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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 11

 部屋の反対側の壁を破壊し離れていくロイアルポイズン。

 黄薔薇隊はそれを追わずユユキに尋ねる。

 後ろで見ていたため避難に遅れ、横に飛んで逃げてきたマホロに抱きしめられるようにして床に倒れていたユユキは体を起こし眼鏡を拭いて水を払う。


「何だあれは、恐ろしい速度で傷が治ったぞ?」

「ああいう生体兵器なのか?」


 振り返れば部屋の外まで飛び散ったゲル状の毒の固まりが水に溶けて流れていく。

 ロイアルポイズンは離れていくがエクエリは下ろさずほかの生体兵器への警戒をする。

 ユユキは目を合わせず口をつづんでいたが小さな声で答えた。


「この部屋には様々な薬品が置いてあったが、あの効能はおそらく試験中の回復薬だ」


 ユユキは黄薔薇隊の後ろで見ていたため、ロイアルポイズンの傷が治っていく瞬間はしっかりとは見えていなかったが、この部屋にあるそんなことができる薬品の名を上げた。


「自然治癒能力を限界を超えてまでして上げる新薬。副作用として神経過敏、全身に激しい痛みが走るため、実用化のめどはたっていない。生体兵器に使うとあんなふうになるとは思わなかった、副作用とかどうなっているのか調べたいところだが……」


 そういって正しい方法とは別の使い方をされたユユキは身を震わす。

 濡れたからだで体を冷やしたと思ったマホロが上着を脱いで水を絞りユユキに羽織らせる。


「ありがとう、でもこれは脱がない方がいい生体兵器もまだいる危険だから」

「大丈夫ですよユユキさん、俺は後衛だから攻撃を受けることはそうそうない」


「そういう問題じゃない、危ないから。油断で怪我をする精鋭は多い、薔薇の部隊でもだ」

「現場で戦ってる俺が大丈夫だと思ってるから大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 ユユキは渡された制服をマホロに突っ返し、彼の後ろから大型のエクエリを下ろしてバッテリーの残量を確認していたチヤが顔をのぞかせた。


「兄貴も私もこう狭い建物の中だと戦いづらいから戦闘なら室内におびき出したいところ」


 大型のエクエリをゴツンと床に当ててチヤは鞄から水筒を取り出し口に含む。


「水、たくさん降ってくるけど飲んでないでしょ。休めるときに休んでいきなよ」


 チヤは水筒を差し出しそれを受け取ったユユキの手を見てチヤが声を上げた。


「手、血が出てるよ」

「傷が開いたか……」


 廃シェルターへ行った帰りに車外へ落ちたときに切った手のひら、包帯の巻かれていたその手が赤く染まっている。


「絆創膏あるよ、消毒液も」

「ありがとう、助かる」


 チヤが鞄から救急キットを取り出し包帯を外し新しいのを巻きなおす。


「どうします、追いますか? 隊長はあなたです」


 部屋の様子を覗いたユウゴの問いにマホロが首を振った。


「いや、一度地上に上がってしまおう。このままはユユキさんが風邪をひく」

「確かに。逃げた生体兵器をすべて倒すのに、彼女は私たちは戦う時に足を引っ張りますからね。先に安全な場所に送り届けるというのは同感です。それでイサリビさん、階段はどちらに」


 ユウゴの言葉にユユキは携帯端末で地下の地図を開き、それに合わせて休んでいたチヤたちも移動する準備をする。

 ユユキの案内で施設を階段へと向かって歩きだし、しばらくたちまたスプリンクラーが動き出す。

 すでに濡れることには慣れ誰もスプリンクラーのことは気にしない。

 通路は一定の間隔で防火扉が閉まっており扉を開ける際は十分に注意を払い少しづつ開けていく。


「そういえばこの階は、隔壁がないのですね」

「防火扉はある、けど自動で閉まるだけで鍵はかからない」


「そもそもここ地下何階でしたっけ」

「一つ上の階に上がったから、地下9階のはず」


 知らない地下の情報に肩をすくめるユウゴ、そこにマホロが疑問の声を上げる。


「ユユキさん。地下って15階じゃなかったか?」

「あの階より下は、生体兵器の研究製造をする施設。入り口も普通に発見できないように隠してあるし、人の力では破壊できない。ないとは思うが、悪い考えのやつがここを襲撃してもそこの存在だけは隠せるようになっている」


 第七世代を作り出したドームの最下層の研究施設。

 並べられた生き物の血と水槽のような巨大なフラスコ。

 そのフラスコの厚いガラスの壁を挟んで第七世代で目が合った製造時のことを思いだすユユキ。


「なんで兄貴がここのこと知ってるのさ、昨日初めて入れてもらったくせに」

「ここに降りてくるときユユキさんから聞いた、地下は15階まであってそれぞれで地上ではできない内緒な実験をしているって」


「内緒な実験ってなに?」


 ユユキに注目が集まる。

 一度黙り込むことを決めたがマホロたちの視線に負け口を開く。


「他言無用、で頼みたい。知られたらお姉さまが怒る。王都向けの美容品や嗜好品、精鋭向けの新薬、肉体強化や傷の再生。新たな食への探求、生体兵器や改造生物を使って……ん?」

「止まって」


 ユウゴが手をかざしユユキの話を止める。

 移動のため動きの邪魔になる大型のエクエリの銃口を上げ構えるチヤとマホロ。


「どこにいますかな?」

「すぐそこ右の奥の部屋に」


 ユウゴとリクコウが前に出て、壁沿いに移動し一番近くの防火扉へとユユキを移動させる。

 耳を澄ませるとスプリンクラーの水の中に物が倒れる音が混じっているのが聞こえた。

 音の発生源は階段へと向かうユユキたちの進行方向。


「部屋から出てきました」


 黄土色の体に赤い鎖模様の鱗に覆われた長い体が部屋から出てくる。

 大蛇の生体兵器、サンドスピーカー。

 チロチロと下を出し一瞬止まるとユウゴたちのほうを見て、黄色い目玉の瞳孔を縦長に細める。



「本当にピット器官というのは厄介である、さて来るぞ」

「今のはヤコブソン器官の気もしますが? まぁどうでもいいでしょう」


 狙いをつけ次第、体をくねらせ飛び掛かる。

 勢いで体中の鱗に着いた水をはじきたくさんの飛沫となった。

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