前線基地設営作戦 8
夜通し修理を続けたツルギ。
ツルギと話していたハナビも夜深くになると自然と寝てしまい、虫の声も遠い静かな空間に金属が擦れあう音だけが響く。
「まだ起きていましたのね。でもよかった見張りがいないと危ないところでしたわ」
「とりあえず、腕を直してみた。動くはずだがとりあえず頼む」
「ずっとやってましたの?」
「言ったろ、仕事は」
セイランの肩から下の義手を差し出す。
受け取るとツルギに背を向けて外した時と同様に、制服を脱いで作り物の腕をつけると動かしたり握ったりして感触を確かめた。
「手を握ってみてくれ」
「あなたの?」
「他に誰が?」
「そうですわね」
白い手袋のつけていない義手の手でそっと伸ばされたツルギの手を握る。
「握力はまだ少し弱いか……でも今ある部品ではこれがいっぱいいっぱいなんだ、どこか動きが悪くなったところは? できる限り直すから、こういうのは本人しかわからないし」
「え? ああ、いいえ、問題ありませんわ」
「なら腕は直し方が終わったから良しとして、次はいよいよ足になるけど」
「そうですわね、でも脱ぐにはもう片方の腕も直していただかないといけませんわ」
そういって直った腕でもう片方の義手を外そうとするセイラン。
「まどろっこしいから、俺が外しますよ。あまり時間がかかると朝になっちまうし、足だけでも直せれば明日には自力で歩けますし」
「いや、ほんと腕の力が戻ればすぐに外せますからそれまで待ってください。足は自分で外すので」
「分解して仕組みを理解して腕を直すのに時間がかかっちまった。早く終わるとはいえ腕を直してからでは朝には間に合わない、先に足を直させてくれ」
「……仕方ないですわ。お手を借りても」
ツルギの手を借りてハナビとフウカのくるまったシートからゆっくりと出た。
自分の足で歩くことができず彼女はそのまま抱きかかえられ、向かいの座席に移動させられる。
「足、太ももまでは一応ありますわ」
「これも生体兵器に」
「……少し違いますわ。この足は戦闘中の事故で失いましたの」
「事故。建物が倒れてきたとかですか?」
「この間ツルギさんに、装甲車の下にいるのは危ないと言ったでしょう。私はその経験者なんです。生体兵器との乱戦時車両の下に潜り込んでやり過ごそうとした、そしたらその上に生体兵器が乗ってきて部品と地面に挟まれて……」
「ストップ、それ以上は背筋がやばい。早く義足をはずそう」
改めて顔を赤らめセイランはツルギを見る。
眠さで半分思考が麻痺しているツルギの表情を見て彼女は小さくため息をつく
「では、私がツルギさんの手を金具に持っていきますから、力を抜いていてください。ではしゃがんでください」
「わかった」
ツルギがしゃがんで手を差し出しセイランは直っていない腕でスカートを押さえ、力の戻った義手で彼の手を掴むと少し持ち上げた義足と生足の境目に手を置いた。
途端にツルギは自分がやろうとしていたことを自覚する。
「ちょま、これは」
「何ですの、足の固定具と腰のベルト両方外さないと足はとれませんわ。ちょっと、どこにも触らないで!」
義足は二つに分かれ足にはめ込み挟み込む形、日常の暮らしで浮かないように人の足に近い形をしている。
黒焦げのカバーに触れ金具をはずす。
「これってどれくらいの値がするんだ?」
「結構高かったはずですわ、簡単に壊れてしまいましたけども。安い義足は武骨で金属や強化プラスチックがむき出しでお父様が女の子にそんなものは似合わないってこのしっかりした義足に、別に女の子扱いされたことなんてお父様以外にないのにね」
「高層区画の育ちで軍系で性格が厳しそうだからな。顔がよくても近寄りがたいんだろうな」
「ならいつもにこにこしていればいいんですの? はっ、無理ですわね。ちょっと、最後今なんて言いました! 告白ですかこのタイミングで!?」
「いや違う、早くもう片方の義足も外そう。留め金は外した、次はどうすればいい?」
「なんだ、吃驚しましたわ。次は目をつぶってください、めくりあげて下着丸みせなんて絶対嫌ですわ。スカートをはずして腰のベルトを取ります、これなら見えても一部だけ、見せる気はないですわよ。いいですか目をあけないでくださいよ、見たら許しませんわ」
散々念を押しセイランは自身の腰にツルギの手を伸ばさせる。
ボタンとファスナーを外しスカートを脱がせて義足を固定するベルトをはずした。
「とれたな、よし。後は任せてくれ」
「いやまだですわ、私スカートをはいていません。片方は直してもらいましたけどもう片方はまだ握力が戻っていませんわ。指先が自由に動かせず自分で着替えられないのに」
するりと取れた両足の義足とライトをもってすぐに強化外骨格のほうへと歩いていくツルギを引き留める。
「え」
「だから、こっち見ないで」
振り返りライトの光を当てると慌ててずり落ちるスカートを持ち上げたセイランと目が合う。
視線が下に落ち上着からはみでるシャツとスカートの間から白い肌と赤い下着が目に入る。
「見ましたわね。絶対、許しませんわ」
「俺は離れようとしたのに呼び止めるから」
「だから、自分では穿けないんですって。早く穿かせて、とっとと直してください」
「わかってるよ」
騒ぎにハナビが一度目を覚ますが二人を見て軽く笑い再び目を閉じた。