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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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糸の結界 3

 何度目か、スプリンクラーの水が止まる。

 流れる水音の中ユユキたちは上につながる扉の前に立っていた。


「これ、もしかして開かないやつじゃないのか? ユユキさん」

「……しまった」

「いやどうすんの、ここ以外上に上がれる場所はないんでしょ? ここまで来て、やっぱり下のエレベーターを直して上に上がろうだなんて、兄貴も私も重たいエクエリ持って下まで降りるのは嫌だよ」


 ユユキの肩を掴んでいた白衣の女性が前に出る。


「大丈夫です、任せてください」


 扉は開かず白衣の女性が壁にあったパネルを工具ではずし中のケーブルをパネルから抜き取って、その端を携帯端末に取り付け操作し扉の電子制御を外す。

 すると力づくで開くようになりマホロたちが協力して扉をこじ開けた。


「開きましたな」

「やっと出られるのですかな」


 ユウゴとリクコウが扉の奥に見える縦穴のほうへと歩いていく。

 扉を開けるとすぐに吹き抜けとなっていて、床が抜け果てしない穴がそこには開いているように見える。

 よく見ると横に上に続く心もとない細い鉄板とパイプの階段が見えた。


「初めからこうやって開けてくれればもっと早く避難できたけど、ユユキさん」

「私の専門は生体兵器を調べることで、こういうことはできない。普通のやり方じゃないし。なんであなたはできたのよ」


 ナユタがおずおずとし携帯端末を指さす。


「非常時、閉じ込められた時の対処法ですよ? 年二回の消防訓練の時にやってました。ユユキ様はいつも忙しいとさぼられておられましたけども」


 チヤがユユキに振り替えると彼女はそっぽを向いていた。

 さておきマホロは縦穴のほうへと歩いていく。


「ここを上るんだな? ユユキさん」

「うへ、落ちたら下までノンストップだ。兄貴のエクエリ重くて階段が壊れたりしないよね」


 恐る恐るチヤも縦穴に向かい下を見る。

 最低限の照明しかついておらず廊下と比べて薄暗い暗い縦穴。

 いつまでも立ち止まってもいられず一歩足を踏み出してみれば、点検用の簡単なつくりの階段はかつんと心もとない音を立て反響する。


「暗くてよく下が見えない。なんかゴンゴン音がするけどこういうものなの? あとここ扉開けっ放しになるけどいいの?」

「閉められるなら閉めて頂戴、急ぎましょう。闘技場から上に行くのだってだいぶ手間取るだろうし」


 背後、通路の奥にサンドスピーカーの姿があった。


「背後、生体兵器!」


 ユウゴの声に皆振り返り、白衣の女性がユユキの背後に隠れる。

 先ほどであった時より一回りほど大きくなっておりチロチロ舌を出し体をくねらせゆっくりとユユキたちのほうへと向かってきていた。

 黄薔薇隊が各自狙ってエクエリを撃つが少し距離がありくねらせた体のどこにも当たらない。

 そのままサンドスピーカーは通路を曲がって姿を隠す。


「なにか食べて体力を回復しましたか?」

「消化早くない? おっさん方二人は足止めを。私と兄貴がデカいの撃ちこむ、この距離なら炸裂式雷撃弾を撃ってもこっちにダメージ来ないでしょ」


 ユウゴとリクコウの後ろで大型のエクエリを構えるチヤとマホロ。

 ナユタ素早くユユキを盾に身を隠す。


「イサリビさんたちは先に行くべきでは、ここに残っていると後ろは縦穴、逃げも隠れもできなくなる」

「そうします、ユウゴさんとリクコウさんはここであの生体兵器の討伐か撃退を。チヤ、俺らはユユキさんたちを連れて先に行く」


 非武装の二人を縦穴のほうに押しやりマホロたちが縦穴の階段に出たところで新たにユウゴが声を上げる。


「新たに生体兵器!」


 今さっきサンドスピーカーのあらわれた通路の向こうに、新たに現れた爬虫類型の生体兵器。

 生体兵器は鉤爪のついた二足の脚で立ち首を左右に振って周囲を警戒していた。


「第七世代……だ」

「あれが……」


 ユユキがぽつりとつぶやきマホロが超大型のエクエリを構え、離れたところにいる二人に伝える。


「ユウゴさん、リクコウさん。そいつ、第七世代だ!」

「ほう」「あれがですか!」


 第七世代。

 爬虫類の生体兵器は、茶色い体には頭の先から尻尾の中腹まで一対の白い色の帯が走っていた。

 首から背中の中ほどにかけて鬣が生えており、鱗が逆立った尻尾の先端には一際長く伸びた棘が6本、上を向いている。

 二本の体を支える脚は太く大きい、腕も後ろ脚ほどではないがかなりの太さがあり二足でも四足でも行動できる作りになっていた。


「さて原型は何か? イグアナかオオトカゲか」

「ぱっと見はトカゲの怪物ですな、恐竜に似通った部分もあるような? ただ二足で立てるというのが気になるところ」


 第七世代はマホロたちに向かって吠える。

 通路が震えた。

 動物的な威嚇の咆哮。

 それに反応しサンドスピーカーが壁を突き破り第七世代に食いつく。


 目の前で起きる生体兵器同士の潰しあい。

 ユユキが式典で披露しようとしていた第七世代の戦いが目の前で繰り広げられている。

 こういう時にエクエリでちょっかいを出すと二匹ともが襲ってくる場合があるためユウゴたちはエクエリを構え狙った状態のまま立ち尽くす。


「あの蛇の動き、一瞬で見えなかったのですがよく対処したものですね」

「現状、スペックでいうなら最強の生体兵器。動きを見せてもらって対処できるか考えましょう、無理そうならばさっさと引いて皆で地上に上がった方がいい。くれぐれもユウゴ殿は戦いを挑まぬように」


 構えていたエクエリを下ろすユウゴとリクコウ。


「どうして、撃たないの?」

「生体兵器同士の戦いにちょっかい出すとこっちが狙われるからです。お互いが戦っている間はこちらに襲ってきません。行きましょう、ここに居たらどちらかが襲ってくる」


 一瞬だけマホロたちのほうに首を向けたがすぐにサンドスピーカーに向き直る。

 狙われたサンドスピーカーは一瞬で蜷局を巻き迎え撃つように飛びかかり、第七世代の攻撃をかわしその体に巻き付き締め上げ首元に噛みつく。

 サンドスピーカーの牙は鬣で止まり毒は体に注入されない、そうわかると代わりに締め上げる力をより強くする。

 身動きを封じられもがき床に倒れる、第七世代。


 目で追うのがやっとな刹那の出来事を傍観する黄薔薇隊。

 我に返りマホロはユユキを連れ後ろへと下がる。


「……第七世代、くぅ、できれば問題が解決するまでそのまま寝ていてほしかった」

「捕獲してくれなんて無理ですよ、ユユキさん。全力で倒させます」


「こうなっては仕方ない、何よりも命の安全が大事だから。……倒してくれ」

「了解」


 ユユキは非常に苦しそうに決断を下し縦穴の階段を上がっていく。


「上がってきましたね、これでお守りをすることなく戦える」

「イサリビ嬢たちは先に上へ、それまでここは私たちが相手をするが時を見て我々も上に行く。いくらただの生体兵器とは言え、中型以上の生体兵器、大型のエクエリのサポートがなければ戦うのは辛いですな」


 顎髭をなぞりリクコウはエクエリを構えたまま後ろへと下がる。

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