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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 6

 ガラスを破壊し檻の中へと入っていくブロックトード。

 檻の中にいた蚕はそれでも食事を止めることはない。


 蚕がブロックトードに食われている間に、ユユキは少しずつ腕を伸ばして落とした携帯端末を拾いあげる。

 電源は入っており、落とした程度で破損はしておらず防水のため壊れてもいない。

 十分助けを呼べる。

 声を出して生体兵器に気が付かなければだが。


 ――走れは数秒で出ていけるあの破壊された扉まで。しかしそこまで行くまでに死んでいる。


 絶体絶命、そんな状況にユユキは過去を思い出し笑った。

 大勢に囲まれ捕まったとき、助けに来てくれた双子。


 ――あんな偶然、そうあるものでもないか。


 意を決し深く息を吸うと携帯端末で連絡を取る。


「まだ地下、蚕の部屋、助けて!」


 つながったことを確認すると相手が誰だかわからずに力の限り叫んだ。

 助けが来なければ死ぬ、どのみち時間はない。

 ブロックトードが食事を止めユユキを見ると、咀嚼をしながらゆっくりと歩いてくる。


 立ち上がり駆け出すユユキ。

 逃げる場所は多くはなく、走る先はブロックトードのいないの反対側の檻。

 梯子を使って天井の扉からガラス張りの内側に潜り込むと、逃げるユユキに背中の肉を押し付け飛びつくブロックトード。

 分厚いガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が入り檻の中の葉が揺れた。

 先ほど一度ガラスを割っているため、どのくらいで壊れるかを学習し二度目は早く割られる。


 ユユキは葉をかき分け蚕の陰に隠れる、ユユキが触れても蚕は食事をやめることはなかった。

 そして耐えられずに割れて四散するガラス、それをかき分け檻にブロックトードが入ってくる。

 体当たりの際にユユキを見失っているようですこし周囲を見回していたが、やがてに存在を忘れたのか一番近くにいた蚕を食べ始めた。

 すでに自分を追っていないとわかり少し落ち着くと強化繊維の青い制服は目立つため、ゆっくりとユユキはできる限り蚕に身を寄せ周囲の葉をかき集め自分の体を隠す。


 ――助けは来るのだろうか、通路は塞がれ私自身も開けられないというのに。なんでチヤじゃなくてマホロに連絡したんだろ、普段突き放しておいて、都合のいい時だけ、助けを求めて。他がどうなっているかもわからないのに、ここへ来ることなんて……。


 突然、目の前でブロックトードが弾けた。

 息を吹きかけ蝋燭の火が消えるように体が消滅し、頭の一部の残して蒸発し残った部位が濡れた床に落ちる。


「ユユキさん! 無事ですか!?」


 叫び名を呼ぶ声があり、超大型のエクエリを背負いなおして駆け付けてくるマホロとチヤの姿があった。

 割れた檻の巨大な蚕に注意を向けながら歩いてくるリクコウ。

 ユユキは葉の中から顔を出し割れたガラスから通路へと戻る。

 無事な姿を見てチヤとマホロが駆け寄ってきて髪や制服に濡れて張り付いた葉を払って体を起こす。


「他の生体兵器は?」


 ちらりと蚕を見てユユキはマホロに質問するが水音にかき消され聞き取れなかったようでもう一度聞き返した。


「マホロ、生体兵器はどうなったの?」


 スプリンクラーのばら撒く大量の水音で生半可な声ではかき消されてしまう。


「他の生体兵器はどうなったの!」


 今度は水音に負けないようにユユキは大声を出しむせた。

 チヤが心配して声をかけるが水音でかき消されユユキには届かなかった、それでも彼女は手を差し出しユユキを立たせる。


「何匹かが天井に穴開けて上に行っちまったぞ! 後はわからねぇ、隔壁が閉まって確認ができない。来るとき思ったがここ結構な地下だよな? 上にも階があるように見えたぞ、隠し部屋か?」

「ここはドームの地下10階。ドームは地上と地下が分離されているけど、この上にも下にも階はある」


 新たな情報にマホロが目を見開く。


「ユユキさん、一言も聞いてないぞ、そんなこと!」

「上の階とかあるの? 」


「言ってない、この下はナナシキ家の情報をもとに再現し作った生体兵器の製造所。上の階は生体兵器を使った新薬の研究、先ほど見せた蚕のほかに何種類かの種類の生体兵器がいる。いったでしょう強化繊維は複数の生体兵器を材料にしている、あるいは人の役に立つ薬の材料となるその飼育施設、第七世代やそこにたどり着くまでの実験体、色々いるわ!」


