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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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油断、6

 

 雨足は弱まって小ぶりとなり戦闘継続は難しいとトキハルの判断で蒼薔薇隊は撤退を開始した。

 車までは直線距離で500メートル、廃屋が崩れ通行不能な道や通行は危険と判断した場所を避けていくと距離は800メートルぐらいになっている。


「だせぇなぁ俺……」


 撤退の最中、テンションが下がり普段とは別人のように暗くなったになったトガネはボソッと呟いた。

 ライカは自力で歩けたが、トガネの方は彼女をかばって受けた瓦礫などがあり、痛みのためかゆっくり歩くのがやっとな為、トウジに支えられながら縦列の陣形の中央に居る。


「トガネはかっこよかったですよ。ライカちゃんを守って」


 トガネは雨音でトウジ以外の誰にも聞こえていないだろうと思ったが、最後尾を歩いていたトヨが反応し彼女はすぐさま励ました。

 彼女はトガネのワインレットのエクエリを借りて周囲を警戒している。

 そのエクエリは元はトヨのだが。


 その彼女の大型のエクエリは先を歩くトキハルが担いでいる。


「荷物を最小限にしたのは失敗でした、応急処置用の薬一式持ってきていればあの場所でも処置できたんですけど」


 トヨが申し訳なさそうに言う。

 軽ければその分スタミナの減りを遅くできる、長い時間活動するならただでさえエクエリとそのバッテリーで持ち物は重くなっているためほかの荷物は軽い方がいい。

 今まで小さく指を切ることはあっても強化繊維の制服を破くような大怪我にはなったことがなかったので、誰もが深く切ったときの応急処置に使う治療薬を持参してはこなかった。


「命じたのは俺だ、気にするな」


 トキハルは警戒を緩めずに答えた。


 ――だせぇなぁ……この傷、しっかり制服着てれば負わなかったかもしれないのに、今まで生体兵器の攻撃なんてもらったことがなかったから奢っていたのだろうなぁ。


 自身の怪我にトガネは奥歯をかみしめる。


「傷が痛むか?」

「そこそこに」


 そんなトガネが痛みで苦しんでいるように見えたのか、トキハルが心配して声をかけた。


「生体兵器は川のそばにしかいないと思っていた俺のミスだ」


 トキハルは雨音より少し大きな声で全員に聞こえるように言った。


「町の方から来るとは盲点だったな、あれはまいったぜ」


 額を流れる雨を拭いながら言うトウジ。

 一人で歩けこそしないが比較的元気なトガネの様子を見てトヨが振り返る。


「二人とも大怪我ではありますが、今すぐ命にかかわるようなものじゃなくてよかったです」


「だね」

「まぁね」


 ライカとトガネは同時に答えた。


「咄嗟とはいえライカちゃんを守れたのは大きいよね、女の子の怪我ほど見ていて痛々しいものはないからね。できれば無傷でいてほしかったんだけど残念だ」


 トガネが自分の自慢をしていると、腕をさすり瓦礫の当たった内出血の怪我の具合を見るライカ。


「仕方ないよ、戦場だもん。戦場で安全はないから、ってか、まじめな発言とか気持ち悪っ」

「俺っちって、何言っても罵倒されんのね」


 トガネが苦笑し脇腹の怪我の痛みでその笑顔がひきつる。

 ライカとトガネが話していると、トヨが光沢のあるエクエリを構えた。


 トキハルが反応して振り返る。


「後方100メートル子鰐が追ってきました、どうしますかもう一度閃光弾で……」

「正面、50メートル、あの灰色の蜥蜴です、2匹。ああ、ウザいなぁ」


 トヨの報告はライカによってさえぎられた。


「挟み撃ちかよ、だりぃな」


 トウジが舌打ちをして悪態をつく。


「俺たちモテモテだな」


 そういってトガネは苦笑し、また脇腹の痛みで悶絶する。


「今そんなこといっている場合ですか?」


 トヨがため息交じりに答えると生体兵器に狙いをつける。


「どっちかと戦って道を開くしかなさそうだね」

「このまま蜥蜴を倒して最短でルートで帰るぞ」


 ライカの質問にトキハルが答える。


「だな、じゃあライカ、俺が突っ込むからサポート任せていいか」

「私走れないから、それしかできないけどね。トウジ無理しないでよ」


 トウジとライカが目の前で次々と頭を出す蜥蜴を睨めつける。


「わかってる。トガネ少しの間自力で歩けるか?」

「少しならね、流石に脇に破片が刺さった状態であんまり長くは歩けないけど、これとっちゃダメ?」


 そういうとトガネはトウジから離れると、トガネのそばに彼を守るため工法を警戒していたトヨが近寄って来た。


「治療道具もなく、どのくらい深く刺さっているかわからない以上、下手に抜くと失血死するかもしれませんのでそればかりは我慢してください。車両に戻れば消毒と治療薬で傷を塞ぎます」


