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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
13章 最北の砦 ‐‐風を運び輝く太陽‐‐
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真価 3

 サイレンを聞いてハナビが近くの切り株の上に立って基地のほうを見る。

 工事を進めていた一般兵たちが工具を置き、エクエリに持ち替え生体兵器の現れたほうへと走っていく姿が見え彼らの入っていく方向を確かめつろハナビが切り株から降りた。


「それじゃ、作戦通りに戦おう」

「練習もなしに? それに勝手に持ち場を離れる気ですか」


「キリギリ君は固いなぁ、精鋭は柔軟な行動が求められてるんだよ。一般兵が時間稼ぎをしているうちに精鋭が助けに入って生体兵器を討伐するって英雄譚にも書いてあったんだから」

「本の情報を鵜呑みにしないで、任された仕事を一つ一つ手堅くいきましょうよ」


 不安そうな顔をするツルギの肩を叩きハナビは後の二人を見る。


「フウカ、セイラン、大丈夫?」


 フウカはバッテリーの残量を確認し親指を立て、セイランは動く片腕でエクエリを持ち上げた。


「お腹いっぱいになったし大丈夫」

「本当に防壁の外は息つく暇がないですわ。次の襲撃前にもう片方の腕を直してほしかったのに」


 力の入らない腕を上げ力の入らない指先でこぶしを握るセイランが肩を落としているツルギを見る。


「行くよ」


 セイランの足に合わせ向日葵隊は生体兵器のほうへと向かおうと歩き出す。


 その時だった。

 ハナビたちの近くの木々が揺れる音が聞こえ、森の奥から基地の様子をうかがう二つの目。


「何かいますわ」


 森の奥からこちらを見る瞳に四人はエクエリを向ける。

 生体兵器らしき二つの目は暗がりから動向を光らせるだけで一向に飛び掛かってくる様子はない。


「フウカ、雷撃弾」

「うん」


 フウカがエクエリを木々の間から覗く瞳に向け弾種を切り替えると引き金を引く。

 光の弾は狙った位置から外れ生体兵器の手前の地面で青い稲妻を出す。

 それを見て音を立てて瞳は消え、セイランとフウカが顔を見合わせる。


「逃げましたわ」

「何だったの、生体兵器じゃなかった? いや生体兵器だったんだろうけど」


「いいえ、人ならば様子見なんかせず基地へとくるでしょうし。間違いなく生体兵器でしたわ。偵察か、奇襲に失敗したから一度撤退したか。なんにしてもきっとまた来ますわ」

「ちゃんと狙ったのになぁ。壊れてるんじゃないこれ。ツルギ直して」


 腕の無さをエクエリのせいにするフウカを無視してハナビは基地のほうへと歩いていくが、見れば一般兵たちは持ち場に戻っている最中でエクエリを置き工具に持ち換えていた。


「あれ、戦い終わった? 向こう守ってた精鋭が倒したのかな」

「みたいですわね。走って行っても私の足じゃどのみち戦闘前に、決着はついていましたわね」


 ツルギが深く息を吐き切り株に腰を落として空を見あげ、セイランも構えたエクエリを下ろして森のほうを見回す。


「なら今のうちに私の腕を直してください。ここなら工具も機材もそろっているのから直せるでしょう?」

「そうだった。今のうちにセイランさんの腕を直します、一緒に来てください」


「ええ、お願いしますわ」

「ハナビさん。少し、ここを離れますね。セイランさんを連れていきます」


 それを聞いてハナビは軽く手を振って追い払う。


「へいへい、二人仲良く行ってらっしゃい。すぐに終わらせて戻って来るんだよ」

「なんか、意味ありげなふうに言わないでほしいですわ」


 荷物になる中型のエクエリと鞄を置いてツルギとセイランは基地へと戻っていった。



 基地に消えていく二人を見てフウカが服装の汚れを気にするハナビに話しかける。


「ハナビ」

「なに、フウカ。どうかした?」


 生体兵器の警戒のために森のほうを見てハナビが切り株に座り、フウカがその隣に座った。


「どうして、黄薔薇隊の精鋭を向日葵隊にいれなかったの? 制服も用意してあったのに」

「ん、いや、普通に王都の指示で移籍が土壇場でキャンセルになった。これは多分姉さんらのせいでしょ。移籍の準備もかなり進んでたし、私たちが出発する前ってのがあの人ららしい。それでも私たちは精鋭として出ていく手続きもすんじゃって流されるように出てきちゃったけど」


「結果として私たちは無理やりな結婚から逃げられたけど。よっぽど私たちが勝手するのが嫌だったのかね」

「でしょう。他に説明できない、フウカは別として私は嫌われてるからね。いまだに子供のころパーティーに私を連れていかなかったことの腹いせに、姉さまらのドレスを切り刻んだことを根に持ってるみたいだから」


「やだやだ、そんなんだから二人とも結婚してもクーリングオフされちゃうんだ」

「まったくね。さて、しかしどうやって生体兵器と戦おうか。頼りにしていたセイランがあんな状態だし。キリギリ君、もうちょっと成長してくれると思ったんだけど」


「そうそう、戦闘といえば、ハナビは生体兵器怖くないの? 私は最初の戦い以降手足に力が入っちゃうよ」

「怖いさ。でも、みんなでパニック起こしたら死ぬ。常に冷静に状況を見回せって精鋭の英雄譚にも出てきた言葉、それにあの子に今の生き方を変えるなら覚悟をもって進めって言われて、私は覚悟を決めただけ。ま、頭ぐるぐるして何にもできてないだけなんだけどさ」


「ハナビの友達……あれは危険じゃない? 王都の中でもかなりやばい方だと思う、ハナビの目じゃなくてもあれは危険ってわかるよ」

「まあね。部下を薬と恐怖で洗脳しているあたり私の理解を超えるやばいところもあるけど、行動ほど色は悪くない。話も合うし」


「私あの人、苦手。何度か会うことはあったけど話したいとも思わない」

「まぁ、いまは戦って生きて帰ることだけを考えていこう」


 そういってハナビは二人の帰りを待つ。


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