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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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油断、3

 トウジ、トキハル、トヨの隠れるレストランを出ると濡れた地面を蹴り全速力で走るライカ。

 土手手前の道路のわきで一時停止、周囲を確認。


 廃墟なので当然車は来ないし見た所本命の生体兵器の姿も見えない。

 雨脚がさらに強くなるが無線の音は問題なく聞こえる、それ以外は雨にかき消され何も聞こえずライカは一度呼吸を整える。


 ライカは建物の角で生体兵器と鉢合わせなかったことから安堵から息を吐き、気を入れなおすため大きく息を吸う。

 そして、足音を雨に消されながら道路を渡りきると土手に倒れ込む。

膝下くらいまで伸びる雨でぬれた葉が顔に当たるがすぐにかき分ける。


 倒れた時に取れてしまった迷彩柄のマントのフードを深くかぶりなおし、雨音でほとんどかき消されるが草を踏む音に注意しながら土手を登った。


 この迷彩マントは遮熱性があり表に熱が逃げにくい、そのため頑張れば熱感知できる生体兵器をやり過ごすこともできた。

 その場合ものすごくマントの中が蒸すことになるのだが。



 蒼薔薇隊で一番身軽なのはライカで蒼薔薇隊に入った時期は一番遅い。


 蒼薔薇隊への編入当初、ライカは精鋭の中でも特に名の知れた成績がいいチームに入れたことを同期に自慢していた。

しかしその隊は通常の生体兵器より危険な特定危険種などと闘う機会が多く彼女は一般兵から精鋭に上がりたてた当初、特定危険種のその猛威、脅威、暴威に竦みあがって何もできなかった。


 それから時間が経ち、隊と行動を共にすることで特定危険種に慣れたのか怖いという感覚が壊れたのか、ライカはいまは攪乱、不意打ち、斥候、陽動、偵察、囮、生体兵器のいそうな場所に真っ先に突っ込む一番槍を引き受ける係となっていた。


 現在のライカの仕事は偵察。

 この土手を登って見て帰るだけ。


見たものを報告し指示があればそれに従う、なければワニ型生体兵器を誘導しレストランの駐車場へと案内す。

 後はトガネ、トウジ、トキハルが引き継いでくれて戦闘開始。


 鱗が硬いとわかっているが小型のエクエリで目や首、腹などを攻撃し、それでも効き目がなければ、トヨの大型のエクエリが吹き飛ばす。


 その間彼女は一度身を隠し呼吸を整え、駐車場の生体兵器をしとめ次第、次のワニを探しに行く。

 この繰り返しで地道に安全に最小限の疲労と苦労ですべて倒す、そういう作戦だ。


 相手は人を殺すための兵器だが普段は元の生き物とさほど変化はない。

兵器としての調教を受けていないからだ。


 土手を登りきる、土手の上は背の高い草が邪魔でほとんど先が見えない。


『そこから何か見えるか』


 ヘットセットから聞こえてくる隊長であるトキハルの声。

待機中や移動中と違ってさすがに誰も雑談はしていない、ライカの行動を一挙一動を見守っている。

 毎回、この偵察の時だけライカの独壇場、自分が隊の命運を握っている、そう考えている彼女はこの役割を誇っていた。


 草の間からうっすらと土手の向こうが見えたが肝心な部分は手の届かない距離にある草が邪魔をして視界をふさぐ。

少し頭を上げれば済む話だが土手上は散歩道か何かになっていたらしく、今いる位置では角度的に手前が死角になっていた。


「ダメです、草が邪魔。もう少し先に進まないと見えないです」

『それ以上進むとここから確認できなくなる、注意しろ』


 ライカは起き上がって走ったほうが早いがどうするか悩んだ、援護の無い場所で見つかると逃げ切るのは難しいかもしれない、居るかどうかわからない相手との距離がわからない以上、このまま匍匐前進の方がいいのかもしれない。

すこし考え、出した結論はこのまま匍匐前進でもう少し進むことにした。


 気が付けば地面と接している部分から雨水が入り込み彼女の制服は普段より重みを増していた。

 ライカは耳を澄ませ川の方にいるであろう生体兵器の鳴き声や足音を探したが、雨音でよくわからない。


 元々この場所は散歩コースか何かだったのだろう、土手の真ん中あたりに多少砂利石があって匍匐前進のまま音をたてずに進むのが困難だった。

雨で音がかき消されているとはいえ、砂利の音はさすがに聴覚が発達していればバレる。


 生体兵器はちゃんとした資料が少なくどんな生き物が混ぜられているかわからない、音、臭い、色、動きどれに特化していてどれが退化しているのか見た目だけではわからないものがある、すべてに神経を使わないと生き残れない。


 帰りは砂利を全力ダッシュで飛び越えようと自分のジャンプで飛び越えられるかを考えるライカ、動いている所を見られるのはまずいが大きな音を立てると非常にまずい。


 砂利道を越えるとようやく緑色に濁る川が見えた。


 まだ雨の影響で川が増水した形跡はあまり見られず、見える景色は奥も手前も緑。

 曇った空でも一応水面はキラキラ光を反射しているが、川原も川も緑色でどこからが川だか境界はわからない。


 とりあえず目に見える景色を報告しないとと、彼女は雨音に意識を散らされながらもヘットセットに手をかざした。


「川見えました水は私の髪より明るい緑、中腹でくの字に折れた橋のある上流から手前に、錆びた車、キモい生体兵器の死骸がいくつか、とりまあとは流木。対岸、背の高い木、おそらく襲われた資材回収班の物と思われる壊れた輸送車が2台川の中に引きずりこまれてます、あと……草の倒された獣道が数本土手の上に伸びてます。ん、動いた……あ、ターゲット確認、数は2、大きさは……2匹とも10メートルくらいでしょうか輸送車より少し小さめ」


 ライカは報告を終えて指示を待つ、ワニの数は1匹ではなかったがあの程度の大きさ、二匹とも引き連れて帰っても副隊長が一匹仕留めてもう一匹を隊全員でかかれば何とかなりそうな相手だ。


『シジマ、絶対に今動くなよ』

『息を殺して、気配を消して』

『できるだけ姿勢を低く』

『ライカちゃん。戦おうとは考えない方がいい』

「へ?」


 指示を仰ごうとして雨音の中、耳を研ぎ澄ましていたヘットセットから聞こえるほぼ同じタイミングで重なる声を聴き分けると、ライカは疑問符を浮かべた。

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