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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 5

 時差発動式のメモリーカード。

 指定された時刻になると起動し中に入っているプログラムを起動させる。

 動きだしたメモリーカードの中身は、危険度の低い防衛機能の誤作動と危険度の高い防衛機能の機能不全、自壊のプログラムの三種。

 危険度の低い防衛機能のプログラムの作動で、地上階のすべてのシャッターや隔壁が閉まりすべての入り口が閉鎖される。

 危険度の高い防衛機能のプログラムの作動で、地下階の機密、危険個所のロックが外される。

 自壊プログラムでメモリーカードの中身および防衛機能のオンオフ機能が固定されたまま壊れた。



 地下では警報が鳴り響き、火災も起きていないのにスプリンクラーが水をまき続けていて床はあっという間にびしょぬれになる。

 天井から降り注ぐ水を気にも留めず黄薔薇隊は生体兵器のいる扉を見た。


「……メンテナンスのようではないですね、何事でしょう?」

「指定された時間より少し早いですからな」


 端末で時間を再確認するリクコウはユウゴの横に立つ。


「これで退屈せずにいられそうだ、さてどこの生体兵器が逃げるのか。できればここがいいのですがねぇ。第七世代と最初に戦うのはなかなか栄誉なことではないですか」

「卿はこれだから……そんなんだから後輩もおかしくなるのだろう。もっと保身に走り安全で確実な戦いをするべきではないのかな」


 異変に二丁の小型のエクエリを構えて目の前の分厚い扉を警戒するユウゴ。

 リクコウも端末をしまい小型のエクエリを構えた。


「後輩? ああ、いやいや、あの子はもともと朝顔隊から渡された時から攻撃的な子でしたよ。今の鈴蘭隊は私のいたころとは違いますし、彼女は私以上に無鉄砲だ」

「自分にも自覚があるのなら、もう少し自重すべきでは」


 重量のある大型と超大型を電源を入れ片膝立ちの体制で構え、ユウゴたちの後ろから生体兵器の閉じ込められている扉に狙いをつけるチヤとマホロ。


「兄貴、これって」

「倒していいといわれたけど、倒したら落ち込みそうだなぁ。無力化か捕獲はできないものか」


 警報が鳴り、見える範囲すべての廊下の隔壁、上と左右からせり出てくる三枚の扉が閉まり始めた。

 閉まっていく隔壁の向こうに困惑している一般兵の様子が見える。


「なんだ?」

「逃げ出した生体兵器が、建物内を勝手に歩かないようにするための隔離用の隔壁じゃない? 知らないけど」


 チヤはエクエリを構えたまま視界の両端の閉まっていく隔壁のことを話す。


「でもこれ閉められると、他のところで生体兵器が逃げたとき応援に行けないよね」

「確かに、どうするんだろうか。その辺説明されてないな」


 バガンッ。

 隔壁が閉まっていく廊下のどこからか音が響いてくる。

 周囲を確認すると湾曲する廊下の見えるぎりぎりの位置で、生体兵器の閉じ込められていたはずの扉が外れ倒れていた。

 一般兵たちが攻撃を開始するも相手は中型の生体兵器、数発程度では致命傷にはならないようでほかの扉を守っていた一般兵たちも駆け付け、一度崩れた戦列を立て直している。


「逃げたのは向こうのやつだな、ここは後回しにしてあいつを先に倒そう」


 そういって膝立ちから立ち上がるマホロ。


「ユウゴさん、ここは任せてもいいでしょうか?」

「どうぞ行ってきてください、ここは私が守っておきます」


 第七世代の扉をユウゴに任せ、小型のエクエリを持つリクコウを先頭に黄薔薇隊はゆっくりと閉まっていく隔壁のほうへ走っていく。

 彼らが隔壁を潜り抜けると廊下すべての隔壁は閉鎖された。



 マホロたち黄薔薇隊からそう離れていない位置、同じく地下。

 部屋の左右には巨大な蚕が音を立てて葉を食べ続けていた、こんな状態でも反応はなく黙々と葉を食べ続けている。

 内線で地上階に連絡を取ろうにも不通のまま、扉を開こうにもカードキーを受け付けない。


「何が起きているの?」


 もうすこしでエレベーターのある駐車場、押しても引いても何をしてもびくともしない扉の前でユユキは現在どのような事態なのか思案していた。

 天井から降り続けるスプリンクラーの水で濡れないように通路の端に避難していると携帯端末に連絡が入る。


「これは使えるのね」


 相手は地上階でメンテナンスの準備を進めていたナユタ。


『ユユキ様!! システムにエラーが、こちらのアクセスを受け付けません。外との連絡もできませんし、すべての出入り口が閉ざされ完全にドーム内は密室となってしまいました』