 ライカとトウジが前に出てトキハルと並び、トガネを守るよう陣形を作った。


「俺っちも戦うよ。大丈夫、撃つことだけはできるって」


 そういってトガネはもう一つの、銀色のエクエリを取り出そうとする。


「無理はしないで」

「今度は私がトガネ先輩を守るよ……ちゃんと借りは返しますから」


 無理をして明るく振る舞ったが、痛みで多少顔の引きつるライカ。


「シジマ、お前も怪我をしているだろ下がっていろ」

「いえ、戦えます」


 トキハルが後ろに下がるように言うが、きっぱりと断るライカ。


「それで、前と後ろどっちの相手をしますか」


 冷静に生体兵器がどう動くか警戒しているトヨ。


 トキハルは蜥蜴との戦闘はライカ、トウジ、トガネの3人に任せ、後方を警戒しているトヨに近寄る。


「正面突破だ、トヨこれで後ろを任せていいか、全部は相手しなくていい」


 トキハルが背負っていた大型のエクエリをトヨに渡す。


「えっと、弾種はなにで? 普通に一匹一匹倒していくと距離を知事められるとつらいものがありますし、炸裂式雷撃弾は鱗に通じるかどうか?」

「広域燃焼弾を使え」


 小柄のエクエリをカバンにしまい大型のエクエリを受け取ってトキハルから言われたその言葉にトヨは若干口ごもる。


「え、え、あの、あれは……」

「後ろは任せたぞ」


 指示は伝えたとトキハルは取り合わなかった。


「……はい」


 トキハルから大型を持ち上げ蜥蜴と戦おうとする4人に背を向け、一人超大型のエクエリ構えて後ろを向くトヨ。


「戦闘開始」


 小鰐の追っては見えているので3匹。

 一匹ずつ一列に並んでくる頭がないのか、皆狭い道路にギュウギュウの横並びで、お互いにお互いの動きを妨げるようにやってきた。


 蜥蜴のように廃屋の上を登るのはできないらしくコンクリートの廃屋やブロックの塀をゴリゴリ削りながら仲悪くやってくる。


「では、広域燃焼弾を使います。良いですね、残りエネルギーは43%。エネルギー放出、行きますよ!」


 トヨは最終確認をし、慎重に狙いを定め空気を振動させた光の柱は鰐たちの真ん中に命中。

 刹那、廃屋や地面の水分が蒸発し付近の物が一斉に燃え始める。


 大型のエクエリに使用されている炸裂式雷撃弾、それを限界まで威力を高めた一撃、バッテリー内全てのエネルギーの一斉放出。

 その威力はもはや脳や神経を焼き切るのではなく、その肉体を直に焼く威力にまで達したそれは使用時銃身が高温になる問題を抱えた実験兵器であった。


 着弾地点の地面が湯気を立て、体内で沸騰し内臓の弾けた生体兵器の死体が3つ仲良く燃えている、後から蒸発した水分の壁と熱波が蒼薔薇隊を襲った。


「あちち」

「おぇ、生き物が焼ける臭い」

「すみません。全エネルギー消耗、残り0%。銃身が覚めるまで使い物にありません。あと、これ、どこかでバッテリー取り替えしないといけませんが?」


 そういうとトヨは銃身から濡れた雨水を蒸発させ白い煙を上げる大型のエクエリをおろし、バッテリーを変えようとする。

 しかしトキハルはその場にしゃがんだトヨの襟をつかんで立たせる。


「今はいい、このまま進む」

「はい、わかりました」


 トキハルがトヨから大型のエクエリを回収し蜥蜴を倒しながら進む。


 灰色の蜥蜴は思った以上に強くはなく、現状満足に戦えるトウジとトキハルだけで十分相手ができた、後方は燃えている死体が道を塞いでいるので鰐の増援はない。


「大丈夫? 俺っち重くない?」

「重いよ、捨てていきたいぐらいに」


 ライカとトガネに側面を任せ後方をトヨが警戒する。


 更に蜥蜴の数は10,20と増えたが、俊敏性も強固な鱗もない数だけの存在で、多少厄介ではあったが苦戦することもなく車の留めてある場所付近まで帰ってこれた。

 周囲を蜥蜴に囲まれながらも確実に進む。


「あの角に、車停めましたよね」

「壊されてなきゃいいけど」


 そんな心配をよそに無傷の車両に乗り込む。

 先頭をトヨが運転する負傷者トガネとライカを乗せて、後ろをトウジが運転する隊長トキハルを乗せて。

 こんな形でトガネの願いが叶うとは思っていなかったのだろう、なんか一人で動けないことを悔しがってた。


『足場が悪いが出来るだけ飛ばせ』

「出来るだけやってます」


 二台のジープは瓦礫を乗り越え蜥蜴をはねとばし、廃墟を後にする。

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