前線基地設営作戦 3
川は少しずつ浸食で削れ小さな段差の崖となっていて、下には大きな岩と激しい勢いで水が流れていた。
架橋車がゆっくりと川に橋をかけている間しばしの休憩を挟む。
他の精鋭に呼ばれ運転手のハナビを残して向日葵隊も川へと降りていく。
「きれいな川、流れが強くてそこは見えないけど」
「ですわね。水は生き物にとってなくてはならないものだから、あんまり長くいると生体兵器と鉢合わせますわ」
フウカとセイランが川へと近づき流れる水を覗き込む。
「おっかねえ、こんな危険のところ早く戻ろう」
ツルギはいつでも車両のもとへと戻れるように崖のそばでエクエリを構えて立っていた。
「今降りてきたばっかりなのにツルギは何言ってるの。シェルターを出るときあいさつに来たガーベラ隊の人たちなんか先にいちゃったよ」
「そうですわね。一応私たち戦力として数えられているのですから戦わないと……というか精鋭の名前横文字もありなんですの?」
向こう岸にわたっていく精鋭の背中を見てフウカが指をさす。
「俺はせめて車で待機でよかったんじゃないか? ……戦力にならないし」
一歩も動こうとしないツルギにしびれを切らし二人は彼のもとへと歩いてくる。
「大丈夫、囮って方法もあるから。安心しなよツルギ」
「戦う、戦うからそういうのは冗談でもやめてくれよ。王都の人間が言うと洒落にならねぇから」
笑いながら言うフウカにツルギは顔色を変える。
「鬼ですわね。でも戦わず生体兵器の気を引くという戦い方もありますわ。身をもって攻撃を受けている間に仲間が倒すという、肉を切らせて……」
セイランが話していると向日葵隊のもとへ遅れて段差を下り川に降りてきた朝顔隊が近寄ってくる。
「やぁ、キリギリ君以外は顔色もよく落ち着いているね。精鋭は場数で成長するからガンガン戦ってね。それで、いつ生体兵器が出てきてもおかしくないところだけど、大丈夫そう」
ツバメの問いにツルギだけ首を振り、セイランとフウカは頷く。
「一応この間の戦いで朝顔隊の人たちの戦い方は見たから何とか」
「今回はちゃんと電源も入っていますし、いつでも戦えますわね」
朝顔隊たちと合流した向日葵隊は岩と伝って川を渡る。
「滑って落ちるなよ、浅いから溺れるに難しいかもしれないけど。中央のほうは流れ早いからあっという間にはなればなれだから」
「了解ですわ」
先を進む朝顔隊に続いてセイランが後に続きフウカがツルギに向かって手を伸ばす。
「ちょっと、ツルギ、ほらエスコート。私の手をとって歩いて」
「なんで俺が」
実績もその戦いぶりも見ていた朝顔隊と合流したことで心を落ち着かせるツルギ。
一同は川の対岸で地面を調べていた蒲公英隊のもとへ。
蒲公英隊の眼鏡をかけた男性の隊長がツバメたちを見て一礼する。
「やほー、どう何かいそう?」
「ああ、はい。ざっと見たところ数種類の生体兵器の足跡も確認できたけど……」
「どうしたのコウヘイくん、つづけて」
「河原に来た足跡はあるんですが、川にはいったっきり向こう側に出ていった後もあっちからこっちに着た後もないんです」
「んー、流された?」
「その考えは難しいかと、動物型も昆虫型も小型だけじゃなく中型サイズの足跡もありましたし。今ノノが調べてますんで、もう少し時間を。いまノノに話しかけると不機嫌になりますから」
「おう、イグサが絡んでいかないからそんな気はしてた」
崖と川とを行ったり来たりしているノノをみていると架橋作業が終わり、車両が一台づつ走れる橋が出来上がる。
順番に装甲車やトラックが橋を渡っていくのを待っているとノノが皆のもとに帰ってきた。
「どうだったノノ?」
「全員警戒態勢を維持、いつ戦闘になってもいいように、神経尖らせておいて」
「どうしたの?」
「少なくても中型、もしかしたら大型の生体兵器がいる。すぐ近くに」
「いるとしたらどこ」
「河原か川の中。かじられた骨が大きな岩に交じって落ちてた」
それを聞いてツバメが広がって警戒していたほかの精鋭たちに、通信端末で連絡を取る。
連絡を聞き精鋭たちは橋の周りに集まり生体兵器の襲撃に備えた。
「お疲れノノ。後は戦闘系の精鋭に任せて俺らもバイクを移動させるか」
「コウヘイ。まだ、わからないことがある」
「なにがだ?」
「争った形跡がない、水に入った生体兵器たちは、無抵抗のまま襲われていた。戦っていない、そこが謎」
そういってきた道を戻って川を渡り崖を上って行く蒲公英隊。
生体兵器発見の報告があったのは、それから数分もたたなかった。
「生体兵器発見! 早く、橋を壊される前に車両を渡らせて!」
「中型か、しかしこれだけ精鋭がいれば」
頭に長い角の生えた中型の爬虫類型の生体兵器。
「トカゲか……牙、爪、体液とか一応毒に気負付けて」
そういうとツバメが小型のエクエリを取り出し生体兵器に向かって走り出す。
追って朝顔隊部下二人も生体兵器のもとへと駆けだした。
その場に取り残される向日葵隊。
「私たちはどうします、一応副隊長はフウカちゃんだけど」
「待機離れたところから戦いを見る」
「それがいい、それが一番安全だからな。毒とかあるんだろ、こんなところじゃ治療なんかできないし、近づかないに限る」
ベテランの精鋭がそろっていることもあり、中型の生体兵器は発見から5分とかからずに倒された。
小型や中型のエクエリで頭部を破壊され無残な死骸は川に落ちた。
新部隊であるガーベラ隊が的当てにその死骸に穴を増やしている。
「水に血が流れていきますわね、下流から匂いを嗅いでほかの生体兵器が来ないか心配ですわ」
「下流って俺らのいるほうじゃん、もう少し上流側に行っておこうぜ」
ツルギがそういって中型の生体兵器を倒し戻ってきた精鋭たちのほうを指さすと、その先で残って射撃演習していたガーベラ隊がふっと糸切れたように川に落ちた。