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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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次への鍵 11

 精鋭たちの乗った装甲車が前に出て盾となり生体兵器との戦闘が始まる。

 窓を開けて戦況を見ていたキサキはかつんと上から音がするのを聞いた。


「車、上! 誰かいる、誰か調べなさい、急いで!」


 キサキが声を上げている間に運転席の扉がひとりでに開き乗り込んでくる影。

 その影から延びる黒いナイフが突然のことで驚いていた運転手の首元に深く突き刺さり悲鳴を上げることなくいとも簡単に倒れ、影はその体を車外へと滑らせていく。


 ――殺した! いとも簡単に、ためらいもなく!


 美しいとまで思える動きで行われた行為に目を疑い、血を見て体の力が抜けその場にへたり込むと早まる鼓動を確かめるように胸に両手を当てながらユユキは影を見る。


「侵入者を拘束しなさい! 早く!」


 屋根にいた影は装甲車の横に降りた。

 影を追いかけるようにキサキとユユキが後部の覗き穴から外の様子をうかがう。

 装甲車を降りゴム弾銃を構え数人がかりで捉えようとする一般兵とはまるで動きが違い、影は銃口の向く先を見て小さな動きで捕縛用の網とゴム弾を躱す。

 かわりに黒い影の手にした黒い刀身はまっすぐに一般兵の体に吸い込まれていき首に綺麗な赤い一文字を描く。


 ――キサキは運転手が死んだことを理解していない。シェルターからほとんど出ないからだ、黒い影の狙いは赤毛の女……仲間。なんであれ、このままここにいるのはまずい。外に出たら殺されるかも、かといってここに残るのもまずい。


 鮮血を噴き倒れる仲間がやられるところを見てうろたえる一般兵、そこへ新たに黒い影が現れる。

 外では精鋭たちが集まってきた生体兵器と戦いキサキ達のことなどに気をかけている様子はない。

 ちらりと助手席に座らせた赤毛の女性と後ろに拘束されている男を見てユユキが姿勢を低くしたままキサキのそばへ寄ると外の様子を窺った。


「キサキ、こっちに」

「なに、引っ張らないで! 落ちる!」


 天窓からもう一つ黒い影が下りてくる。

 それに気づいたユユキが後部ドアを開け、窓から外の一般兵たちに指示を出しているキサキの腰のベルトを掴んで力任せに引っ張り外へと転がり落ちた。

 蔦がクッションになるも葉の裏にある棘で手のひらや腕を切りキサキが騒ぐ。


「痛い、何すんの! ばっかなんじゃない。あ、血が出てる! ちょっと怪我したじゃない!」

「あのままあそこにいたら殺される、わからなかったの?」


 二人の乗っていた装甲車は扉を開けたまま走り出す。

 すでに黒い影を捕まえようとしていた一般兵たちは全滅し、残った黒い影は装甲車の後部ドアから乗り込んでいく。


「いつまで倒れたいるの、さっさと起きなさい!」

「死んでる。危うく私たちも死ぬところだった」


 倒れている一般兵が目を開けたまま誰一人起きないことに気が付きキサキは悲鳴を上げてユユキのもとまで走ってくる。


「し、っし、しんでる!! 死んでるわ! ユユキ! みんな死んでいるの!」

「落ち着いて、もう彼らを殺した者たちは遠く離れていく装甲車の中、もうここにはいない。それよりあの装甲車のところまで、生体兵器が精鋭たちを突破してきたら武器を持っていない私たちも死んでしまう」


「人が死んでいるのよ! なんでそんなに冷静でいられるの!」

「私の生体兵器の研究ですでに何十人も死んでいる。こんな綺麗な状態の死体くらいなら私は平気だから、ほら座り込んでないで移動を、キッサ!」


 ユユキたちが乗ってきた装甲車の隣に止まっていた人工知能を積んだ装甲車へと非難した二人。

 後部座席は運び出した人工知能が転が名らに酔うにワイヤーで固定されていて人のはいるスペースはないため一人分の助手席に二人で座っていた。


「こんなところまで、彼らを助けに? 死んでしまうかもしれなかったのに、死ぬのが怖くないの? はよ帰らないと、また襲ってくるかも、はよ、はよ」

「人質は奪還したけど、このまま帰らず仕返しの復讐ってのは考えられる。まっすぐ人質を奪還しこのまま帰ってくれるのが御の字だけど、精鋭で人は対処できない次襲われたら私たちはなすすべなくやられる」


「こんなところまで追ってくるなんてどうかしてるわ。生体兵器もいるのに、精鋭も連れず自殺行為じゃない!」

「彼らにとってもともと防壁に守られていない廃シェルターは、少し危険なところに来たって認識程度なんじゃない。なんであれ王都の人間とはまた別の方向に価値観がぶれていることに違いはない」


 集まってくる生体兵器を明け方までかけて倒し、遺体を回収しシェルターへと帰還する。

 謎の襲撃者たちのことに怯えシェルターへと無事に帰りつくまで、終始キサキはユユキの腕を放さず震えていた。



 廃シェルターを出て無事目的のものを手に入れて帰ってきて、カガリからの指令が終わり自分の仕事に戻るため仮眠を少し取った後シェルターを離れようとするユユキ。

 防壁前の車両基地まで見送りに来たラフな格好のキサキは両手で缶ジュースを持ち、装甲車に荷物を載せるユユキの出立の準備を見守っている。


「大変だったわねユッキー、いろいろあって」

「王都から連れてきた一般兵のうち、無事に帰ってこれた一般兵は積み荷の運転をしていた一般兵一人だけ」


「それがどうかしたの? 精鋭はほぼ無傷だったからいいじゃない」

「自分は死にたくないくせに、他人の命は毛ほどの興味もないのねキサキは。ぶっ飛んでるわ」


「そもそも、生体兵器のいる場所に私たちが行く必要ってあったのか疑問よね?」

「前も言ったけどほかの人間じゃ信用できないから私たちを廃シェルターに向かわせたのよ、私はあなたの巻き添えで遠いところからわざわざ呼ばれたのだけど。まぁ自然に生きる生体兵器を多少観察できたからいいけど、後でログでも見るか。さぁ、準備できた。後は向こうまでの護衛と防壁の前で合流するだけね」


「もう帰るのユッキー? も少しいれば? 私このシェルターの滞在長いからシェルター案内するよ?」

「いや、私だって予定がある。そろそろ帰らないと。キサキ、自分の仕事はいいの?」


 一日と立たないうちにユユキは荷物をまとめシェルターを離れる用意をし、洗濯した強化繊維の制服にそでを通す。

 二人の手には廃シェルターの植物の棘で切った手のけがの治療、二人の怪我は同じ程度でユユキは絆創膏で何か所か治療しただけだが、キサキは大げさにも包帯まで巻いている。


「私は今日手に入れたあれを整備兵に使えるようにしてもらってから、それをお姉さまに届けるだけ。そしたらまたいつのも仕事に戻る」

「そ、ならもう命を狙われることもないわね。シェルターの中での仕事、私と会うことはもうあんまりないだろうけども頑張って、それじゃもう行くね、キッサ」


「連絡は入れるから、ユッキー」


 手を振り別れを告げると装甲車に乗り込む。

 そして、ユユキは自身が受け持つシェルターへと帰還していった。

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