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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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祭りの準備に、一つの影 6

 部屋に入ったところでユユキが振り返り扉の前で立ち止まるマホロ。

 彼女の部屋の中からは甘い芳香剤の匂いが漂う。


「ちょっと」

「なんだ?」


「なんで私の部屋に入ってくるの?」

「え?」


 ユユキの部屋は家具は白か黒でそろえられており、そこに並べられている小さな小物は色とりどり。

 その中で部屋の目立つ位置に飾られた額縁に入った汚れていて年季の入ったボロボロの本が異彩を放つ。

 今しがたの言葉も忘れ部屋に入っていこうとするマホロを彼女は力づく追い出す。


「もう帰っていいわ。お疲れ、一緒に来てくれて助かった、だからかえっていいわ防壁に戻りなさい」

「そっか、襲われないように護衛もしくは追い出す手伝いだったっけ」


 腰のカバンを外し床に置き上着を脱いでハンガーにかけると、ユユキは部屋の奥へと進んでいくとクローゼットを開け白衣にそでを通す。

 マホロは椅子に座り白衣を着たユユキを眺める。


「やっぱりユユキさんはそっちの方がしっくりだな、白が似合う。ところで風呂に入るんじゃなかったのか」

「まだいたの、部屋に入ってこないで。私、出てって言わなかった? 人を呼ぶわよ」


「俺を力づくで追い出せる人間居るのか? サボテンとか育ててるんだな」

「チヤがいるわ、呼び出せば来てくれる。サボテンは水を上げる程度が少ないから置いているだけ、水のあげ忘れでそうそう枯れることないし」


 小さな鉢植えの丸いサボテンを眺めるマホロとその横に立つユユキ。


「チヤを呼ぶのは反則だろう」

「それで、この後何するのあなたは? 部屋に二人きり。何をされようとひ弱な私はあなた相手に抵抗できないでしょうし、穏便に済ませるため一つだけなんでも言うことを聞くわ、さぁ、終わったら出ていってね」


 あきらめをつけユユキはシャツのボタンをはずしにかかると、席を立ち慌ててマホロが彼女の手を止める。

 白い肌に青の下着、慌てて止めようとするマホロの手を振り払い、むきになって強引にでもボタンをはずそうとした。


「待った待った、冗談冗談! そういうことじゃない、も少し話をしたかっただけ! ユユキさんをそこまで困らせる気はなかったって。水をくれ、ずっと喉乾いてたんだ。怖い怖い、目が荒んでる」

「わかった、レモン水でいい? 冷えているのはそれしかないから」


 マホロの頼みにボタンをはずすのをやめて、服の乱れたままユユキは小さな冷蔵庫へと向かい水の入ったピッチャーを取って冷蔵庫を閉め棚から蛍光色のカップを取る。


「飲んだら帰ってね」

「わかった、いや吃驚、ユユキさんがあんなことをするとは思わなかった」


「正直疲れてる、シャワー浴びたいからどのみち後で脱ぐ」


 扉が開き部屋にまた一人入ってきた。

 褐色肌の右目に傷のある女性。


「やっほー、ユユキ」


 突然の来訪者に驚くマホロ。


「チヤなんでここに!」

「兄貴は知らないだろうけど、私ここによく遊びに……ユユキ! 何されたの、大丈夫!?」

「強引に部屋に入ってきて私に掴みかかってきた」


 下手な演技をするユユキの乱れた姿を見てすべてを察したチヤは、鬼の形相でマホロへと向かっていく。


「兄貴……ついに、ごめん私もついていくべきだった」

「いや……誰も悪くないよ」

「俺はなにもしてねえ!」


 誤解したチヤに鋭い音を立ててひっぱたかれ、髪をわしづかみにされ部屋を出ていくマホロ。

 扉が閉まりカップとレモン水の入ったピッチャーを持ったまま一人残されるユユキ。


「やっと出ていった……。いると五月蠅いけどいなくなると静かね……何言ってんだか、まったく鬱陶しいやつね」


 扉を見つめぽつりとつぶやくと机に持っていたものを置き霧吹きでサボテンに水を上げる。



 その日の深夜、ドームのサーバールームに一つの影があった。

 彼はロックされた扉をカードキーで開き、姿勢を低くしてメインのコンピューターのある部屋まで進んでいく。

 何台ものクーラーで低温に保たれ冷え切った部屋は機材から漏れる赤や緑の点滅する光だらけの部屋。


「俺がこのシェルターのために貢献したことも忘れて、追い出すだと? ふざけんな、あの女、ガキの癖に調子に乗りやがって。たかが二度ミスしただけじゃないか何が悪いってんだ、人が死んでる? どうせ、下層市民から選んできたやつらだ、能力のない価値なんかないやつらだ、減ったならたせばいいじゃないか。王都なら人を集めるの簡単だろうが、ふざけやがって」


 苛立ちに任せ機材を蹴りつける男。

 足を押さえ鉄塊を蹴飛ばしたことにすぐ後悔する。


「こんなことになるんじゃないかと前々から作っていたこれがついに役に立つ時が来た。どうせ明日には俺はいないんだ、知ったことか。へっへっへ、俺を追い出したことを後悔すればいい、一人や二人どころじゃないお前のせいだ、お前のせいで人が死ぬ。生意気なお前のせいだ」


 電気も付けず暗がりの中、彼は独り言をつぶやきながらポケットから取り出したメモリーカードを、機材の影になる裏側に取り付けるとごちゃごちゃしている配線を集め覆い隠す。

 息を荒げ大粒の汗をぬぐい彼は笑う。


「王都に帰ったらここのことを広めてやる、生体兵器の研究といって生きた生体兵器を捕まえるために多くの犠牲を払って、禁止されている生体兵器の製造、同意なき新薬の人体実験、何も知らされず連れてこられずさんな管理でそこで犠牲になる者たち、ここでのこと全部ばらしてやる。おしまいだこのシェルターもあの生意気なやつも」


 作業を終え男は自室へと引き返していく。

 暗闇に男の笑いだけが響いた。

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