ」
「たたかえないいまのおれに、できるのはこれだけだったから」
「ですけども、今後こういうことはやめてください。こんなこと続けたら近いうちに命を落としますわ」
「もうしねぇよ、すごくいたいし」
「でしょうね。結果的に助かりましたけど、生体兵器に触れるだなんて危険なことをして五体満足でいられたこと、当然ではなく非常に幸運に思ってください」
「わかった、もう疲れた休ませて」
「ええ、戦闘の音も聞こえなくなりましたし大丈夫。私に任せてください、おやすみなさいツルギ」
その言葉を聞いてツルギは意識を失った。
ツルギが目を覚ますとハナビとセイランが話し合っている。
強い薬品の匂いがし寝ている場所が野戦病院テントの下だと気が付いた。
周りには負傷した一般兵たちが寝かされ治療を受けている。
体を起こすと戦闘で負った傷が嘘のように軽くすっと立ち上がり自分の行動に自分で驚くツルギ。
「え? なんだ?」
目を覚ましたツルギに気が付いたハナビが近寄ってくる。
戦闘で負傷した後でハナビも包帯だらけで彼女のつける香水の匂いのほかに薬品の匂いがした。
「気分は? 大丈夫そうだね。キリギリ君、色を見ればわかるから効く必要もないけどさ」
「体がすごく軽い、傷は? なんだこれ、イテテ」
体を動かしすぎて傷口が開いたようで手の包帯が赤くにじむ。
ツルギの目を見てハナビが続けた。
「王都の薬だよ。研究中で量産できないから一般には出回ってないけど、ニヒヒ。副作用はひどいけど後遺症はないから」
「何だよ副作用って」
「ヒヒッ、大丈夫もう終わったから」
「そうなのか?」
体を動かしながら先ほどの戦闘で追った負傷の後で動ける自分に驚く。
ハナビが寝ているフウカのもとへとセイランが不安そうな顔で話しかけてきた。
「大丈夫ですのツルギ君?」
「え、なにが?」
「さっきハナビが救護兵に渡していた薬品を投与したら海老みたいに反ってましたけど……」
「いや体に異常はない、傷は痛むけどすごく体が軽いくらいだ」
半身服を脱がされ包帯の巻かれた治療された痕、横に畳んであった強化繊維のシャツを着て外に出る用意をする。
「フウカが目を覚まさない」
「炸裂式雷撃弾を近距離で受けましたもの、体に相当のダメージが入っているのでしょう。雷に打たれたものだと思ってください、生きていたのですから回復はするでしょう」
「でも、注射も打った。キリギリ君に試したけどしっかり効果があったからフウカもこれで直るはずなのに」
「なら大丈夫でしょう、フウカちゃんよりツルギ君のほうが重傷でしたから。もう何日か寝れば目を覚ますのでは?」
「そうだね、キリギリ君の回復も時間かかったし。ああ、そうだキリギリ君、後でフウカを連れてきて頂戴。新しい装甲車借りたから、そこでフウカが起きるまで眠らせておく」
「わかった、体も軽いし背負っていけるだろ。後で連れていくよ」
そういってフウカの頭を撫でハナビは立ち上がりテントを去っていく。
ハナビが出ていっった後ツルギはセイランに尋ねた。
「俺はどのくらい寝ていた?」
「4日ですわ。その間に前線基地もだいぶできてきましたのよ」
「そんなにか、結構寝てたんだな」
「ええ、精鋭の方々は毎日基地の付近を巡回して基地に対する襲撃はなくなりました。基地自体もあと一週間ほどで最低限必要な建物だけは完成しますわ」
「腹が減ったな」
「ええ、四日間ツルギ君は点滴でしたもの。では食料をもらいに行きましょう、私も一緒に行きますわ」