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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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油断、4

 エクエリを構えたままいつでも外に飛び出せる用意をしているトウジ。

 トヨも茶色とクリーム色の柱のようなエクエリをライカの方に向けており彼女が逃げてきた瞬間から援護ができるように臨戦態勢を整えていた。


 トキハルは別の場所で双眼鏡片手にヘットセットに意識を向けている。

 レストラン内部は崩落した天井の付近にあった観葉植物がかなりの高さまで成長している。

 テーブルもソファーも朽ち果てており、軽くなぞるだけでボロボロと粉となって崩れた。


 ライカが土手を登ってそこからさらに進んで行き、トヨたちのいる場所からは姿が確認できなくなった。

 無線はトキハル以外の声をカットしライカの通信だけを拾い上げるように調整する。


「トハル、トガネを一人にして大丈夫だったんですか?」


 駐車場の向こうでトガネが小さくトヨに手を振っている。

 彼はカッパの代わりに緑や黒と言った色の迷彩マントをかぶっており、雨雲で暗くなり雨でぬれ黒みを増した地面と一部同化して見え、頭と手それにエクエリが宙に浮いて見える。


「あいつは一人の方が強い、戦っているときはいつも仲間の誰かの心配をして全力を出せていないからな」


 しつこかったのでトヨはトガネに手を振りなおした。


「そういえばここの川って、ちょうどシェルターと前線基地との中間地点にあるんですよね」

「ああ、そういえばそうだっけか。どおりで生体兵器が多いわけだ」


 トキハルはライカの報告を待っているのでトヨはトウジに話しかける。


「補足でいうとこの先の前線基地は数か月前に、作戦行動で防衛が手薄になったところを特定危険種の襲撃を受けて、半壊していていまだ修復中とのことです……王都では特定危険種の事、上位種っていうんでしたっけ?」

「ふーん、じゃあここの仕事が終わったらそこに行くのかもな」

「特定危険種と戦わない、ハズレ基地ですね」


 そんな会話をしているとヘットセットからライカの声が聞こえた、話し込んでいた二人も無線から聞こえる声に意識を集中する。


『……川見えました水は私の髪より明るい緑、中腹でくの字に折……』


 ライカが報告を始めている最中、トヨがエクエリを土手から市街地の廃墟に向ける。


 大型のエクエリがガラスの割れたレストランの窓枠を滑らせる音に驚き、トウジとトキハルが音の元凶トヨに向かってエクエリを構えた。


「トハル、市街地の方、私たちが来た道、何か動きました。……あ、ごめんなさい」


 トヨの立てた音に驚きトキハルとトウジはライカの無線を途中で聞き逃す。。


「突然だったからびっくりしたぜ」

「軽率な行動はやめろ」


 安全を確認し二人はトヨに向けたエクエリを下ろす。

 双眼鏡を取りだしたトヨが、土手とは正反対の方向、廃墟を見る。


 多くの建物が潰れ瓦礫の山となっている、その間を深緑色の塊が動く。


 頭から尻尾の先まで20メートルちょっとはあるだろうか、背中には皮か骨が変形したであろう棘が生えている、トラックより大きなとてつもない巨体が大きな顎から自分の物ではない血をしたたらしながらレストラン横の細道から出てきた。廃墟で他の生体兵器を捕食してきたのだろう。