 開き直ったように説明するユユキに唖然とする黄薔薇隊。

 ドームの情報を簡単に関係者以外に話せない、しかし緊急事態のためやむなくその存在を明かす。


 このシェルターの目的は生体兵器を調べより効果的な兵器を作る、あるいはその力を取り入れて戦闘員の生存性を高めること。

 王都が作ったシェルターで生体兵器を作っているなどと他のシェルターに知られれば、避難や批判を受け、人同士の争いの種になるかもしれない。

 だからこそ、できる限りこのことを知っている人間は少ない方がいい、そのためにユユキは地下の情報は当日まで誰にも話していなかった。


「それでここから出る方法は? 地下にいると壁、天井、床のどこから襲われてもおかしくないということだけわかったのですが」


 呆れた様子でリクコウが濡れた顔を拭きながら話に加わる。


「地上への出入口はエレベーターだけ、でもこの階から上へと向かえる階段がある。まずはそこに行こう、この階にはまだ生体兵器がいるはず」

「それはいいが、通路は隔壁で閉鎖されているのだが。これは何とかなるのか」


 ユユキは無言となる、少したって口を開いた。


「カードキーを受け付けてくれない、だからいまの私じゃ開けられない。システムの復旧を待つか、電子ロックを開錠できる技術者を探すか……でも、職員はみな退避しているし……」


 黄薔薇隊もユユキの様子を見てそれ以上聞かなかった。

 ここにいても始まらないとマホロたちがこの場を出ていこうとする、ユユキも後に続いた。

 壊れた扉から別の通路に出る。

 どこも火の気はないのにスプリンクラーは作動し続けていた。


「そういえば、一人足りないわね。どうしたの」


 ユユキが濡れて顔に張り付く髪をかき分け訪ねる。


 通路すべての扉が破壊されている、ブロックトードが手当たり次第に部屋の中を見て回ったのだろう、この階の職員の退避が済んでいてよかったとユユキは内心安堵する。


「ユウゴさんは第七世代の檻の前で待っててもらっているよ。逃げるなら合流したい。閉まった隔壁を開けてもらわないといけないけれど、どう」


 チヤが周囲を落ち着きなく警戒していながら答えた。

 ここは開けた土地でもなく好き勝手移動できる廃墟の町でもない、人のいるシェルターの地下通路。

 生体兵器をレールを敷いて移動させられる部屋ごと運べるほど巨大な通路で細いところでも大型の機材を運ぶには十分な幅がある。

 その壁の耐久度は廃墟とは比べ物にならないほどに高く、ちょっとやそっとじゃ破壊されないが、それをいとも簡単に破壊する生体兵器がすごい濃い密度に何匹もいた。

 しかもスプリンクラーの勢いが強く視界が少し悪くなっており、音に関しては水音で何も聞こえない。

 ブロックトードが破壊した扉を通り進めるところまで進む。


「リクコウさんは先行して生体兵器がいないかの確認と通路の確認。俺は生体兵器が居た際にリクコウさんの援護をする。チヤはユユキとともにいてくれ!」

「いや、私が援護する。兄貴はユユキを守ってて!」


 チヤが大型のエクエリを構えなおしマホロの指示に異議を唱える。


「おやいいのか?」

「その大きいやつで素早く対処するのは難しいでしょ、私に任せておいて」


 天井や壁に亀裂はないか周囲を警戒しながら進む。


「よろしく、ユユキさん」

「私にはたとえ嫌でも拒否することはできない、たとえ嫌でも」


 ユウゴと合流を目指して戻ってくるレールのある広い通路。

 点々と続く血の跡がスプリンクラーの水で流れていて、近くには落ちたエクエリや無線機、開きっぱなしの生体兵器の扉。


「ここにいた一般兵たちは生体兵器を追ったのか?」


 ユユキがマホロに聞こえるよう耳元に近づいて尋ねる。

 肯定する答えを待った。


「ユユキさんはどう思う?」


 背後を警戒するマホロが聞き返し、ユユキは黙り込む。

 ここに収監されていたブロックトードは外周分の隔壁を破壊できなかったようで、代わりに一般兵たちが逃げようとした内側の通路側の扉、今しがたマホロたちが通ってきた扉が破壊されていた。

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