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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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前線基地、1

 ツバメの言っていたとおりに、その日の午後丘を越えると目的地が見えてきた。

 草原の中にぽっかりとあけられた、草が生えない人口の地面を見てイグサが指をさして喜ぶ。


 周囲より少し高めの大きな丘の上に作れたその施設は、民間人が暮らすシェルターに生体兵器が近づかないように食い止め排除する前線基地。


 何台もの車が通った無数の轍が人口の空間から茶色の触手のように草を潰し道を四方に伸ばしている。

 前線基地を見つけた朝顔隊はその道に沿って歩いて基地の前に到着。


 何重にも建てられたコンクリートの壁、フェンス、バリケードに守られた基地はあちこちから工事の音が鳴り響いていた。

 基地のそばまで近づくと複数の周囲の警戒をしていた兵士達が集まってきてコリュウたちは身分を確認される。


 ツバメが制服につけられている精鋭の証となるバッチを見せると、兵士たちは一同に敬礼し大きな門が開き中へ誘導させられた。

 外側だけでなく壁の内側にも生体兵器に備えてか、有刺鉄線と金網が張り巡らせてあり電流注意と張り紙がついている。


「ツバメ、前線基地だけあって厳重だね」

「いやいや、こんなもん生体兵器からすれば、ちょっとびりっとする障子みたいなもんだよ。少し大きな生体兵器に襲われたらこんなもん何の役にも立たないから」


「そうなの?」

「うん、そう」


 始めてきた前線基地の設備を興味深げにあたりを見回しているイグサをよそに、ツバメは興味なさそうにそれを鼻で笑いながらまっすぐ進む。

 敷地内はいまだ建設中の建物が多く、あちこちに建設用の角材や鉄パイプなどの資材が置かれている。


 ツバメは基地に入って少し歩いたところで思い出したかのように後ろを振り返った。

 そして荷物を持たされ歩いてくるコリュウに向かって手を振る。

 それを見てイグサも入り口のほうを振り返った。


「お、来た来た。ほらほら、もう少しでゴールだ。コリュウがんばれ」

「コリュウ遅い、早くー」


 二人の声援を受けてコリュウは最後の力を振り絞って走り出す。



 三人分の荷物を抱え基地にたどり着いたコリュウは二人と合流する。


「着いたー、コリュウ荷物運びおつかれー」

「遅い」


 ツバメがねぎらい背中をたたき、イグサが拾った小石をコリュウに投げた。


「いや、二人の歩く速度が速いんだって。こっちは自分の荷物とイグサの分の荷物と隊長の分を持って、それにイグサのエクエリまで担いでるんだぞ」

「だからお疲れって言ってんじゃん」

「コリュウ、口答え五月蠅い」


 そういうとイグサはまたコリュウに小石を投げた。

 石はコリュウに届く前に落ちる。


「いやー、助かるよコリュウ。んじゃ、この先に兵舎があるそこで休んでいてくれ。私は到着の報告と責任者さん達に挨拶してこないといけないから、ここで一旦お別れだ。それで……悪いが私の荷物も兵舎に運んでおいてくれ」


