油断、1
翌朝、早朝、雨が降るということがあって、空は厚い雲に覆われ暗く、基地の外は青薔薇隊以外誰もいなかった。
出撃の用意を整え蒼薔薇隊は駐車場に向かう。
借りている部屋から一番近い駐車場に2台のジープが止められていて一同はその車の前で止まった。
「車って、これかな?」
キーは車にさしっぱなしで、いつ誰でも好きな時に乗ることができた。
不用心に止めてあるがシェルター内で一般人が乗るにはあまりにも目立ち、一般兵も大体自分たちの車両で行動しているので盗まれるということは滅多にない。
蒼薔薇隊の荷物は昨日のうちに多少乗せておいたため、小型のエクエリと腰につけたカバン以外持ってはいない。
「ええ、これですね。トハル、えっと、それで乗り合わせは」
「トヨが俺とハシラを乗せて、後ろをシジマがムギハラを乗せて先を走れ」
トガネと乗ることにライカはやや不機嫌そうに返事をし、トガネとともにもう一台の車両のほうへと歩いていく。
「ライカちゃんと二人っきりー」
「ウザっ」
胸ポケットに入れた携帯端末と接続したヘットセットを付けると、通話状態にしてお互い連絡が取れるか確認を取る。
「では、短距離無線の確認をします。テステス、テステス」
「問題ない」
「聞こえている」
「とりま問題なし」
「無線越しでも美声だなー」
トヨが短距離無線用のヘットセットに異常がないか確認すると、各々通信で返事を返す。
通信機の確認が終わると各自、車に乗り込み自分の持ち物を再確認する。
エンジンをかけ計器に異常がないか調べるとシートベルトを締めた。
「準備よし、天気曇り」
「まだ雨は降らないでしょうか?」
「いつ降ってもおかしくない天気だけどな」
「それでは、これから生体兵器の殲滅に向かう」
「了解」
トヨの横の助手席に座るとトキハルは光を反射しない黒のエクエリを構えると出発を命じた。
基地を進みシェルターの外と中をつなぐ大扉へと向かった。
大扉の前には一般兵の姿があり軽く挨拶をすると大扉の外へと出る。
シェルターの外、廃墟の生える木々は季節の変わり目もあってシェルター同様、黄や赤、橙と暖色系に変わり始めていた。
国が壊れる前は街路樹だったであろうその木々の下、二台の車両はその落ち葉が降る中を進む。
「生体兵器、見えますか?」
トヨが周囲を警戒しているトキハルとトウジに話しかける。
「前線基地を越えてきた生体兵器がそう簡単にその辺に居ても困るけどな」
トヨの運転する車はライカの運転する車の後をついて行く。
長い時間と生体兵器の影響で大昔は舗装されていたであろう道路は、役割を果たすことはできなくなっていて時折車体が大きく揺れる。
「トハル、予定していた道がふさがっています、道順はどうしましょうか? というか通れる道ってどれですかね?」
目的の川の近くの市街地にきて二台の前には倒壊した建物が四車線の道をふさいでいた。
風のたまり場なのか飛ばされた落ち葉がその下で人が埋まれそうなほどの山のようになっている。
「とりあえず、テキトーに走っていけばいいんじゃねぇのか?」
「大きい道を探してそこから行け」
「わかりました」
瓦礫の山や建物の角など待ち伏せできそうな場所は、速度を落とし慎重に通り過ぎる。
「まず広いところに一匹おびき寄せて仕留めてみる。個人で倒せるなら手分けして、無理なら隊で一匹ずつおびき出して仕留めていく」
「わかりました」
『了解。トッキー、最初の一匹、戦闘時の陣形は横列でいいの?』
『隊をにーにーで分散させて挟み撃ち、トヨちゃんはどっかで待ち伏せでよくない、ですか?』
ジープに備え付けの無線からトガネとライカの声が聞こえる。
「シジマの案だ。トヨは別行動、隠れられるか登れそうな建物の上から仕留められるときに撃て、気づかれたら即離脱、近い誰かを援護見向かわせる。欲を張るな、いつも通りに戦え」
『了解』
「わかりました、そうします」
