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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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地上、ドームの外へ 2

 

 サンドスピーカーの毒牙の後が鬣の生えた首近くの鱗に刻まれており、フォッシビバンとの戦いで背中に鱗の剥がれた大きな傷が増えていて尻尾の棘も何本か折れている。

 複数の生体兵器と戦いながらそれでも第七世代はほとんど無傷の状態でいた。


 特別体を覆う鱗が硬いわけでもなく、またとんでもない回復能力を持っているわけでもないが垂直な壁を登れるような強力で太く長い手足を使って攻撃を避けたり防御していたりした。

 チヤから大型のエクエリのスリングをはずしマホロは自分にかける。

 そしてブレイクタイラントの溶解液まみれになった上着を脱がせて起き上がらないチヤを抱き寄せる。


「チヤ大丈夫? 顔にかかったりは?」

「してない、ユユキに言われてそれだけは避けた。でも痛い、肩痛めた、兄貴エクエリを! もう私は持てないから」


 チヤに言われ彼女を抱えたままマホロが大型のエクエリを持つ。

 視界内に二匹の生体兵器。


 今はマホロたちには目もくれず怪物同士でお互い睨み合っている状態で立ち尽くしているが、二匹ともマホロの目と鼻の先にいてすでにどちらの生体兵器の攻撃範囲内、エクエリをどちらかに向けてしまえばもう片方はフリーになってしまう。

