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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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油断、5

 雨は一時的に弱まって周囲の音も聞き取りやすくなった。


 大ワニの気を引き丘から廃墟の方へと下がりレストランの駐車場へと連れ込む。

 このまま生体兵器自身に周囲の廃屋を壊させ自分自身を埋めさせる行動を封じたところで総攻撃を予定している。


 狭く足場が悪いところもあるが逃げる場所さえ誤らなければ崩した建物に押しつぶされることはない。

 すると市街地の方から灰色の蜥蜴が顔を出す。

 蜥蜴は様子を見ているようで飛びかかってきたりはしなかった。


「きやがったな」

「このタイミングとか、空気読めし」


 ライカとトガネは向こう側の大鰐を二人に任せ、蜥蜴を仕留めようとする。


「シジマ、ムギハラ、伏せろ!」


 トキハルが声を張り叫んだ。


 別の生体兵器に気を取られていた二人は、再び瓦礫の下に尻尾を潜り込ませ破片を飛ばそうとしていた予備動作に気付くのが遅れた。

 尻尾が廃墟を抉り瓦礫が飛んでくる。


 トガネが怯み反応の遅れたライカに覆いかぶさり背中を向け濡れた地面に倒れ込む。

 腕を上げ強化繊維で守られた制服の袖でガラス片や金属片から頭を守ったが、ぶつかる衝撃までは守れなかった。


 飛礫や鉄塊、木片が二人の背中を襲う。


「くぐぅ!」


 頭と同じくらいのコンクリート片や腕とより長い鉄パイプが彼女らを襲った。

 飛んできた瓦礫片が彼らの周囲で地面を転がる。

 トガネも瓦礫に当たった衝撃で転がった。


 巻き添えを食うような形で灰色の蜥蜴は飛んできた瓦礫に当たり、右前脚と首から上を失って廃屋から転がり落ちた。

 二人も伏せずにその場で突っ立っていたらああなっていたかもしれない。


 大ワニが地面に倒れている二人に意識を向けた、トキハルとトウジが頭や傷口を狙うが反応を示さない。

 レストランからの第四射、左脇腹に当たり内臓の一部が零れ落ちた。


 今の攻撃で大鰐は逃走を開始した。

 戦闘で追った傷を引きずって川の方土手を登っていきその向こうへと消えていった。

 生体兵器から流れ出た血は黒々とした線を道路から土手へと残していったが雨に流され薄められていく。


 追撃はせずトキハルとトウジはトガネ達に駆け寄る。


「二人とも大丈夫か」


 起き上がったライカは泥水でぬれた顔を拭うと落としたエクエリを拾い上げる。


「ええ……まぁ」

「……ライカっちは、大丈夫? 怪我はない?」


「おかげさまで」

「よかった」


 うつぶせで倒れていたトガネはそもまま半回転、仰向けになった。


「先輩が庇ってくれたから軽傷で済んだ、ありがとう……ていうか、あんたこそやばいじゃない、血が制服の下から染み出てる、えっえっ? 大丈夫?」


 トガネはしっかりと制服を着ていなかったことが災いして瓦礫が飛んできた時の風で強化繊維の制服がめくれ上がり、その後飛んできた瓦礫が右わき腹に6センチくらいの木片が刺さっている。


 そしてそこを中心にトガネの白いシャツはみるみる赤く染まっていく。


「ライカちゃんが無事なら大丈夫……俺っちに惚れてもいいんだぜ」

「それはことわる、ってそんなこと言ってる場合じゃないって、血やばいよ!」


 濡れた地面に膝をつき木片を抜こうか抜くまいか慌てるライカだったが、そこはきっぱりと言い切った。


「おいおい、大丈夫じゃないだろ。これ、まずいんじゃないか早く処置しないと」

『すみません、ここからじゃどうも確認できないのですが……トガネは大丈夫ですか』


 無線からトヨの動揺した声か聞こえる。

 二人が飛んできた瓦礫にあったのは見えていたのだろう。


「トヨ。ムギハラが負傷した。大鰐が逃げだしたが向こうは小さい鰐がいる、追撃しようにも下手に手が出せない。一時体勢を立て直すため車まで戻るぞ、お前も合流しろ」

『はい、荷物を持ってすぐに向かいます。トウジは大丈夫ですよね』


 トキハルとの通信が終わるとトガネが無線をつなぎ話しかける。


「心配してくれてありがと、ナース服着たトヨちゃんとライカちゃんに介抱されればすぐに治るよ」


 少し間があったのちトヨと近くにいたライカが同時に答えた。


「軽口が叩けるようで何より」

『軽口が叩けるようなので何よりです』


 トウジに支えられながらもトガネの軽口はいつも通りだった。


 ライカとトキハルが生体兵器の警戒に当たりトヨの合流を待っていると、さっきのより小さな鰐が土手も向こうから出てくる、数は5匹。


 その後からプラス3匹。この様子だとまだ増えそうな感じだ。


「おいおい、親の仇でも取りにでも来たか」


 怪我をしたお腹を押さえトガネが悪態をつく支えられていないと立ち止まってしまうのでトウジが肩を貸しながら後ろに下がり、トキハルが二人の前に出る。


『鰐って子育てしましたっけ?』

「生体兵器は普通の動物じゃないから」


『そうでした』


 トヨとライカが無線越しにやり取りをする。


「数が多い、こんなに相手してられないぞ」


 トウジが舌打ちをしエクエリをワニの方へ向ける。


「皆さん、目を瞑ってください! いきますよ、3,2,1、閃光弾発射」


 急なことだったが全員目を覆い隠した。

 大型のエクエリを持って走って来たトヨが合流すると同時にエクエリを撃つ。


 真上に打ち上げられたそれは網膜を焼く閃光でワニを怯ませ、蒼薔薇隊は全力でその場から離脱した。


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