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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
13章 最北の砦 ‐‐風を運び輝く太陽‐‐
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夜を駆ける 1

 身を焼くような灼熱の季節。

 夜間とは言え蒸すような熱気が彼らを包んでいた。


 先頭を走る戦車数台に続く形で装甲車と輸送車、トラック、軽装甲車たちが起伏の激しい山岳地帯の間を50両近い武装した車両がまとまって大きな菱形の陣形を組んで走っている。

 左右の山には太い木々が生い茂りライトで照らしても木々の奥を見ることはできない状態。


『もうじき生体兵器の縄張りに突入する。戦闘は回避できないものだと思え』


 見通しをよくするため幌の外されたトラックに乗せられた一般兵たちに向けて無線が入る。

 荷台の積み荷は人と物が半分づつ、積み荷は守られている輸送車のほうへと寄せられていて一般兵は暗い山のほうに集められていた。


『この山岳地帯を抜ければマクウチシェルターに到着する。到着予定時刻は夜明け前、日が昇るころにはマクウチシェルターの内側だ、それまで耐えろ、いいな! 話は以上だ、総員生体兵器を見つけ次第始末せよ!』


 無線が切られると荷台の淵に寄りかかっていた一般兵たちはエクエリを構えてトラックの荷台の外へとむけ暗闇に目を凝らす。

 指揮官からの言葉が車両に乗っている全員の無線に発せられ、一般兵たちの緊張度が増す。

 トラックの隅にいた長い髪を結った赤毛の少年は、一層ピリッとした空気に持っていた工具の入ったケースを強く握りしめる。


 整備兵の少年キリギリ・ツルギは、非戦闘員の乗る装甲車に空きがなくやむなくトラックの荷台に詰められていた。

 戦闘兵ではなくエクエリを持たないツルギは無線を聞いて戦闘兵の邪魔にならないように隅で小さく縮こまることしかできない。


「皆、武装の確認を。エクエリの電源が入っていないなんてことはないように! まさかとは思うが寝ている者はいないよな!」


 ツルギと同じトラックに乗っていた部隊長が揺れる車内で手すりに摑まって立ち上がり荷台にいる部下たちを見回す。

 生体兵器との戦闘があるかもしれないため眠ることもできない荷台いっぱいに乗った一般兵たちは座ったまま部隊長を見上げている。

 途中給油や積み荷の受け取りでシェルターや前線基地に立ち寄るもほとんど休む暇なく一日中、夜になるまで車両に乗せられていた一般兵たちはすでにかなり疲弊していた。


「今日は戦闘はないんじゃなかったのかよ……」


 ツルギの近くで警戒中の一般兵の誰かが小声で不満を漏らす。

 その小さな声は車両の揺れる音と風の音でかき消され周りの数人程度しか聞き取れず、見張っている部隊長までは聞こえていない。


「もう昨日だぜ、日付はとっくに変わってるよ」

「くそっ」

「精鋭たちが生体兵器を駆除した安全なルートあるんだろ?」


 誰かの不満にまた別の誰かがつぶやく。


「迂回してほかのシェルターから出発している時間はないんだとよ、しかもこのままいくと特定危険種の縄張りなんだとさ」

「精鋭は何やってんだ、特定危険種を倒すのが仕事じゃないのかよ」


 盗み聞きをする気は無いものの、すぐ近くで話すボソボソ声を聴いてしまうツルギ。

 生体兵器の縄張りに入る連絡があってしばらく、車両同士が間隔を広げて走り出し道を照らしていたすべての車両のヘットライトが消える。

 50両近い車両を照らすのは雲一つない夜空に浮かぶ満天の星と月灯りのみ。


「暗いな、どうやってこんなところで生体兵器を見つけろってんだ」

「見えるのは15、20メートル先くらいか? あとは黒い影にしか見えん」


 灯りが消えざわつく一般兵たち、彼らの装備がトラックの荷台にぶつかるカチャカチャという音が響く。

 瓦礫や廃屋、岩や木々などで道幅が狭まり車両は陣形を崩して縦長に伸び、ツルギの乗るトラックは5列ある中の一番右端に配置される。


「陣形が崩れたぞ、どうすんだよ護衛対象は!」

「それでも5列になっただけ、物は真ん中の列に並んでるだろ!」

「なんで装甲車じゃなくて俺らが端っこなんだ!?」

「装甲車のエクエリは天井に付いてる。俺らは荷台だ、この陣形高低差で階段状になるんだよ。荷物のほうが大事で俺らを守る気なんかねぇ」


 飛び交う言葉、前方を入っていたトラックから光の弾が飛んでいくのが見えた。

 それは周囲に伝播し無数の光の弾が夜闇を照らす。

 光の弾の先には山の木々から飛び出てきた20匹くらいの黒い大きな影。


「敵襲! 森から出てきたぞ!」


 攻撃から数秒遅れて報告が入った。

 エクエリの銃撃は静かなもので攻撃に集中し戦闘兵が喋らなくなると、声は他の車両から聞こえてくる。


「輸送車に近寄らせるな! 積み荷はお前たちの命以上に大切なものだ!」


 輸送車を守る以前に自分の命を守るため必死に車列へ近づけないように生体兵器に狙いをつけて引き金を引く。

 戦車砲のエクエリ、装甲車上の大型のエクエリの砲弾も交じり生体兵器は少しではあるが数が減る。

 エクエリの脅威を認識し生体兵器たちは距離を取りつつ並走し、倒しても次々に森から生体兵器は出てきて無数の光の弾の餌食になった。


「バッテリーの数にも限りがあるんだ無駄にエネルギーを消費するな、狙って撃て!」


 縦長に並んだ車列から放たれる光の弾が多すぎターゲットである生体兵器が見えなくなる。

 それでもエクエリの弾は生体兵器がいるであろう場所めがけ飛んでいく。


「囲まれているぞ、逃げ切れんのか!?」「黙って撃て、戦いに集中しろ!」


 ツルギが邪魔にならないように座っている位置を変えて周囲を見ると、車両の間から車列の反対側でも光の弾が飛び交っているのが見えた。


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