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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
13章 最北の砦 ‐‐風を運び輝く太陽‐‐
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季節外れの花 1

 戦闘は会敵から一時間とかからず終了した。

 山岳地帯を抜けたところで生体兵器の姿が消え、追撃もなく戦闘していた山が見えなくなるまで警戒態勢を維持していたが、それからも生体兵器は出てこずマクウチシェルターの防壁が見えたところで戦闘終了の合図が出て一般兵たちは腰を下ろす。


 山を抜け道幅が広くなると盾に伸びていた車列は元の陣形へと戻る。

 戦闘が終わり点々と血の跡が残る荷台にへたり込むツルギ、振り返った山々の間から日の出が見えた。


「シェルターにつく前からこんな調子で、本当に大丈夫なのか……」


 ツルギは首を回しシェルターを見る。

 見えてきたシェルターの防壁にはいくつもの爪痕があり、塗装の落ち錆びた大扉は廃シェルターを思わせ安全地帯へと向かっているはずなのだが寒気がしてツルギは身を震わせた。


『じきにシェルターへと到着する。皆降車の用意を、荷物を置いていくなよ。おいていけばすべてゴミとして処分する。降車後はすぐに整列、点呼し犠牲者の確認を取る。疲れているからと言ってすぐに宿舎へと向かうことは許さない。点呼の際、その場にいなかったものはそれ相応の罰か車両整備の雑用として朝までこき使う、忘れるな。一日休息をとり次の指示に備えろ!』


 無線を聞きツルギは汚れた荷台を移動して自分の荷物のもとへと戻っていくと、その場に置きっぱなしの工具を拾い改めてツルギは荷台の端に座ると防壁の内側に入る時を待った。



 防壁までまだ距離があるとツルギは少し瞼を閉じていると、ふいに頭へ強い衝撃を受けそれに驚き目を開く。


 いつの間にかトラックは停車しマクウチシェルターの防壁の内側にいた。

 そしてトラックの荷台にはツルギ以外誰もおらず、トラックの外に立つ頭髪の薄い老齢の男性が顔中の皴を集めてツルギのことを睨みつけている。


「し、指揮官!!」

「お前、いつまで寝ている! もう点呼はとり終わたぞ、何だお前は? 整備兵? 整備兵であろうと先ほど言ったことは実行される。覚えているな、聞いていないとは言わせん! 言い訳もきかん!! このままトラックに乗り整備場まで移動し指示を仰げ!」


 老齢の指揮官は今しがたツルギを叩いたと思われるさやに納まった刀を脇にさし、トラックの荷台に上がってくると胸ぐらを掴み上げた。

 指揮官はしわだらけの老齢とは思えない怪力を見せ、荷物を抱えて座っていたツルギはそのままの状態から立たされた。


「返事!」

「は、はい!」


「聞こえん!!」

「はい、わかりました!!」


 怒鳴られツルギは大声で返事すると荷物を抱えて慌ててトラックの助手席へと走っていく。


 無傷なものも多かったが集中して狙われてダメージを受けたものは運転席の天井がなかったり車輪がいくつか脱輪したりしていた。

 指揮官が荷台から降りると指示を出し、傷ついたトラックや装甲車が整備場めざし一斉移動を開始する。


 その場に残ったのは数両の輸送車と宿舎へと向かうよそからの一般兵と入れ替わりでやってきたマクウチシェルターに住む一般兵たち。

 老齢の指揮官は輸送車の近くにいた運転手に話しかける。


「おい。輸送車、数が足りないようだがどうなっている!」

「先ほどの戦闘で後続を走っていた二両の輸送車が襲われ、破壊されました」


「場所はすぐに取りに行けるところか?」

「そばにいた車両に乗っていた者の証言では山を抜ける手前だったと」


 指揮官は腕を組み少し考えた。

 入れ替わりでやってきた一般兵たちは輸送車から荷物を下ろし、民間人用の小型トラックやバンに載せ替えていく。

 荷物は王都の紋章である赤と青のガラス玉の入った川の絵が描かれた箱。


「時間が取れ次第手の空いている精鋭に行かせる。このシェルターの資材回収班の一般兵を集めろ、ともに行かせる」

「了解しました。事情を伝えておきます」


 それを伝えると指揮官たちもその場から離れていく。



 昼過ぎになってからようやく解放されたツルギは自分の工具を抱え、ふらふらと宿舎へと向かっていた。

 整備場からも見えた真新しい宿舎。


 ――やっと終わった。早く帰って寝よう。


 半日かけてトラックに乗ってシェルターから移動し昼まで働かされたツルギは目を閉じれば立ったままでも眠れそうなほど限界を迎えていた。

 宿舎までの距離は遠く見えているからと言ってすぐにたどり着ける場所にはないため、整備場を出たところにあったバス停でベンチに座ってバスが来るのを待つ。


 整備場から聞こえてくる音や蝉の鳴き声が聞こえ、普通なら耳を塞いでも眠れない状態だったが限界を迎えたツルギには気にもならない。


 ――少しだけ眠ろう、バスが来るまで時間あるみたいだし。来たら起きるはず。


 そう思いツルギは重たい瞼を閉じる。

 少しの間だけ眠りについた。


「ねぇ、ねぇ君。大丈夫?」

「え? あ、なんですか?」


 目を開けると眠そうな目をした女性が心配そうにツルギの顔を覗き込んでいる。

 知らない女性に声を掛けられ少し驚くツルギは荷物を落として立ち上がった。


「いや、私たちが来るときからここにいたから。二時間? そんぐらいここにいるよ、大丈夫?」

「え」


 あわててポケットに入れていた懐中時計を見ればすでに夕暮れ。


「熱いから、脱水症状で危険な状態かと思った。ダイジョブそうだね。いちおそこの自販機で飲み物でも買って飲んだ方がいいよ。じゃあね」

「あ、はい」


 女性はツルギが無事だとわかるとバスへと乗り込み仲間と思われる男性のもとへと向かっていった。

 少し驚いたが無開く先のバスが来ていることに気が付きツルギは急いでバスに乗ろうとしたが、落とした荷物を持った視点で戸が閉まりバスは行ってしまった。


「まってー」


 走り出すバスを追いかけたが距離はどんどん離れていき止まってくれなかった。

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