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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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幕が開く 1

 次の日、ドームの前に集められた大勢の一般兵と黄薔薇隊。

 皆、防壁の上から見て知っているものの、初めて入るシェルターの中に落ち着きがない。

 そんな様子を眺めるユユキ。


「精鋭は黄薔薇隊だけなのね」

「はい、外の警戒にほかの精鋭には待機を命じました。メンテナンス中も生体兵器の檻は開くことはありませんし、できるだけシェルターのことは最小限の人間だけが知ればいいとのことです。ですから式典当日入ることを許された薔薇の部隊である黄薔薇隊に」


「そうね、その辺はナユタに任せる、人の運用は私の専門外。私は先に行くわ」

「かしこまりました」


 ユユキと青い強化繊維の制服を着た同じ隊の白衣の女は、集まった一般兵たちを整列させタブレットを見ながら集めた人間が全員揃っているか確認していく。

 眼鏡をかけなおし、ふと思い出したことをナユタに尋ねる。


「報告したと思うけど、今日出ていく彼は」

「ああ、メンテナンスが始まる前には出ていきます。何か面倒ごとを増やされても手間ですし。昨日のうちにすでに荷物をまとめていたようで、時間になればすぐ王都へと送還できます」


「以外ね、時間いっぱいまで引きこもっていると思ったけども。まぁ、おかげで、マホロとまた一緒にあの部屋に行かなくて済む。ところで出た後の処遇はどうなるの?」

「シュゴウ様かツタウルシ様のどちらかの手で引き取られます。人にもよりますが、記憶の消去が行われる可能性もあるかと」


「あれ、後遺症残るんじゃなかった?」

「王都のナンバー10以内が二人もいますし、仕事の疲れで鬱になったと事実は捻じ曲げられることでしょう」


「あいも変わらず、王都には人権がないわ……金と権力でもみ消す非道の巣窟。あそこにいたことを思い出すだけで吐き気がする。それは別としてお姉さまたちにいろいろと迷惑をかけてしまう、再開は謝罪からか……やだなぁ」

「今のは私何も聞いていませんので、それにすべて彼のせいです、ユユキ様は悪くないですよ。きっとわかってくれますって」


「どうかしらね」

「さて、では私はこのまま集めた一般兵に今日のスケジュールの説明をしますので、ここで」


 説明をナユタに任せユユキはドームの中へと入ると、そのあとを当然のようについてくる金の薔薇の刺繍がある白い制服。

 昨日と違う点はドーム内で超大型のエクエリを担いでいること。


「表で仕事の話を聞いてきなさいよ」

「ユユキさんが話してくれれば住むだろ、それでこのドームのどこを守ればいいんだ?」


 高い天井と眩しい照明の上の階から流れる滝のような噴水のあるエントランスを通り抜け、広い廊下を突き進み続ける。


「下、生体兵器の隔離室」

「まだ生きているんだな、連れてきた生体兵器はみんな生きているのか?」


「ええ、死んでも解体して調査に行くけど生体兵器は生命力が強い。食事さえしっかりしていれば致命傷以外では死なない、戦ってるマホロならわかってるんじゃない傷の治りが早い」

「ああ、弱るのも数時間、追い詰めて消費した物資を補給して探し出した4日後には万全の状態で現れたこともあった。あれには驚いた」


 昨日上にあがるとき使ったエレベーターホールを通り抜け、たどり着いた細かい装飾の入った黒と金色の重厚な大きな扉。

 カードキーをかざしロックを開けると扉は自動で開く。


「何かここだけすごいな、なんだここ?」

「このドーム、本来は地下にある施設がメイン。地上階はただのシステム管理と研究成果を運び出しやすくするための施設が置いてあるだけ。行っておくけど地上5階、地下15階のこのドーム、ほとんどこの先にある物のためだけに作られているわ」


