真価 7
建物内で豹型の生体兵器と戦うツルギたち。
攻撃を避けられるスペースを限定したものの、それでも壁や天井を跳び回り光の弾の被弾を押さえる。
先ほど建物から強引に出されたハナビを助けに行こうとするが、生体兵器を相手によそ見をして戦える状態ではない。
「この部屋から出してはダメですわ、また逃げられてしまう! せっかく袋小路に追い込んだんだし、ここで仕留めないとまた背後から襲われてしまうことになりますわ」
「でもここでもたもたしてるとハナビが!」
部屋から一歩引いたところから射撃しているため死角も多く命中率は悪い。
戦闘に集中できず何度も後ろを確認するフウカ。
部屋の中にいる生体兵器は唯一の出口をセイランたちに封鎖され逃げ場を失い、壁や床はコンクリートで作られているため体当たりでは簡単には壊せない
しかし飛んでくる光の弾を避け続けることで逃げ出す隙をうかがっている。
「わかってるけど、ここで戦力を分けたら勝てなくなる。助けるにはまずこいつを倒さないと」
「うぅぅぅ!! なら、炸裂式雷撃弾で」
痺れを切らし弾種を切り替えようとするフウカを止めるセイラン。
「ダメですわ。こんな狭い建物内で撃てば下手したら私たちもダメージを受ける、それにバッテリーの消費も早いし次弾までにかかる時間も長い。このまま数を撃ってまぐれ当たりで弱ったところを一気に叩くのがベストですの! 耐えてください」
「もぉぉ!!」
ツルギがバッテリー交換で扉の前から離れる。
「バッテリーが切れた、取り換える」
「お早くおねがいしますわ」
使い切ったバッテリーをその場に捨て心配でちらりと窓の外を見ると、土嚢に手をついて立ち上がるハナビの姿が見えた。
怪我の具合話見えないがすでに血だらけで長い金髪が赤く染まっているのを見て慌てて窓から外へ向けてエクエリを構え、ハナビに迫る生体兵器に向かって引き金を引く。
生体兵器は背後からの攻撃に驚きハナビから離れツルギを見て資材の陰に隠れる。
「ハナビさんがやばい、助けないと殺される」
「うぅ……わかりましたわ、ツルギ君が助けに行って。でも生体兵器を倒さなくていい、ハナビを連れて戻ってきて」
「わかった」
ツルギは窓から顔を出し下を見た。
建物二階、死なないにしても落ちて体を痛める可能性があり最短で飛び降りて助けに行けそうにない。
移動の邪魔になるエクエリをいつでも構えられるように手をかけたまま背負い、走って階段を目指し一階の窓から表に出るとそこから見えたハナビのもとへと駆け寄る。
周囲に生体兵器の姿はない開けた建物の前を横断し土嚢のもとへと走った。
「ハナビさん、大丈夫ですか」
「ああ、キリギリ君元気? なんか足に力はいらなくなっちゃった」
頬を伝い流れ出る血が長い金色の髪に吸い込まれていく。
頭を強く打ったのかどこか遠くを見据えた目でふわふわとした状態のハナビ。
彼女は自分の擦りむいた手の傷を見る。
「ああ、血がこんなに……誰もが欲しがる、王族の血なのに」
「しっかり、生体兵器もどこかに行った今のうちに……」
そう話しているとハナビともたれかかる土嚢が大きく揺れ上から土が振ってくる。
「何だ」
ツルギが土嚢の上を見上げればそこには豹型の生体兵器の姿。
生体兵器を認識した瞬間、反射的にエクエリを構えるがその前に生体兵器は土嚢の上からツルギ目指し飛び降りてくる。
中型のエクエリを盾に頭に迫る牙を防ぐがその重量さ支えられない。
「っく、ハナビさん。ここから離れて」
「え、あ、うん。そうだね、キリギリ君も早く逃げて」
そういって土嚢伝いに逃げ出すハナビ。
しかし、その背中にツルギに覆いかぶさったままの生体兵器が姿勢を低くし狙いをつける。
「何だ急に重く……」
エクエリを噛み押し付けてくる力が弱まり、代わりに体全体にかかる重みが増す。
ツルギが全力で生体兵器を押しのけようとするが次の瞬間、噛みついていたエクエリをツルギを踏みつけ放し逃げるハナビへ向けて飛び掛かった。
蹴られた拍子にツルギは後ろへと飛びハナビは土嚢にたたきつけられる。
吹き飛ばされていつまでも倒れておれずエクエリをもって立ち上がる。
手に痛みを感じたがそれでもツルギは生体兵器へとむけて引き金を引いた。
光の弾が生体兵器の後ろ足に着弾しその体から血が流れる。
「当たった、当たったぞ」
攻撃を受けツルギのほうに向きなおる生体兵器。
突撃を受けたハナビは顔には髪がかかっていて表情は見えず体は倒れこんだまま動かない。
「このままじゃヤバイ。もうハナビさんに近づけないようにしないと」
エクエリを撃ちながら一歩踏み出す。
「ハナビさんから離さないと」
生体兵器は動かなくなったハナビから狙いをツルギに変え障害物の陰に隠れ遠回りに接近してくる。
物陰に隠れ生体兵器が見えなくなるとツルギはハナビのもとへと走った。
「大丈夫ですか」
倒れるハナビに声をかけるも返事はない。
生体兵器を警戒しつつハナビを背負いセイランたちのいる建物へと帰ろうとする。
「これ完全に的だな、襲ってこないわけがない」
そう呟くと背後から強い衝撃を受けツルギは吹き飛ぶ。
「足音が聞こえない!」
地面を転がり起き上がるとハナビを引きずって重機の陰へと隠れた。
頬を切り痛む傷口を撫でて確認し再び物陰へと消えた生体兵器を警戒する。