 声の様子から地上階でも混乱は起きていることを理解するユユキ。

 ドーム全体での異常事態に相当焦っているが防犯システムの誤作動だと思い、それよりも濡れた体が気になりユユキはそこまで気にしていなかった。

 濡れた眼鏡を拭きながらユユキは続ける。


「私の質問にだけ答えて。サーバーの再起動は?」

『サーバールームへの道がすべて防火シャッターで閉まり、暴徒隔離用隔壁でロックされています。カードキーでの管理者権限で強引に開くこともできず、現在手の打ちようが……』


「サーバールームに誰かいないの?」

『不審者の侵入で、その場で拘束。やたら暴れるのでその場にいた全員で、別の部屋に連れて行く最中でした』


「不審者?」


 メンテナンスの影響ではない何かで地下だけでなく地上でも異常が起きている、これがただの誤作動ではないとわかり最も重要なことを訪ねた。


「地下の様子は? 生体兵器は?」

『わかりません、監視カメラも機能を停止し私たちもこの部屋から出ることができない』


 連絡が来て地上の様子がわかり異変が地下だけでないとわかり、冷や汗をかく。


 防犯、監視、生体兵器の管理、各部署の仕事のデータはすべて別だが同じサーバーで管理している、メンテナンスの際トラブルが起きてもどれか一つだと思っていた。

 その中でも生体兵器の管理系統は、サーバーで最も厚くシステムで守られている。

 地下の様子は地下にいるユユキが自分の目で理解した。



 ユユキのいる通路の反対側、同じくロックされ開けることのできない隔壁が風船のごとく膨らむように内側に盛り上がってきている。

 やがて変形に耐え兼ね裂けるように割れる隔壁。

 戦闘系でない精鋭のユユキはエクエリを持っていない、そもそもシェルター間の移動をスムーズにするために精鋭の名前を与えられているだけで彼女は元は非戦闘員、戦う必要がないためだ。


「ブロックトード! 生体兵器も逃げだしている!」


 亀の甲羅のように見える盛り上がり変質した肉に、こびりついた血と突き刺さるように食い込む小型のエクエリ。

 血はスプリンクラーを浴びて床に流れていき、排水溝へと流れていく。

 頭が入るようになるとブロックトードはユユキを見据え、短い手足をばたつかせて通路の中に入ろうとする。


 ――死ぬかも? お姉さまになんて謝ればいいんだろ。


 距離はあるが逃げ場のない場所で、生体兵器を真正面から見てユユキの感想はそれだけだった。

 カガリによる洗脳の際、あるいはカガリに保護される前、死ぬかもしれないと思ったことは何度もあった。

 結果死を目の前にしてなんだまたかと思う程度。


 隔壁を割いて中にいるユユキを見つけて生体兵器が威嚇のため、体の半分くらいまで開く口を大きく広げ鳴き声を上げる。

 大きく開かれた口の中に見える今しがた食べたばかりの肉を見て顔をしかめた。

 自身の体が隔壁の亀裂に引っ掛かりいまだにユユキへ一歩も近づいてはこないが逃げ場はない。


 ――この様子だと、他の生体兵器も逃げている可能性がある。式典を目前にして、集めて生体兵器が逃げだすなんて。ああ、お姉さまに迷惑をかけてしまう。


 少し遅れて蚕の入っている檻の天井の扉が開く、餌である葉や成長し繭を作った際回収するための扉。

 今まではなかった葉が千切られる草の匂いが立ち込める。

 誰の操作もなく一人でに扉は開いたが、それでも蚕は黙々と葉を食べ続けていた。


 少し時間はかかったがブロックトードは扉を完全に破壊し室内へ入ってくる。

 当初はユユキを狙っていたが左右にユユキより質量のある蚕を見つけ、そちらへと興味は移った。

 蚕に倣いをつけ飛びつくと分厚い強化ガラスに阻まれ勢いよくぶつかり、衝撃で部屋が揺れる。


 部屋が揺れるほどの衝撃と音にびくりと身を震わせたが、下手に動かなければ狙われないとユユキは座り込んだまま時間がたつのを待った。

 強化ガラスの信頼性とブロックトードが天井の入り口から蚕の檻に入れば、生体兵器が破壊した扉から逃げることができる。

 ユユキに生き残る希望が出てきた。

 しかし、それも二度目の体当たりで強化ガラスにひびが入りユユキの希望を摘み取った。

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