 悲痛な表情を浮かべるコリュウを見てちょっと気の毒そうな顔をしたが、ツバメはそういうと踵を返しさっさと行ってしまう。


「うわぁ、まだ持つのか……。せめてイグサ、自分の分はそろそろ自分で持ってほしいのだけれど……」


 汗をかき疲れ顔のコリュウを涼しい顔で見るイグサ。


「コリュウ、自分で持ってくれるって言ったじゃん。責任もって最後までよろしく」

「おいおい」


 その後、イグサは自分の分のエクエリだけ自分で持つといってくれた多少のやさしさで、彼の荷物運びは比較的楽になった。


 基地内を巡回していた兵隊に休める場所を尋ねたら、基地の中央にある盛土の丘の近くに精鋭や士官などが一時的に宿泊する兵舎があるということでそこへ向かう。


 精鋭は生体兵器と戦ううえでとても戦力になり、一隊で一般の兵士何十人分もの働きをするため。

 そのため彼らはシェルターや前線基地でもとても待遇よく迎えられる。

 コリュウが兵舎に向かう途中周囲を何度となく見回すが基地内はどこも工事中だった。


 基地は現在急ピッチでの建造中。

 生体兵器が資材運搬中に襲撃されたりして何度か工事が止まっているらしく、こうして早朝から日没まで作業が続いているらしい。


「ガンガンガンガンって、耳痛くなってきた。うるさーい」


 工事の音でかき消されながらもイグサが叫んだ。

 その声は誰にも届かず誰からも返事は帰ってこない。


「荷物置いたら耳栓ないか聞いてくるよ」

「うん」 


 重たい荷物を持ちやっとのことで着いた宿泊する兵舎ですら、建設途中のようで大きな重機が資材を運んでいた。

 兵舎の上に取り付けられたその大きなクレーンが資材を兵舎の上へと運んでいる。


 そのクレーンを珍しそうに、辛うじて電力がある程度の小さなシェルター育ちの彼ら二人は、興味深げに目で追っていた。


「でっかいねぇ」

「ああ」


 大人より太い金属の柱に細い鉄骨がジグザグについているクレーンは太いワイヤーでトラックの荷台に乗せられ運び込まれた資材の積まれたコンテナをゆっくり引き上げる。

 コリュウたちはそれを口をポカンと開けみていた。


「ねぇ、コリュウ。この兵舎には屋根付いているのかな?」

「さすがに天井はあるだろ……廊下とか柱とかは壁紙がなくて、全部むき出しかもしれないけど」


「でもほら、あんなに運んで行ってるよ、絶対作りかけじゃん」

「最悪、ふちだけあって窓ガラスがないかもな」


 彼らの不安をよそに朝顔隊の止まる兵舎自体は完成していた。

 今は雨の日でも行動しやすいよう隣の兵舎と兵舎をつなぐ渡り廊下を作っているらしい。


 その渡り廊下は今は骨組みだけだったがコリュウもイグサもそれを使わないので関係ないが。


 兵舎はA棟とB棟の二つがあり同じ建物が平行に建てられている、B棟は昨日で来たらしく誰もいないということで、そちらを選び朝顔隊の貸し切り状態になった。 


 電気も水道も普通に通っており使えたため、工事の音さえ何とかなれば特に休むのに支障はない。


「角の部屋だっけ」

「さぁ」


 兵舎に入り入口入ってすぐのラウンジの机に、無造作に置かれていた鍵からイグサが適当なのを選び持ってきた。


 各階の壁に掛けられていた見取り図で、鍵の番号と部屋の番号を確認するとイグサはすたすたと歩き始めた、荷物もちのコリュウは一歩一歩地面を踏みしめその後を追う。


「必要なものしかなくて殺風景、なんか面白みがないね」

「ぬいぐるみとか置かれてても困るけどな」


「確かに怖いね、誰のかわからない物が置いてあるのは、じゃあやっぱりこんなもんなのか」

「イグサが言いたいのは、花瓶やよくわからない絵とか飾ってある程度のこと言ってるんだろ?」


「そうかも?」

「なぜ疑問形?」


 兵舎の中は特にみるものがないので寄り道などせず、真っすぐ二人は宿泊する部屋を目指す。

 やはり朝顔隊以外は渡り廊下の向こうの兵舎を使っているらしく、B棟のどの部屋からも物音は聞こえない。


 先に部屋の前につき鍵を開け部屋の中へ消えていったイグサを追ってコリュウも部屋に入る。

 部屋の構造は、玄関とキッチンらしき場所、トイレ、その横に一枚壁があり洗濯機の置いてある洗面台と風呂。


 奥が机椅子の置いてあるリビング。

 そしてその奥に縦長い部屋、外から見た感じベランダはなかったためその奥には窓があった。

 角部屋のため各部屋の横に何枚も光を取り入れる窓がある。


「おー、きれいな部屋だ、外の作りかけが嘘みたい。窓から見える景色は作りかけだけど」


 外の景色は見たくないとリビングのカーテンを閉め、大型のエクエリを壁に立てかけるとイグサは洗面所へと戻っていく。

 しばらくして水の流れる音とうがいする声が聞こえた。


 コリュウはり便に着くと三人分の荷物を机に置いた、それと同時に彼はようやく肩にかかった大きな負荷から解放される。


「おわったー、あー重かったぁ。何やかんや隊長の荷物が一番重いぞ」


 洗面所から持ってきたタオルで手を拭きながらイグサがコリュウの横を通り過ぎていく。


「ふーん、ツバメは隊長だからねぇ、私たちよりいろいろ荷物が多いんでしょ。勝手に開けたらさすがに怒られそうだから、興味はあるけどカバンの中を検めはしないよ」


 肩を回し体をのけ反らして固まった筋肉をほぐすコリュウを尻目に、イグサはさらに奥の部屋の扉を開ける。


「おお、ベットだ! 寝れるぜ、やっほい。ここんところシェルターによってもその日のうちに移動そのまま車中泊だったからこれで足が延ばせる」


「そのシェルターにいる間に部屋を借りて寝ておかないのが悪い気がするけど」

「シェルターにいるのに買い物に行かないなんてありえない」


 急に奥の部屋から聞こえてくるイグサの声のテンションがおかしくなり、少し心配したコリュウは彼女の方へと向かう。


 リビングの奥は寝室となってきて、鉄パイプでできた簡易的な二段ベットが部屋の両端に置いてある。

 その片方でイグサがうつぶせに寝転がり大の字でベットの感触を確かめていた。


「このベット、思ってたより全然フカフカじゃないや。まぁいいや、お休みコリュウ、私は疲れたよ」


 一度起き上がるとイグサは強化繊維で出来た制服の上着を床に脱ぎ捨て、二段ベットの下の階にもう一度寝転んだ。


「おいおい、イグサそんな服で寝たら布団が汚れるぞ、洗面所で着替えって……もう寝てるのか……早いな」


 ほとんど睡眠のとれなかったイグサの寝顔を確認して、四肢を投げ出し大の字で寝ているそんな彼女に風邪をひかないようにコリュウは布団をかけた。


 そして今しがた自分の言ったことも都合よく忘れて、コリュウも制服のまま布団の上に横になる。


 先ほどイグサが言っていたとおり思ったほどフカフカではないベットであったが、昨日までは冷たく硬い地面で寝ていたコリュウにはちゃんとした寝具はそれだけで体を休めるには十分。


 久々にちゃんとした寝具で寝られるのか、そう上の段のベットを見上げながら思っていると次第に瞼が重くなり、それからコリュウが眠るまで時間はかからなかった。

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