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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 4

 ユユキが長々と地下で話している間、地上、ドームの最上階。

 皆モニターやタブレットに向き合い必要なデータのダウンロードと他部署への作業要請などをユユキの指示がなくても淡々と作業は進められている。


「メンテナンス開始時刻まで、あと60分です」

「地下から研究者、非戦闘員の避難を始めさせて。メンテナンス中はすべての部署間でのデータのやり取りができないから、その間データ整理を。部署によってはすることがなさそうなので、該当者は建物の清掃でもさせておくように連絡を。ドームのすべてのシステム管理プログラム、メンテナンスが定期とはいえ、毎回てんやわんやの一大行事ね」


 職員の一人が手を上げ指揮を執っている職員へと発言する。


「先日の彼の王都への搬送、遅れているようですが」

「ああ、さっき防壁で生体兵器との戦闘があって、車両護衛の一般兵がそちらへと加勢に行ったのだった。すぐに集めなおす、というか彼は駐車場にいるのかしら? 部屋に引きこもっていないの?」


「しっかり、荷物を運んでトラックで待機しているそうですよ」

「なんであれ、今日であの仕事中にムシャムシャと五月蠅いやつがいなくなるのはうれしい。これからは仕事がはかどるな」


 そんなことを話していると内線が鳴る。

 コーヒーを一口つけてから通話を取った職員が、直後とったことを後悔し溜息をつく。


「……噂をすれば彼です、どうしますか?」

「一応話を聞くわ、なんて言っている? 帰りたくないと? メンテナンス中に問題を起こされると困るから暴れるようなら、職員にゴム弾銃の許可を与えて。痣だらけになってもユユキ様の薬で王都に着く前に直してもらいましょう」


「早く出発しろと、なんか怒っているみたいです。五月蠅いんで応対変わってもらえませんか」

「二つの意味で却下、そのまま応対を続けて。一刻も早くおうちに帰りたいのかもね、放って置きなさい。戦闘があったばかり防壁周囲の安全を確保するまで出発はない、そう伝えておきなさい」


 内線を取った職員がそう伝えると、受話器の向こうから何を言っているのか聞き取れないような絶叫が聞こえてきた。

 職員は受話器を大きく放し周囲は何事かと注目が集まる。


「何なんですかね、ネット中毒者の発狂? ブルーライト浴びていないと息ができないのかも」

「縛って輸送車の荷台に閉じ込めておいてもらいましょう、メンテナンスと関係ない部署に武装し確保の要請を」


 他部署への連絡のため一度、音が拾えないほどの大声で怒鳴り続ける通話を切り通話をかけなおす。



 ドームの前に止まっている輸送車、そこに太いシルエットの男はたっている。

 ヒロノスケは落ち着きがなく輸送車の周りをうろうろし、時折立ち止まると頻繁に今しがた地面にたたきつけた携帯端末とこれから向かう防壁のほうを交互に見ていた。


「いつまでたっても装甲車の運転手はこないじゃないか、仮に一人で運転して防壁まで行っても防壁を開けてもらえない。いつになったら来るんだ、さっさとここを離れないといけないのに!」


