前線基地設営作戦 10
二匹は向日葵隊を目にして長い牙をむき出しにし威嚇をするが、しかしすぐに生体兵器たちは自分たちが出てきた森のほうを向き姿勢をかがめ戦闘態勢をとる。
ツルギたちが自分たちを無視し森を見る生体兵器の思いもよらない行動に戸惑っていると、木の大きく揺れる音と地響き。
そして現れる3匹目の大型の生体兵器。
ゆったりとした動きで森の奥から現れた巨体は鱗に覆われた爬虫類型の生体兵器。
全体を追う硬そうな鱗、首元に鬣が生え、傷だらけの太い腕に太く長い尻尾の先には棘が生えていて、その尻尾で器用にバランスを持ち2足歩行歩く。
「3匹目……終わった、逃げ道も封じられたし」
「お腹すいたままなのに」
「ニヒヒ、どれも怪我してるし争ってる最中かも。もしかしたら隙を見て逃げられるかも」
「少なくとも今は逃げるのは無理ですわ」
三匹の生体兵器に囲まれ向日葵隊は道の真ん中に集まって、それぞれの方向にエクエリを向けた。
「どうすんの」
「戦うしかないんじゃ?」
木々の間から現れた三匹目の生体兵器には口や手にべっとりと滴る鮮血をつけていた。
先に出てきた二匹とはまた別の威圧感のある大型の生体兵器に銃口を向けるハナビとセイラン。
「あの生体兵器は、なに?」
「知らない生物ですわ」
先に森から出てきた二匹が爬虫類型の生体兵器に向け吠える。
最初に動いたのは最後に現れた二足歩行の生体兵器、太く大きな腕を振り上げ装甲車の上に乗る中型の生体兵器に飛び掛かった。
攻撃を回避した生体兵器は背後の森に飛びのけ木を蹴り着地。
後に残された装甲車が甲高く悲鳴のような音を立てて拉げ、その轟音に向日葵隊が竦む。
動けないでいる向日葵隊を飛び越えもう一匹の中型生体兵器が飛び掛かかり、二足歩行のトカゲの首元へと噛みつく。
トカゲ型の背中に乗り大きく口を開き長い牙で噛みつこうとするが、その鱗は固く首元も鬣で防がれ傷を与えるに至らない。
背中に乗った生体兵器を振り払おうと暴れる大型の生体兵器。
足を踏みしめるたびに地面が揺れ尻尾が風を切って振り回される。
「生体兵器二匹のぶつかり合い怖っ」
フウカが小声でつぶやく。
「よそ見してる場合じゃない、こっちにも一匹いるの忘れるな」
争う二匹だけでなく近場にいる中型の生体兵器のほうを警戒していたツルギ。
中型の生体兵器は向日葵隊から一定の距離を取ったところで立ち止まっていてハナビたちがエクエリを向けると姿勢を低くする。
「撃って」
片腕でなんとか中型のエクエリを持っているセイランの掛け声で、4人が引き金を引く。
同時に生体兵器が跳躍し、直線で飛んでいく光の弾を飛び越え放物線を描いてハナビへと飛び掛かった。
一瞬のことで回避も間に合わず、右腕をかじられハナビはツルギたちから引き離される。
「早い、引き金を引いたと同時に飛び掛かってきたぞ。見てから避けた」
「避けるくらいしますわ、それよりハナビの救出を!」
強化繊維のおかげで腕を噛み千切られることなかったが、生体兵器のおもいのままに引きずられるハナビ。
その背後で生体兵器同士の戦闘は続いており、多くの土埃が舞う。
「いっぁ、嘘でしょ。なんで私が、このっ」
ハナビが抵抗し重たい銃口を頭に向けようとするが、生体兵器が首を左右に振ればそれだけで彼女は地面を短い距離往復する。
「絶対、お姉ちゃんに当てないようにね!」
「わかってる」
ハナビを咥えたまま森へと下がっていこうとし慌ててそのあとを追う。
狙った場所にまともに当てることもできないフウカとツルギ、セイランも片腕では当てる自信はなく、何度か構えて狙いをつけるが射線にはハナビがいて引き金を引けない。
「撃てない……的は大きいのに」
「ばらけましょう、左右どちらからか狙えるようになりますわ」
「そうだな」
包囲するように扇状に広がる三人。
近場での戦闘に意識をそがれながらも射線の通ったツルギが中型の生体兵器に攻撃する。
抵抗し暴れるハナビを咥えていることから動きが悪くなる中型の生体兵器は、エクエリの弾が当たると彼女を開放し今度は孤立したセイランへと飛び掛かった。
「弾種を切り替えて!」
セイランがエクエリを盾に攻撃をいなし大きくのけぞる。
彼女の叫びにツルギたちがエクエリの弾の種類を変え引き金を引く。
フウカの炸裂式雷撃弾で生体兵器に青い電流が走り直後、ツルギの炸裂式榴弾で後ろ足の一本の肉が吹き飛んだ。
最後に解放され地面に仰向けに寝ころがったままのハナビが光の弾の散弾を撃ちだす。
「あたった!」
負傷してもなお牙を見せ威嚇する豹の生体兵器。
距離を取るため跳躍し木を蹴って太い木の幹にしがみつく。
攻撃を受けた個所から新たに血が流れだし木を伝い地面へと垂れた。
「もー、負傷したなら逃げればいいのに」
「餌を食べることで栄養に変え回復が早まりますと習いましたわ。ですから負傷したら獲物を死に物狂いで食いに来ると」
生体兵器が距離を取った隙にハナビとセイランたちが集まり陣形を組みなおしエクエリの銃口を向ける。
「お姉ちゃん怪我は!?」
「二人とも大丈夫か」
大型の生体兵器の戦闘はツルギたちから離れた森の中へと移動しており、木々の倒れる音が響いていた。