いつまでたっても変わり映えしない瓦礫と枯葉の中を走っていた二台のジープは、目的の場所へと近づき速度を落とし始めた。
「トハル、トウジ、着きました、目的地付近です」
「なんもないな」
「廃墟ですからね」
車が停まるとあらためて周囲を見回す。
すでにシェルターの砲台から支援攻撃ができる防衛圏内を出ている。
シェルターに近づく生体兵器を食い止める一般兵の守る安全圏内から離れている完全な敵地、いつどこで生体兵器に襲われるかわからない。
周囲を確認しすぐに生体兵器に襲われる心配がないことがわかると皆車両から降りる。
建物が破壊され辺りは完全な瓦礫の山。
ひび割れたアスファルトから背の高い草が伸びていて、放棄されて何十年たってもいまだに倒壊していないコンクリートの建物があちこちに残っている。
「川は? どこにもないようだが」
トウジが辺りを見回しトヨの指さす見えない川の方を向いて尋ねる。
「ここから500メートルほど先です。ここから先は歩きになります」
「歩き、なんでまたそんなところに?」
トウジの質問にトヨは答える。
「えっと、私も戦闘に参加するので運転手がいなくなる点、この車両が壊れると最悪撤退もできなくなる点、進むには問題はありませんが予期せぬところでの敵との接触時、倒壊していない建物を避けて走るため機動力が落ちる点です。この辺りは完全に道が潰れている個所がいくつかありましたので。人数が多かったら力押しで生体兵器を倒しながらで何とでもできるんですけどね」
「行くぞ」
先にジープを降りていたトキハルが、ライカの運転してきた方のジープの前で呼んでいる。
「あ、はい。待ってくださいすぐ行きます」
「今いく」
トキハルがライカとトガネと合流していた、タブレットを持ち地図でこの後の道順を確認している。
車を降りたトヨはすぐに皆と合流せずジープの後方へ回り込む、そして荷台で雨に濡れないように布をかぶせた自身のエクエリを取り出す。
「よいしょっと」
車の後部で荷物を降ろしトヨが持ち上げたのは、茶色とクリーム色の柱。
試験的に作られた大型のエクエリの試作改良型、弾種を増やし、威力も上がったそのエクエリは重く、そして長さ2メートルある長く大きな物。
通常の大型と違う型の為、戦闘車両に付けられている銃座に搭載はできない。
当然、従来の大型ものより重いためそれを持って長距離を走るのは困難、さらにその長さから狭いところの戦闘を苦手とする。
使用場所と方法がひどく限定されるエクエリ。
慣れた動作で肩にショルダーベルトをかけ、背の高い彼女より長い大型のエクエリを担ぐとトヨはトキハル達に合流する。
「すみません、お待たせしました」
「では行きましょうか、雨降ってくると怠いんでさっさと倒しちゃいましょう」
トヨの合流するとライカは黒ずんできた鈍色の空を見上げる。
「濡れ透け、大歓迎」
「サジョウ隊長。こいつ先輩、川に捨ててきてもいいですかね?」
ライカがトガネを指さし声を殺して睨みつける。
「こいつ先輩!?」
ライカは黒ずんだ曇天の空を見上げると自分の運転してきたジープの後部座席から荷物を下ろす。
5人は腰の鞄以外に用意した大きなリュックを背負う。
「もうだいぶ雲行き怪しいけどね」
「それでトヨちゃん、川はどっち?」
「あちらの大きな建物の向こうに橋が見えるはずですね」
トヨが指さすとライカとトガネが川のほうを見る。
「とりまあそこ向かえばいいのね」
「んじゃ、行きますか」
トヨを陣形の中心にトウジを先頭、トガネが後ろ、ライカとトキハルが左右に菱形の陣形を取って進む。
各自バラバラの方向を見ることでどの方角から生体兵器が襲ってきても即座に対応できるように進んでいる。
トヨが中心なのは彼女のエクエリは構えながら歩くのに適していないからで、戦闘時前後左右どの方向にも援護しやすいためだ。
五人は各自任された方向を警戒しながら廃墟を進む。