 巨体にもかかわらず時速40キロほどだろうか軽快な足取りで足音も地響きもなく表れた。


 トガネも何かの接近を感じたのか、駐車場を挟んで向かい側の彼も建物の陰に隠れて此処から見えなくなった。


「ターゲット確認、数1。真っ直ぐ川の方へ……ライカちゃんを呼び戻します」

「いや、今動けば見つかる」


 そのまま生体兵器は止まることなく道路に出た。

 ライカと同じ道順で彼女の踏み倒した細い草の線を上書きしていく。


『……二匹とも10メートルくらいでしょうか輸送車より少し小さめ』


 無線で報告を続けるライカにトキハルは話しかける。

 同じようにトヨたちも注意を促した。


「シジマ、絶対に今動くなよ」

「息を殺して、気配を消して」

「できるだけ姿勢を低く」

『ライカちゃん。戦おうとは考えない方がいい』


『へ?』


 大きな鰐は土手を登る、ライカは迷彩柄のマントのおかげで周囲には溶け込んでいるだろうが、知らずにうっかり踏みつぶされるなんて笑えないことにはしたくない。


「予定と違うが攻撃を開始する。トヨ、どこでもいい、撃て」

「弾種、切り替え、貫通榴弾でいいですよね」


 大型エクエリ用の特殊弾【貫通榴弾】本当に爆発が起きるのではなくエクエリの通常弾が命中時に内側からめくりあげ横方向にダメージを広げ傷口を大きくする。


 皮膚や鱗が堅い敵、殻などを被った敵などに効果的で、通常弾で撃ちぬけてしまうような弱い生体兵器には使えない。


「ハシラ、行くぞ」

「今行く」


 トヨの元を離れ、トキハルとトウジが割れた窓からレストランを飛び出る。


 彼らの着地より少し前にレストランからトヨのエクエリが砲弾を放つ。


 空気を振動させ放たれた巨大な光の柱が雨を蒸発させ白い線を作りながら、戦闘車両の追加装甲の様な立体感のあるタイル状に敷き詰められた鱗に当たり、四方に肉片が飛び散る。


 鱗を削ぎ落し皮下の肉があらわになった。

 攻撃を受けた方向に振り返る巨大鰐、頭の特別密度の高い鱗の隙間から見えた小さな目がトキハル達を見る。


 そして巨体が向きを変え、土手を滑り降りる。

 トガネも建物の影から出てきてトヨの一撃で剥がれ鱗のない部分に攻撃を始めた。


 彼女の隠れるレストランを破壊させないため逆方向に誘導させ、彼女の超大型のエクエリがその体を削ぎ取る。

 レストランからの第二射、尻尾の付け根、背中の鱗が吹き飛ぶ。


 大鰐がレストランに向かおうとすればトキハル、トウジ、トガネの3人が傷口や頭を攻撃し注意を引く。

 雨が強いこともあって定期的に顔にかかった水を払う3人。


 ワニが180度向きを変えるが側面に回り込み脚を撃ち機動力を下げる。

 ワニが二週目を回り始めたころ土手から動く何かが飛び出て来た、それは緑色の蛹のような塊で道路に転がり出ると羽化するように内側から手足が伸びた。


「ありがとうございます、マジで死ぬところでした」


 迷彩柄のマントをその辺に脱ぎ捨て、ライカも戦闘に加わる。

 頭に近づかないように、尻尾に近づかないように常に側面へと走り続ける。


「はぁ、タフだねぇ」


 鰐は意外と旋回速度が速く、濡れた地面を常に全力疾走で走ることを余儀なくされた。


「一向に弱る気配がないのですが、何こいつマジキモイ」

「傷口は広げていっている、そのうち死ぬ」


「尻尾掠るだけでも大けが間違いなしですけどね」


 一向に弱まる気配がなく大鰐はそのままぐるりぐるりと回り続ける、突然一旦後ろ足で踏ん張って止まったかと思うと一気に加速しその尻尾で瓦礫を弾き飛ばした。

 壁の様な縦長の尻尾が倒壊した廃屋を抉り、土煙と共に大小さまざまな瓦礫を舞い上げる。


「ック」

「イテテテ」


 凶悪な後をたて散弾の様に飛び散る瓦礫に対し、濡れた地面に伏せて被弾面積を減らして攻撃を躱すトキハルとトウジ。

 頭の上を建物の屋根やブロック塀の一部が飛び越えていく。


 その二人を踏みつぶされないよう、または蹴られないように反対側からトガネとライカが気を引く。

 小型のエクエリでは小さな穴を複数個所開けるにとどまり致命傷を当てるには程遠いがわにを囲む4人は囮。

 レストランからの第三射、右側頭部に当たり骨がむき出しとなる。


「さすがに骨はむっちゃ硬いらしいね、トヨちゃんの攻撃でもまったく削れないよ。マジ怠い」

「脳が揺らせれば一時的に行動不能にできるのになー」


「自分が出来ないことは言うなし、トヨちゃんだって頑張ってるんだから」

「知ってる知ってる、ここまでしぶといのはあんまりいなかったから。やっぱ外は厳しいね」


 そういいながら二人はバッテリーを取り換える、そして生体兵器に攻撃の機会を与えないように攻撃を続けた。

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