 苛立ちが最高潮に達しヒロノスケは装甲車の車体を蹴り、すぐに後悔した。


「クソッ、クソッ!! あああああああああ!!」


 地面を転がりヒロノスケは叫ぶ。

 足を抱えのたうち回ったのち、彼は冷静さを取り戻しすっと立ち上がるとドームの中へと入っていく。


「このままじゃ間に合わない……何やってるんだクソが!」


 ヒロノスケの行く先はメンテナンスのあるサーバールーム。

 昨日取り付けたメモリーカードの回収。

 一目散にサーバールームに走っていくヒロノスケの姿を手が空いていた職員が見つける。

 今日この後、彼はシェルターを追い出される形で今日出ていくことを知っているので、彼の行く先に何の用があるのか怪しんだ。


「待て!」


 声を掛けられ振り返り一度足を止めるも、より急ぎ足でサーバールームへと歩き出す。

 一度静止するように言ったにもかかわらず、むしろ速度を上げ進み続けるヒロノスケ。


「止まれ、どこに行くつもりだ!」


 職員は連絡があり武装していたゴム弾銃を構え、後ろを振り返る。

 暴力ごとは一般兵の仕事、職員はこの後どうするのか単純にどうしたらいいのかわからなかった。

 誰かがいれば相談できたが応援がいないか確か、撃つかどうか迷っていると走るヒロノスケから返事があった。


「トイレだよ」


 職員は一瞬納得しゴム弾銃を下ろしたが、すぐ違和感に気が付き構えなおす。


「そっちにトイレはない! 止まれ!」


 走って追いつく速度だが抵抗されケガでもさせられたら困るので、威嚇のつもりで一発放つ。

 ゴム弾は壁と柱を何度も跳ね返り、発射主へと帰っていった。


 後ろから聞こえたゴム弾銃の発射音に驚き振り返って職員の自滅を知しり、追跡がないとわかると汗をぬぐいヒロノスケは一層速足でサーバールームへと向かった。

 しかし、数分もしないうちにサーバールームの手前ですでに関係者ではないヒロノスケは不審者として取り押さえられた。



 地下でモニターに映る生体兵器の説明を続けるユユキ。

 マホロ以外の黄薔薇隊の面々は床に座り携帯端末をいじり、端末に入っている電子書籍やゲームなどで時間を潰していた。


「イサリビ嬢の火はまだ消えませんか……」


 リクコウが携帯端末から目を放し顎髭を撫でながらマホロとユユキを見て呆れた表情を浮かべる。


 生体兵器の調査について、生きた生体兵器は情報の宝庫で、死んでいる生体兵器の数倍もの情報が手に入り、傷の再生、成長能力、抗体や耐性、適応能力などの調査ができるため、ほかのシェルターでも捕獲を試みているところはある。

 しかし防壁の中へ生きた生体兵器を連れ込むのは非常に危険で、特定危険種や災害種の発生の際の時間稼ぎの防波堤としての役割の前線基地へ高級な設備の多い生体兵器の調査施設を作るにはリスクが高いため、前線基地にそう簡単に作れるものはない。

 そんな悩みを気にもしないこのシェルターは、他のシェルターを介さず王都の使いを直接前線基地へと送り、多額の見返りで生体兵器の捕獲を提案する。

 小型ではなく中型以上という条件に9割以上の前線基地で断られたが、欲に駆られた指揮官もいるその結果がここに集められた生体兵器たちだと、そのような内容を延々と語っていたユユキ。


「兄貴が聞いてる限り、ずっと話し続ける気がするぜ。生体兵器の話、いつまで続くんだろ」


 ユユキの話にまったく興味を抱かないチヤが端末の操作を続けながらつぶやく。

 すこし離れた位置に通路をぐるっと遠回りをしてきた一般兵の姿が見える。

 彼らは別の扉の前で待機していてその部屋の中にも生体兵器がいることを意味していた。


「結局、この向こうにいる第七世代とかいう生体兵器の話を聞けていないのですが、そろそろ時間です。イサリビさんをここから出さないといけませんね」


 二人が動く気がないようなので仕方なくといった様子でユウゴが端末をしまい、ユユキのほうへと向かっていくと話に割って入る。


「失礼。そろそろ時間ですよ、イサリビさん。メンテナンスが始まればすべての扉が閉まるのでしょう、そろそろ出て行かれなくていいのですか?」


 ユウゴに言われユユキは我に返って携帯端末で時間を見ると、予想以上に時間が過ぎていることに驚き少しあわてる。

 マホロも時間を確認し残念そうな表情を浮かべたが、すぐ仕事へのやる気に切り替え置いておいたエクエリのもとへと向かう。


「時間ね、ありがとうございます。それじゃ、あとおねがいしますね。あ、……第七世代についてはまたあとで話すわ」


 そしてユユキは来た道を引き返していく。



 サーバールームではメンテナンスの準備が進んでいた。

 手順に従い順にシステムを落としていく工程で、隠されていたメモリーカードのデータが動き出す。

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