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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 12

 すでに攻撃モーションに入った生体兵器に対して反撃はせず、口を開いた突撃を冷静に躱す。

 床に突っ伏すように躱した二人を通り越し速度は上がる、狙いは後方にいて反撃の用意をしようとしていた二人。

 後ろで様子を見ていたチヤとマホロには反撃できるわずかな時間があったが、二人並びエクエリを盾にしてユユキを守った。


「っく、このっ!」

「重い、がァ!」「きゃぁ!」


 開かれた口より長いエクエリで丸呑みにされることはなく、勢いの乗った体当たりに弾かれるように守った二人と守られたユユキは吹き飛び防火扉に体を打ち付ける。

 攻撃に失敗したサンドスピーカーは体を折り曲げて縮め、部屋の中に残してきた体のもとへと戻っていく。

 回避しエクエリでを構えなおしたユウゴとリクコウ、しかしすでに廊下にサンドスピーカーはいない。

 ここまでがわずか数秒の出来事で、サンドスピーカーの散らした水飛沫が遅れて床に落ちた。


「追撃が来ないようだ、部屋で改めて待ち構えているのか移動して油断したあたりで襲ってくるのか」

「一撃離脱、またですか。吃驚箱みたいな生体兵器は、戦い方がいやらしくて困りますね」


 部屋の入り口を警戒するユウゴたち、その背後で倒れていた3人がぶつけた個所をさすりながら起き上がった。

 強化繊維のない頭を打てば痛みが走る。

 3人同じような動きで頭をさすり、黄薔薇隊の二人は立ち上がってエクエリを構えなおす。


「チヤ、ユユキさん、二人ともけがは?」

「少し手首やられた、痛む。あんまし激しい戦闘はできないかも」

「眼鏡、眼鏡がない」


 ずり落ちていないか顔を触ったのち床を這うように探すユユキ。

 青い淵の眼鏡が廊下の隅に落ちていたのをチヤが拾い慌てているユユキへと渡す。


「あったよ眼鏡。あ、レンズにひびがはいっちゃってる」

「ありがとう、割れている程度なら何とか使える。今ここにないけど自室に予備があるし。そこは心配ないよ」


 少し待ってみてもサンドスピーカーが襲ってくる気配はなくユウゴが部屋の中を見に行く。

 レンズの状態を確認し水を拭いてかけなおす、眼鏡をかけ冷静になるユユキ。


「ユユキは眼鏡無いとどれくらい見えないの?」

「まったく。もともと視力が弱いから、これがなかったら自分の部屋もろくに歩けない。昔は今は普通にできる生活が一苦労だった、すごく近眼なんだ」


「王都の医療技術は高いんでしょ? 移植なり薬なりで何とかならないの?」

「一時的に視力が上がる薬があったけど、私の視力は生まれ持ったもので完治はしないそう」


 そういって激痛を伴う副作用のことを思い出し身を震わせる。

 部屋の中を覗いたユウゴがエクエリを下ろし首を振った、サンドスピーカーのいた部屋の天井には穴が開いていて生体兵器の姿はない。

 それを見て一同は警戒を少し緩めリクコウたちに警戒を任せ、チヤとマホロは大型のエクエリを下ろす。


「また逃げていきました、直接的な強さのない生体兵器ばかり……まぁじゃないと一般兵が捕獲なんてできないでしょうけども」

「ではさっさと上の階に行ってしまおう。ここで生体兵器の襲撃を待っていれば、ほかの生体兵器も合流してくる」


 そしてまたスプリンクラーから大量の水が撒かれている廊下を歩きだした。


――


 ユユキたちのいる階の下、生体兵器が捕らえられている部屋のある階の一番奥の部屋。

 睡眠薬入りのえさのおかげで今までおとなしくしていた生体兵器は、人が何らかの用事で入ってきたときの最低限用の防御策としてあった鉄格子を破壊して扉を押す。


 電子ロックが外れている扉は力任せに押すとゆっくりと開いていき、分厚い金属の扉で捉えられている最後の生体兵器が部屋から第七世代が抜けだす。

 頭の先から尻尾の先まで8メートルほどの中型の生体兵器はスプリンクラーから大量の水が撒かれ続けている周囲の様子を気にし4本の脚で破壊された隔壁を移動すると、進んだ先で今なお隔壁を破壊し続けていたフォードキャンサーを見つけた。


