野に咲く花、1
雨が小降りとなり廃墟を抜けて白く霞んだ視界にシェルターが見え、広葉樹の森を抜け大扉へと帰ってきた。
大扉の前はまた生体兵器との戦闘があったようで生体兵器の死骸が基地へ運ばれていた。
こうしないと風で流れる死臭につられた他の生体兵器が、集まり襲ってくるため手際よくおこなわれる。
まだ解体作業が追い付いていない生体兵器の死骸をよけ精鋭たちは大扉が開くまで待つ。
運ばれていく生体兵器に目を向けた、またあのイタチ型の生体兵器が襲ってきたのだろう数匹が今回も返り討ちになっていた。
「口の中から頭を一撃」
『手際がいいな』
トヨとトキハルが無線越しに会話する。
「見たところほとんどが一撃のようですね」
『どこかの精鋭か?』
そこにライカも混ざる。
「私たちもそれぐらい超余裕できますけどね」
『なぜ見栄を張る、同じ精鋭だ、ライバル意識はいらないだろう』
「べつにそういうつもりじゃないんですけど。そういえば、副隊長のエクエリは一回整備にまわさないといけませんね」
『ああ』
トヨは荷台に乗せた超大型のエクエリのことをちらりと見やり話を続ける。
「私の車に積んであるので、二人を診療所に連れて行ったらそのまま整備に持って行きますね」
『ああ、まかせる』
そして、二台は大扉の前までやってきた。
近くにいた一般兵との適当なやり取りのち大扉が開くのを待つ。
「お疲れ様です、それで鰐はどうなりました」
大扉が開くまでの時間、杖を突いた足を包帯で巻いた一般兵が話しかけてきた。
「状況を見て一時撤退、装備を整えまた出撃する予定です」
ライカとトガネが負傷したことは伝えない、精鋭が敗走したというのは一般兵や市民に不安を広げてしまう。
幸いトガネとライカの負傷は服の上からはわかりづらい、さらにトガネは迷彩マントを羽織っているため流血もかなりわかりづらくなっている。
「あいつらは仲間の仇です絶対倒してください」
おそらくは資材回収班に知り合いがいたのだろう、足を怪我した一般兵はそういうと敬礼し車を通した。
「仇ねぇ、ダルイ。重い」
窓を閉め足の怪我した一般兵の前を通り過ぎるとライカが呟いた。
「いやいや、恨み辛みは誰だってあるさ。重いっていうのは可哀想だよ」
「トガネ先輩にも?」
ライカは移動中暇だったので軽い興味本位で聞いた。
「ナ・イ・ショ」
「うぜぇ」
トガネとライカは怪我をものともせずいつも通りのやり取りをしている。
ひとまず二人とも怪我が治れば平気とトヨは安心し二人に話しかける。
「とりあえず二人は、診療所にこのままいきますので」
「わかった、任せるよ」
「えー、せっかくトヨちゃんとライカちゃんと一緒に居るんだからどこか別の所に行きたいなー」
二人はトガネの言葉を無視する。
そのまま基地内を走ると、精鋭特有の一般兵と違う強化繊維で出来た制服の二人組が雨の中を歩いていた。
一人は迷彩マントをカッパ代わりに羽織り、もう一人は荷物を頭の上に乗せて雨をしのいでいる。
二人とも買い物袋を持っていることから、食事の買い物をし町から帰ってきたのだろう。
「あ、精鋭の制服。どこの隊だろう」
「どれどれ、いてててっ」
「先輩、無理に動かない方がいいんじゃない」
後座席の二人が歩いている精鋭がどこの隊か確認しようとしている。
トヨは一目でどこの隊かわかっていたのでそれをライカとトガネに伝えた。
「あの制服は蒲公英隊ですね。メンバーは二人の小さな隊です」
「二人かー、いいなぁー二人旅。いや、俺っち意外、全員女性のハーレムの隊を作って……」
「キモイ」
シェルターに帰ってきたこともあり、少し早いが車を降りる用意をし始めるライカ。
「ちょっと静かに、安静にしててもらっていいですか」
「先輩、この際いっそ、怪我と一緒に頭も見てもらえば?」
いつもの調子を取り戻し騒がしくなってきたトガネとライカ。
その流れにトヨも加わる。
「それは……手遅れではないでしょうか?」
「トヨちゃんまで、ひどくね!」
「冗談です」
仲良さげに歩く男女をすれ違いざまに会釈をし、通り越して診療所に向かった。
