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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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過去の夢を見る 3

 激しい痛みの中、強く握る二つのバッチ。

 薄れる意識の中でユユキは過去のことを思い出す。



 歳が二桁になったばかりの何年も前なのにはっきりと思い出せる土とゴミの匂い、居場所のないものが集められる掃き溜めの貧民街でユユキは彼女と出会う。

 正確には廃車置き場で彼女の連れた護衛に追いかけられて逃げ切れず捕まり、乱暴に髪を掴まれたまま引き合わされる。


 貧民街の他のものはかかわるまいと逃げるか、何かしらの恵みを得られないかと遠巻きにユユキたちの様子を見ている。

 一目見ればくぎづけになる艶やかな髪と整った顔立ちで美しく、纏う衣服も一級品で彼女の美しさを引き立てていて、それは視力が悪くても十分にわかる距離まで顔を近づけられて顔が強張らせた。

 初めて嗅ぐ気分が和らぐ香水の香りに思わず大きく息を吸ってしまう。


「すごくきれいな青い瞳ね、気に入ったわ。あなた、私のもとへ来なさい。私の名前はツタウルシ・カガリ。私のもとへ来れば少しだけやらねばならないことがあるけど、体を洗っておいしいものを食べて綺麗な服を着て良い布団で寝ることができるわ。どう?」

「はい……」


 屈強な男に取り押さえられ身動きできないままユユキは選択肢のない返事を返した。



 それから半年、耐えがたい再教育が終わりカガリに連れられユユキは久方ぶりに空の下に出た。

 日の眩しさに思わず手をかざして日光を遮る。


「眼鏡は今度作ってもらいに行きましょう。先天的な病気にはあの薬も効果がないのね。一時的な回復はあるようだけど完治にはならない、いいデータが取れたわ。あなたの目は直らない。それでもある程度回復するみたいだから渡しておくから自分で注射を打って定期的に治療してくださいな」

「わかりました……」


「さぁ、車へ。これからあなたとともに行動する人物を探しに行くわ。私の管轄する優秀な人材を育てている孤児院があるから、そこに何人か調達に。この間まであなたの受けた再教育を受けた子たちの暮らすところだから話は合うはずよ。そこでユユキには専門の勉強をしてもらうわ」

「はい……」


「私のために人並み以上に頑張ってくれるのであれば、精鋭にしてこの王都から出て好きに行動してもいい権利も与えるわ。何なら気に入った人間を囲う大きな家も用意してあげる。ここは王都、どこにあろうとお金さえあれば人も物も取り寄せて買えるし、命を奪ってもお金で解決できる。狂っているシェルターよ」

「はい……覚えておきます」


 カガリの後についていく建物の前に止まっていた高級車の中へと入りゆったりとした広い車内、芸術品のような刺繍の入ったふかふかの座席に座らされる。

 行き先を運転手に告げカガリは沈み込むほど柔らかい座席に落ち着きのないユユキの髪を見て話しかけた。


「思った以上に白くなったわね。しばらくすればまた黒髪に戻るけど、それまで髪染めないといけいないわね。伸びた髪も切らないと、綺麗な目が隠れちゃう」

「そうですね、みすぼらしくなってしまいました」


 体を癒す薬品は体に激痛をおこしカガリはそれを使って人に痛みを与える。

 そのストレスにユユキの頭髪はまばらに白くなっていた。


「ユユキ、何か私にしてほしいことがあれば言いなさい。人でも物でも集められるものなら集めるし、中層くらいの市民ならあなたに嫌な思いをさせた相手を草の根分けてでも見つけ出し報復することもできる。今日からあなたも高層の市民、お金と権力で人の人生を簡単に狂わせられる力を得たの……まぁその辺も、おいおい勉強させるわね」

「はい、お願いします……」


 高級車は貧民街のそばを通る。

 下層市民より下とされるものたちの住む、下層市民の住宅地より数メートルの段差でくぼみ隔離された町。

 彼らは階級制度の意味を持つカーストと呼ばれ下層市民より劣悪なその日暮らしていくことすら満足にできない者たち。

 元は下層よりひどい暮らしから最低の意のワーストと呼ばれていたが、長い時間をかけいつの間にか呼び名は変わった。

 カーストは段差を上ることは許されず、もし上っているのが見つかれば法などない容赦のない暴力が待っている。

 雨が降れば住宅地から水は流れこみ数センチの水深を持つ大きな水たまりとなる町。


「……変わらない町」


 カーストに落ちれば悲惨な人生が待っている、貧富の差を目に見える形で意図的に用意された王都に住む者たちを見てそこには落ちたくないと、やる気と向上心を引き出すために必要な、見える絶望。

 ユユキにとってあまりいい思い出のない街並みを眺めていると視界の端に喧嘩をしている人影が見えた。

 その姿を見てユユキは目を見開く、その姿に見覚えがあった。


「カガリ様止めてください」

「え? あ、運転手さん車を一度止めてもらっていいですか!」


 ユユキの小さな声を聴いたカガリが車を止めさせる。


「どうしたの?」

「あの、お願いしてもいいですか?」


「ええ、何でもいいわ。なんでも叶えてあげる、けどどうしたの?」

「助けてほしいんです」


 喧嘩は住宅街へと無断で入り窃盗を働いた二人のカーストを一般兵が6人がかりで警棒で袋叩きにしている。

 下層市民でも着ないようなズタボロの布切れを縫った継ぎはぎ衣服をまとっているのはカーストしかいない。


「あの警備兵を止めればいいのね?」

「はい……」


 高級車を降りつややかな髪を揺らして歩いていくカガリにユユキは後を追うようについていく。


「失礼」


 カガリがカーストに暴力を振るっている一般兵に声をかける。


「なんだ? おっ」


 一人の頭を足で踏み地面に押し付けていた一般兵が振り返ってカガリを見た。

 カガリが柔らかな笑みを浮かべ微笑むと彼はカーストから足を放し鼻の下を伸ばしカガリに魅了され動きが止まる。

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