 黒と金の扉の先には緩やかな大理石の階段があり装飾の凝った赤いランプが照らしている。

 ユユキが階段を下り始めるとマホロも後に続く。


「ここだけ見るとまるで王都の高層市民の屋敷だな、ゴテゴテで目に見える一つ一つの物の情報量が多い」

「私も初めてここに来た時、この場所の目的がよくわからず口が閉じなかったものよ。でも、この先さらに驚くことになるわ」


 探し階段の先は暗闇。

 手探りで電源を探しユユキがライトをつける。


 ついたのは非常灯のみ。

 ぼんやりと照らされる広い空間、壁には飾られた美術品が並び酒の並べられたバーカウンターが何か所も見える。

 広い空間は中央へ行くにしたがって下り坂になっておりすり鉢状の大部屋。

 中央は大きくくりぬかれており、坂の途中にはその中央を向いた数百の柔らかそうな座席が並ぶ。


「なんじゃこりゃ」

「闘技場よ」


 マホロの疑問にユユキが即答する。


「闘技場? なんの……まさか、おいおい」

「もちろん生体兵器同士を戦わせるに決まっているじゃない。ここは生体兵器を調べ作り戦わせる娯楽シェルターなんだから。その初運用に式典が開かれる」


 天井にはいくつものシャンデリアのほかに巨大なモニターがどこの角度からでも見えるように、中央の大きな穴とも呼べる吹き抜けの真上にぶら下がっている。


「生体兵器がここに上がってきたらどうすんだよ」

「縦穴の途中にある丈夫な格子で隔離してある。見通しが悪くなるけど天井のモニターで闘技場内から撮影しストレスなく見れるし。格子に耐久限度はあるけど、もちろん破壊できる生体兵器を連れてはこない。それに、式典当日は今ある薔薇の精鋭が全員ここに集まるから問題はない」


「人を殺す化け物どもの殺し合いを見ようってか」

「王都のお偉い様方からすればただの娯楽だけども、私たちにも生体兵器の生態についてとてもいい資料が手に入る。360度どの角度からでも見ることのできるカメラで学習力の高さや治癒能力を見ることができるし、戦闘力のない私たちではシェルターの外で直にその強さを体感することはないからね」


 二人は外周を回り階段から反対側まで移動する。


「はえー、地下にこんなでっかい空間があったんだな。というか一度も使ってないのに綺麗だなここ」

「掃除はしてある、埃まみれにしていたらお姉さまに殺されるわ。それでこの上が、ビップルームになってる。色々目的があるだろうけども、一番はあの大きなモニターをちょうどしい視線の高さで見るためのもの、私たちが用があるのはこっちだけど」


 大きく迂回して歩きたどり着いたのは従業員用の通路。

 そしてその先には道路があった。


「表? に出たぞ?」

「地下への機材や生体兵器の搬入路よ、ここからエレベーターで下に降りるわ」


 道路横の細い歩道を歩いて、さらに歩き突き当りの扉の前で止まる。

 ボタンを押しベルの音が鳴って扉が開くと、扉の向こうは奥に長い空間。


「地下行きのエレベーターよ」

「こんな広いエレベーターあったんだな。人が乗るやつじゃねえな」


「地下に生体兵器を移送するとき車両ごとは入れるように作られたの、これ地下にしか行かないから」


 二人がエレベーター名に入ると背後からエンジン音が聞こえてくる。

 音に振り返るマホロ。


「なんか来たぞ、ユユキさん?」

「たぶんさっき表にいた一般兵たちよ。地下闘技場の存在は知らせるつもりはないから、外側を乗り物で移動してきたんでしょ」


 やってきた大型トラックにはユユキの言う通り、先ほどドーム前に集まっていた大勢の一般兵が乗っていた。


「ユユキさん、たしかこのシェルター乗り物で入っちゃいけないんじゃなかったっけか?」

「物を搬入する際は別よ、何事にも例外はあるわ。じゃないと食料とか日用品をドームや建物に届けられないじゃない、防壁で一般兵と運転変わって私たちがここまで運んでる。まぁ搬入路はこの通り地下通路だし見たことないもの当然だけどね」


 トラックを乗せ扉が閉まるとエレベーターは地下へと降下した。

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