 初めて見る巨体に第七世代は動きを止める。


 フォードキャンサーは背後にいる生体兵器に気が付かず隔壁を破壊していた。

 二本の脚で立ち上がりねじ曲がった隔壁の陰から奥の通路を見る。

 最後の食事から何時間もたっていて逃げ出した生体兵器はどれも空腹、目の前にいる別の生体兵器は久々の食糧。

 襲い掛かるのに迷いはなかった。

 第七世代のために集められた生体兵器との観客のいない戦いの幕が上がる。


――


 消えていった二匹の生体兵器の再度の奇襲に警戒を強めながら黄薔薇隊とユユキはは階段までやってくる。

 付近に生体兵器の気配はあるもののサンドスピーカー以降、接敵することはなく無事にここまで来れた。

 階段にスプリンクラーはなく廊下との扉を閉めれば皆の強化繊維から垂れる水音以外の音はない。


「上に上がれば、マホロに教えたあの闘技場へと続いている場所へと続いている、そこから頑張って梯子を上れば地上だ」

「闘技場? ほんとここ何する場所なのさ?」


 ユユキの説明に水を絞るチヤが首をかしげた。

 このドームの管理者であるユユキと案内をされたマホロ以外このドームが本来何のための施設かを知らない。

 表向きは戦闘から生活にかけて最新技術を研究する近未来的な前衛的な建物に囲まれた変わった外見の建物。


「ここはそもそも第七世代を作るためのシェルター。数年前まで碌な資料が集まらず第三以下の生体兵器しか作れなかったが、つい最近失われたと思われたナナシキ家の生体兵器開発資料が出てきて急に研究に勢いがついたの。その結果、この空の入れ物だったシェルターに中身が入った。今回はすべてその発表のためのやられやくを集めた。相手はただの生体兵器のはずで、一般兵でもなんとかなると思っていたの」

「つまりイサリビ嬢は生体兵器のことを甘く見ていたと」


「本当にそんなつもりはなかった。でも、なるべく式典までここのことは知られないように。王都やお姉さまから私たちの研究に害をなす組織があるといわれていたから、下手に情報が広がるのを避けたかった。いまの時代、対人兵器など全くないし襲撃など受けたらひとたまりもないそのためシュトルムの縄張りに近い位置に作られた」


 もっともユユキがここに来るずっと前、シェルターの建設時はもっと北が災害種の縄張りで付近にはほかにもシェルターがあったのだが。


「精鋭もあなたたちがいれば他はいらないと思っていた」


 ユユキの言った通り、実際地下にいた生体兵器が逃げ出しても黄薔薇隊で対処ができるレベルのものしかいない。

 仮に問題が起きて生体兵器が同時に解き放たれれば生体兵器同士の争いや一般兵が逃げ込める細い通路がある、問題は何らかの誤作動で隔壁が閉まったということそれによって本来討伐できるはずの生体兵器と黄薔薇隊が戦うことができず、逃げられたはずの一般兵たちが孤立した。


「そもそもどうして第七世代なんて作ろうと思ったの?」

「前々からこのシェルターでは強化繊維や新薬などの開発は行われていた。しかし精鋭の実力に疑問が生まれた、現状このままではいずれ人の手に余る生体兵器が現れるかもしれないと。13年前の災害種、精鋭殺し、あれで第七世代の製作は決まった。3年前の拠点壊し、前線基地や資材回収班を狙い1000人近い犠牲者を出した。戦車や多人数では勝てない生体兵器の登場で、人や兵器の数ではどうにもならないと多くのものが理解しこのドームの建設が始まった。闘技場は第七世代の強さを存分に見せつける場所であり、式典はその出資者に完成を報告する場だった」


 今はもうかなわぬ夢と肩をがっくりと落としユユキは階段を上り始める。

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