トヨ、ライカ、トガネの乗ったジープを先に通し、その後ろをトキハル、トウジが乗った車両が追いかける。
トヨの運転する車両から通信が来ない限り無言の車内だったが、ここにきてトキハルが口を開いた。
「トヨが帰ってきたら、もう一度作戦を練り直す」
「ん、ああ、わかったぜ、んで次の作戦はライカとトガネは休ませていくんだろ?」
「出来ればそうしたいが、来るだろうな」
「まぁそうだろうな」
二人を乗せた車は診療所へは向かわず宿舎へと向かっている。
車はトヨ達とは別の方向に曲がると後ろに精鋭特有のオーダーメイドの制服が見えた。
2人のうちの片方は雨避けに鞄を頭に乗せ、もう一人は迷彩パーカーをカッパの代わりにしている。
「他にも精鋭がいたのか」
驚いたように声を上げるトキハル。
「ん、話し合いで会わなかったのか?」
「この間にはいなかった隊だ、あの制服は……蒲公英隊か?」
一度黙り込み何かを考えるとジープを停車し、後ろからくる精鋭らしき二人組が来るのを待つ。
そして蒲公英隊の二人が横を通り過ぎるタイミングでトキハルが声をかけた。
「おい。ケサ、シノノメ」
突然声をかけられ驚いている蒲公英隊2人。
「うぃ? おっと、サジョウさん! と、蒼薔薇隊の方。お久しぶりです」
短い髪をツンツンに固めた青縁メガネの蒲公英隊隊長、ケサ・コウヘイはトキハルに声をかけられ彼を認識すると深々とお辞儀をした。
「……ですです、こんにちは……」
迷彩マントをカッパの代わりに羽織り、草のような装飾を巻きつけてあるヘルメットをかぶった副隊長、シノノメ・ノノ。
彼女は話しかけられるとコウヘイの後ろに隠れて小さくお辞儀をした。
「皆さん戦闘後ですか? 今ユキミネさんたちが通っていきましたよ」
コウヘイがトヨたちの向かった反対側の道を指す。
「まあな、お前達二人は今ここに着いたばかりか?」
「ええ、ほんの少し前にここにきて。少し休憩をとってまたすぐに出ていくつもりです」
人見知りのノノが腕にしがみ付いているので動きずらそうにしているコウヘイが、不思議そうに答えるとトキハルは話をつづけた。
「少し話がある。ケサ、急ぎの用事はあるか?」
「ん、えーっと。どうだったっけノノ?」
コウヘイの陰からノノが答える。
「ない。いつも、急ぎの用事はない……物資補給して、出てくだけ」
蒲公英隊は隊としての攻撃力は低いが情報収集能力にたけ、生体兵器に有効な攻撃方法や地形などを教えたり、群れたや巣の規模の情報を集めるなど、基本的に戦わない精鋭として有名な精鋭部隊だった。
「だそうです。どうかされました?」
「乗れ、宿舎まで送っていく」
トキハルが後部座席を指す。
「お、どうも助かります」
「……ます」
後部座席に蒲公英隊2人を乗せ、車はまた走り出した。
「すみません、濡れてて。座席水浸しにしちゃって」
「かまわない、気にするな」
動く密室となった車内でトキハルが後ろの二人に話しかける。
「こちらの要件を先に行っておく。生体兵器討伐の手を貸してほしい」
特定危険種以上との戦いを専門に行う蒼薔薇隊からの頼み。
頼みと声色から何かあったことを察し年上に話しかけられ委縮していたコウヘイは声色をまじめなものに変える。
「どうかしたんですか?」
コウヘイは前の座席に身を乗り出して話を聞こうとしたが、ノノが抱き着きそれを阻止する形になる。
「今、俺たちは生体兵器の駆除に失敗、撤退してきたところだ」
「え、誰か……」
不安そうな声でノノがコウヘイの陰から頭の先を覗かせた。
「それはない、怪我人が出たが軽傷だ。今トヨが診療所に連れて行っている」
「よかった。……でも蒼薔薇隊が撤退するような相手を、俺たち二人が増えたところで何とかなるんですか?」
トキハルは肯定する。
「ああ、お前達の戦い方なら十分戦力になってくれる」
コウヘイの影に隠れたままノノは表情は見ないが嬉しそうな声で答えた。
「手伝う……私たちが、必要なら嬉しい」
「ノノもそういってますし、なら俺たちはオッケーです」
「そうか、皆そろったら作戦を説明する」
一度蒲公英隊を宿泊先に送り届けるため、トキハルたちが乗ったジープは一度行先を変えた。