 どちらかといえば第七世代はユユキたちに近い。

 マホロはチヤを抱えたまま後ろに下がり第七世代に銃口を向けた。


「ユユキさん逃げて」

「どこへ! どこへ逃げてもこの距離じゃここで立っているのと変わりない」


 棘の折れた尻尾でバランスを取りながら二本の脚で立ち上がりフォッシビバンの死骸を押しのけブレイクタイラントのほうへと向かっていく第七世代。

 両腕を振るってくる第七世代の攻撃をよけブレイクタイラントのは暗い通路のほうへと引いていく。

 通路の暗がりへと消えていったところでマホロはチヤを抱えユユキのもとへと向かった。


「ユユキさん無事?」

「私はな、だがこっちはフォッシビバンの脚を直撃して。額を切った、深くはないが本人は血を見て気を失った。彼女が起きないとここから移動できない」


 気を失ったナユタの額の傷を手当てし彼女の頬を両手で乱暴にたたくユユキ。


「負傷者二人か、ここから梯子なんだろきっついな」

「兄貴、私登れるよ、痛むけど痛がってられる状態じゃないし。それより大丈夫、兄貴はエクエリ持って登れるの? エクエリに加えて制服、水吸って重いでしょ」


 暗がりで影だけが動いているのが見える二匹の生体兵器。

 二匹が戻ってくる様子がないのを確認し、エクエリの銃口を下ろしマホロはドームを見回し梯子をさがす。


「逃げるべきか、追って倒しに行くべきか?」

「どうだろう、ここにいれば残りの生体兵器も上がってきて終わりがないかもしれない。ここは上に登ってしまうべき?」


 マホロが梯子を探しているとユユキのビンタで女性が目を覚ました。

 頬を押さえ立ち上がる女性、チヤもマホロから離れ自分の足で立つ。


「大丈夫よね? マホロ、登りましょ」


 そしてユユキの返事を聞いて4人は梯子のほうへと歩いていく。


「高い、途中で落ちたら洒落にならんよね」

「いつの間にかまたスプリンクラーの水止まってたみたいね」


 肩を押さえ歩くチヤと上を見上げるユユキ。


「壁を伝って流れてきていたから止まっても気が付かなかった」

「光できらきら光ってて綺麗ですね」

「そうね、生体兵器が作ったって思わなければすごくきれいなものよね」


 ユユキの言葉に上を見上げるマホロと額を気にするユユキの部下。

 梯子はマホロが壊した闘技場内の電球の交換や壁に埋め込まれた監視カメラなどの掃除を行いやすくするため足場となる突起が出ている。

 観客席までの縦穴を巣へと変えたフォッシビバンの張った糸に水滴がくっついていて上からの光に当てられシャンデリアのように煌めいていた。


「それじゃぁ上っていきます? 誰が先行きますか、最後の人は追ってきた生体兵器に襲われるかもですから私は嫌ですよ?」


 ユユキの部下がきっぱりと言い切る。


「兄貴でしょ、エクエリ持って先に行く。私は肩痛めたから最後でいい、私のせいで体力無いユユキが梯子から落ちたら嫌だし」

「落ちない。チヤの中で私はどんだけ弱いのよ」


「さぁ、じゃあ順に上って行って。早くしないと私が死ぬ」


 マホロが大型のエクエリを背負って梯子を上って行く。

 後に続いてユユキが梯子に手をかけるがその時胸ポケットで携帯端末が振動する。

 濡れた手を制服で拭き携帯端末を取り耳に当てた。


「連絡! 上からの報告よ! もしもし!」

『あ、つながった! 生きていたんですね、よかった!! ユユキ様、ようやくサーバールームへと入りサーバーをコードをすべて抜いて停止させ暴走を止めました。現在手動で扉の開閉プログラムを書き換えております、十……二十分以内にすべての扉が開くようにしておきます』


「わかった、私たちも今ドームの梯子を上っている最中よ。扉が開けられ次第、また連絡頂戴」

『わかりました』


 端末を切り携帯端末をしまうとチヤが尋ねる。


「直るって?」

「ああ、私たちがこの梯子を上り切るころには上の階には助けに来た一般兵が囲んでいるはず」


「終わるね、やっと出られる。早く着替えたい」

「やっと、終わったらシャワーを浴びる」


 ユユキは希望をもって梯子を上り始めた。


「さて、ユユキのお尻でも眺めながら上を目指すかな」


 そのあとを炒めた肩を気にしながらチヤが続く。


 生体兵器に追われることなく順調に梯子を上る4人。

 途中フォッシビバンの張った糸があったが粘着性の糸は穴の中央に集まっていたため戦闘を進んでいたマホロが糸で絡まることはない。


「この繭一つ一つが人なのか」

「おそらくは、下で仕留めたのをここまで運んできたのかも。今まで一般兵と出会わなかったのは食われたかもしれないと思っていたが、肉片の一つもないのはおかしいと思っていたんだ」


 縦穴のちょうど中腹あたりに太い鉄骨の組まれた格子が見えた。

 人一人が何とかすり抜けられるほどの狭さだったが、マホロが大型のエクエリの銃身をを梯子に引っかけたこと以外誰も詰まることなく格子の上に上がり下を振り返る。


「この格子で少し休憩を取ろう」


 マホロの提案に皆賛成し手を滑らせれば助からない高さにある太い鉄骨の上に乗って休む。


「腕がしびれた。思ってた以上に遠い」


 先に上がって手を伸ばしたマホロに引き上げられ、登る前は強がっていたユユキも鉄骨に座り梯子を掴みっぱなしだった腕を休めた。


「フォッシビバンはここを超えられなかったからあの場に巣を作ったのか」

「当り前よ、そのために作ったんだから。この太さの鉄骨は生体兵器でも突破は難しい。格子で時間を稼いで精鋭や一般兵が上で待ち伏せる時間を作る。フォッシビバンはこれを破壊できる破壊力を持っていなかったのね」


 ユユキが得意げに説明しているとチヤが下を見てマホロを呼ぶ。


「兄貴、下。第七世代」

「追ってきたのか?」


落ちないように気を付けマホロは大型のエクエリを構えられるようにする。


「いや、どうもまだ生体兵器と戦ってるっぽい。こっちは見ていない」

「仕方ないか、ユユキさんたちもう少し休みたかったけど出発しよう。あと少しだから焦らず梯子をしっかりつかんで、さっきの運動能力見た感じだと第七世代は一分もあればここまで登ってくる」


 第七世代が来る前に縦穴を登ることを優先し、振り返ることのなかった遥か後ろを金属光沢のある外骨格の生体兵器が追う。

 その殻はとても硬く第七世代がちょっかいを出すもダメージを受けることのないまま垂直の壁を上り始めた。

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